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雨時々の空(乱文)

作者: 八咲 濁


光が入らないくらいに、しっかりと閉じられたカーテン。

目覚ましが鳴る前に目が覚め、枕元に置いたスマートフォンで今日の天気を確認する。

曇り。でも降水確率はちょっと高め。

こんな時は決まって雨が降るんだよな、と少し憂鬱になった。


誰もいないリビングで少し遅めの朝食を作っていると、部屋の空気がなんだか重たい。

トースターに入れたパンが焼き上がるまでの時間が、とても長く感じる。

誰に見せる訳でもないのに、ちょっとだけ気合の入ったクロックムッシュは、玉ねぎの生焼け具合が今の私のようだった。

食器を片付けても私に纏わりつく重たい空気は晴れず、特に行くところもないのにバイクに跨る。

2ヶ月以上動かしていなかったのにすんなりとかかったエンジンは、まるで私が来るのを待っていたかのようで少し笑える。

入れ違いに帰ってきた家族に何も告げず、私は宛のない旅に出た。


道は休日なのに嫌に空いていて、安いフルフェイスの隙間から入り込む風が妙に心地よい。

あれだけ重たく息苦しかった空気も、今この瞬間だけは息を大きく吸っても苦しくなく、何とも不思議な気持ちになった。

雨の香りがしてくる。

そしてその香りに惹かれるように、潮の香りが追いついてきた。


誰に言われるわけでもなく、気付けば私の前には海が広がっている。

バイクから降り、砂浜を歩くと、そこには誰もいなかった。

この海の向こうに色々な大陸があって、そこで名前の知らない人がそれぞれの営みを送っているというのに、ここには誰もいない。

鼠色に染まった空を映す水面が、まるで箱庭から逃げられないように囲むための装置のように感じた。

そこに広がるのは可能性でも世界でもなく、私たちは大きな何かに飼われているだけだ、という事実だけ。

そんな気がした。


半月が顔を出す中、冷え切った体で家に着いた私は、誰もいない部屋で


「ただいま」


と呟く。

返事はもちろん、どこにもなかった。


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