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「何だとぉ!?」
「そのままの通りですよ。次の陛下の視察には、我が魔術師団の優秀な団員がついて行くことになりましてねぇ。」
夏も過ぎ、秋の中頃に差し掛かったこの頃。少し肌寒く感じる空の下では激戦が繰り広げられていた。
「そんなの聞いていないぞ!」
「何処かの軍が役に立たなかったからではないですかァ?おっと、失礼。騎士団でしたね。」
はぁ。またこのやり取りだ。顔を合わせる度にやっている。
エルライ夫人の登場で、アクアの剣の指導の件は流れたけれど、まだ争いは続いている。いい加減迷惑だ。カイトスも困った顔をしている。
また、いつものパターンか。
「ゲナー伯爵、コルニー……」
「父上っ!」
私の呼び掛けに被せるように、遠くから声が聞こえてくる。
「トゥレイス!」
「父上っ!また、ヴィランさんと喧嘩しているのですか!」
トゥレイス と呼ばれた少年はゲナー伯爵の三番目の息子だ。歳は私より一つ上。
たまに練習に来ては、カイトスと剣の打ち合いをしたり、
二人の喧嘩の仲裁をしてくれる。
ちなみに、ヴィランさんとはコルニー殿のことだ。
ヴィランシス コルニー
やけに洒落た名前だとゲナー伯爵がいつも言っている。
「喧嘩ではありませんよ。こいつは喧嘩するほどの相手ではありませんし。」
「ヴィランさん、申し訳ありません。父上がまた余計なことを。」
「おい、トゥレイス。お前が私の味方をしないで誰が私の味方になるのです。」
「ははっ。息子はお前に似なくて良かったなぁ。」
まぁ、だいたいはゲナー伯爵の味方にはならないのだけれど。
「それより、トゥレイス。何の用ですか。ただ、私をいじめるために来たわけではないでしょう。」
「いじめとは人聞きの悪いですよ。魔導書を忘れていたでしょう。副団長殿が困っていましたよ。」
「あいつなんて、困らせておけば良いのですよ。私の部下なくせに、団員を味方につけやがって。」
魔術師副団長はゲナー伯爵に代わって団をまとめあげている苦労人だ。……騎士団の副団長も同じような感じだけど。
「カイトス様、アルビレオ様。申し訳ありませんでした。」
「いや、大丈夫だ。それよりも、今日は練習をしていかないのか?」
「カイトス様はお強いですから、私では相手にならないのでは?」
「バカを言え、お前の搦手はなかなか勝てないぞ。」
二人は仲が良い。カイトスも、騎士団長にしごかれている分、歳の近い人と打ち合いをするのは楽しいらしい。
「それでは行きま……」
「トゥレイス〜〜〜っ!」
二人が練習に向かおうとした時、叫び声と共に何かが突進してきた。
「タリタっ!」
ゴォォォッ!
派手なスライディングで何かがストップする。
タリタと呼ばれたのは小さい女の子だった。
「トゥレイスっ!なんで一緒に連れて行ってくれなかったの!」
女の子はトゥレイスの後ろに回ったかと思ったら、背中をポカポカと殴り始めた。
「タリタこそ、なんでここに来ているんですか!」
「執事から聞いたの!ねぇ、なんで教えてくれなかったの?私も一緒に行きたいって言ったよね?」
「イタッ ……連れて行けるわけがないでしょう。
カイトス様、アルビレオ様、申し訳ありま……」
「おおっ!タリタ!よく来たなぁ!」
トゥレイスの謝罪を遮ってコルニー殿がタリタ に声をかける。
「お父様ぁッ!」
「「「えっ?」」」
ゴツイ騎士団長と幼いタリタを見て、私を含む、カイトス、アクアの声が重なった。




