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「え……お父様って……」
「ん?あぁ、失礼しました。こちらが私の娘のタリタです。」
「タリタ コルニー と申しますわ!
未来の騎士団長ですの!」
どうやら、コルニー殿の娘さんだったらしい。
……いや、見た目と言うのは当てにならないわ。
愛くるしい大きな目も、サラサラなストレートの髪も、団長の、常に目を細めて、ボサボサの髪を掻きながら笑っている姿とは大違いだ。
でも、性格はコルニー殿に似たのかもしれない。未来の騎士団長……とか言っていたような?
「はははっ。タリタが俺を越すなんて百年早いぞ!」
「タリタも頑張るもん!いつかぜぇーったいお父様を越えて騎士団長になるんだから!」
呆気にとられている私たちを放って、何やら微笑ましいやり取りをしている。
「……すみません。驚きましたよね。
タリタは、ヴィランさんの娘で僕の五つ下です。小さい頃から僕が世話をしていて……」
「お世話してるのはタリタだもん!」
「あー はいはい。そうですね。ちょっとヴィランさんの方行っていましょうか。」
そう言われて駆けていくタリタはなんだかとても幼い。
「アルビー様とは大違いですね。」
「アクアともね。」
なんだか悲しくなってくる。いくら前世の記憶があるとはいえ、この歳の頃にはどう周囲を欺こうかを考えていた。
純粋無垢なタリタはそうならないで欲しい。
「タリタ嬢も剣を習っているのか?」
カイトスがトゥレイスに質問する。騎士団長になるとか言ってたものね。
「……はい。一応……。」
なんだろう?歯切れが悪い。女の子が剣を習っていることが世間的にはおかしいからかな?
「でも、……その、嗜み程度……とは言い難く……」
「?上手くできないのか?」
「いえ、違います。逆に彼女は……」
カンッ!
「はっはっはっはっ!前よりも強くなったではないか!」
「もちろん!練習したんだから!」
剣の打ち合う音と、野太い男の声。それらに似合わない甲高い女の子の声。
……嫌な予感が……
「だがっ!まだまだだな!せいぜい、新兵を越えられるくらいだ!」
「分かってる!お父様を超えるにはもっと練習が必要だもん。」
さっき、明るく挨拶してくれたタリタと、いつもゲナー伯爵と喧嘩ばかりしている、騎士団長(一応)が打ち合いをしている。
いや、どう考えてもおかしいでしょ。なんで普通に打ち合ってんの?八歳の女の子だよ?
「初めは驚きますよね。全く、どんな教育をしているんだか。あのバカは。」
いつの間にか隣に来ていたゲナー伯爵がため息をつく。
……教育とかの問題なのか?
「……騎士団の副団長が好きだから。」
「へっ?」
何やらゲナー伯爵が変なことを言っていた気がする。
「なんと?」
「タリタは、騎士団の副団長が好きなのですよ。だから、自分が団長になって仕事を減らしてあげるのだそうです。」
「……」
なんだろう。そのためにあんなに強くなるとは。なんかもう、怖い。
異次元の強さに声も出ない。前世の私でも勝てたかどうか……
「アルビー様……」
「どうしたの?」
なんだかアクアが遠い目をしている。驚いたのは分かるけど、大丈夫か?
「普通の……普通の女の子はどこにいるんでしょう…?」
「……それは知らない。」




