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「気づいてて、何も言わなかったんですか。」
「ええ。言ったところで、憶測でしかないもの。」
アクアはこう見えて正義感が強い。だからこそ、なぜ言わなかったのかが疑問なのだう。
しかし、私は聖人では無い。この国の為……いや、“ 私の思うこの国の未来”の為にしか行動はしない。余計なことに巻き込まれるのはごめんだ。
「スクルプトリース侯爵は外交でいろんなところに行っているけれど、主に南部や西部の国に行っているから葬儀の特徴なんて知らないはず。東洋の国とは国交も少ないしね。」
「……」
本来、侯爵が東洋の文化を知っているなどおかしなことなのだ。東洋について書かれている書物は、戦争後の百年の間に禁書として燃やされてしまったから。なのに何故知っていたのか。
「でも一つだけ、東洋の国に行ったことがある人物がいるわ。
キュグニー伯爵家よ。」
現在のキュグニー伯はもちろん行ったことは無い。しかし、百年前の武功を立てて貴族になったばかりの当時のキュグニー伯は東洋の国に一年ほど滞在していた。当時の書物が残っていたとしてもおかしくはない。
更に、キュグニー伯爵家が貿易を行っている国には、東洋の国に近い国もある。それ経由で知っていて教えた可能性もある。
「ですが、何故教える必要があったのでしょう?」
「それが……分からないのよ。」
現在、スクルプトリース侯爵に菊の花のことを教えた人物として有力なのはキュグニー伯爵だが、それならば動機は何だったのか。
「もう少し、調べてみる必要があるわね。」
せっかく、シェアト様とも交友を深めたのだから。
「……そうですか。」
アクアが悲しそうな顔をする。どうしたのだろう?
「アルビー様は、“ 泣けるように”なってしまったのですね。」
「……」
カイトスの時に言われた『泣けるようになったのですね』とは似ても似つかぬ言葉。
「そうね……」
私は偽ることに罪悪感を感じていない。――シェアト様と違って。
偽りの私こそ本当の私であり、演じることこそ、私の生きる意味だ。
「優しさは偽り、愛とは幻想。美しい花にも毒があるならば
その蜜を吸った蝶だって毒を持つのではないかしら?」
私の望みなど、とっくに決まっている。
――姫様の願いを叶えること。
姫様が願うのならば
この国だって壊してみせる。
まぁ、姫様が願ったのはこの国を守ることだが。
目的の為ならば、手段を選んではいられない。この国の毒を排除する以上、毒をその身に受けることさえ厭わない。
表情も、振る舞いも、言葉も、優しさも、全て
姫様のものだ。
だけどどうしてだろう。
『フィル……どうか……どうかっ……貴方だけは……あなたは……!
―――――。』
姫様の最期の願いが思い出せない。




