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「アルビレオ アルフェラッツです。失礼致します。」
ふぅー、何とか間に合った。
あの後、急いで執務室に向かったらまさかの床が水びだしで遠回りをしてきたのだ。さすがに疲れた。それに、朝から何も食べていないのでさすがにお腹がすく。ご丁寧にコルセットまでつけたお腹がグゥとなきそう。
「おぉ!よく来たね。久しぶりだ、アルビレオ。」
穏やかに微笑むお父様の表情に私のお腹に殺意がわくが気にしない。
「えぇ、お久しぶりです。陛下もお元気そうで何よりでございます。」
私もにこやかに返事をする。……お腹以外。
身内の中での挨拶として堅苦しいと思うかもしれないが私にとってはこれが普通だ。お父様はもっと簡単で良いと言っているけど無理です!てか、前世侍女でいきなりフラットにとか無理でしょ!
っと、危ない危ない。気を抜くと言葉遣いがおかしくなってしまう。
余談だが、私の素の言葉遣いがおかしいは姫様のせいだ。私の前で気を許してくれていたのは良いけど、そのせいで変な言葉まで覚えてしまった。「乙女ゲーム」とか「攻略対象者」とか意味が分からない言葉も多いが。
「急に呼び出して済まない。昼から視察に行く予定なんだ。その前に紹介しておかないと思ってね。」
お父様の後ろからひょこりと銀色がはみ出てくる。小さい……少年?
「この子は私の弟の息子……イプシロン公爵家の子息であるカイトスだ。」
「叔父様の?」
イプシロン公爵とは私の叔父だから、その息子となれば私の従姉弟のはずだ。しかし、今まで会ったことは無い。なのに何故?
「これから王城に住むことになる。仲良くしてやってくれ。」
いや、意味が分からない。
当の本人を見ると俯いていて顔が見えない。私より年下だとは思うんだけど……
「カイトス、もう戻って良いよ。」
お父様の合図で隣にいた護衛がカイトスを連れていく。すれ違いざまに目があった。顔に垂れた前髪の隙間から除く瞳は――王家の色である夜空だった。
「少しショックな話かもしれないが……聞いて欲しい。」
カイトスが出ていったことを確認すると静かに話し始めた。お父様の顔から微笑みが消える。
「先日、イプシロン公爵夫妻が亡くなった。」
「……はっ?」
慌てて口を押さえる。変な声が出てしまった。
叔父様は優しい人だ。子供である私にも良くしてくれて、会うとお菓子をくれた。奥方だって感じの良い人で、叔父様と仲が良かった。二人とも三十代後半くらいで健康そのものだったはず。
「馬車に乗っている時に魔獣に襲われたんだ。」
魔獣。昔から人々を襲う謎の生き物だ。その生態は未だに分からないことが多く、時折市街に現れては人を襲っていく。特に山が多いアルフェラッツでは魔獣の被害も多い。
「故意に起きた事件ではないかを確認するためにもまだ亡くなったことは発表していない。」
近年では魔獣を使役し、事故に見せかけて殺人を行うという事件が起きている。事件性がないかどうかを確認することは重要だろう。




