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「はぁ。疲れましたね。」
あの後、シェアト様が落ち着いた後にそれぞれの部屋に戻って、朝一番で王城に帰ってきた。
『昨日は申し訳ありませんでした。
でも……少し気分が軽くなりました。』
ありがとうございます。
そう言って微笑んだ彼女の目は赤く腫れていて、力なさそうな声はスッキリとしていた。
「まさか、カイトス様があんなに怒るとは。」
王城に帰ってきて、一番に怒ったのは私の義弟、カイトスだった。いや、友達の家に一泊しただけなんだけど……
それでも、お父様にも注意されたし、王女って面倒くさい。
「まぁ、問題も解決したし結果的には良かったわね。」
私の言葉にアクアが眉を寄せる。
「最初からそれが狙いですか。」
「どうかしら?」
泊まることを予想していたわけではないけれど、渋滞が発生したと聞いて、スクルプトリース侯爵家に宿泊するように誘導はした。
家に行った際に気になったことがあったから。
「それで、頼んでいたことは調べてくれた?」
「はい。……でも、なんで紅茶の銘柄なんて調べるんですか?」
アクアまとめてもらったスクルプトリース侯爵家の紅茶の銘柄表。……やっぱり。私の読みは当たっていたようだ。
「ハーブティーもいくらかあったようね。」
「はい。それが何か?」
「見て気づくことはない?」
真剣に表と向き合うアクア。うーん と唸っている。
「ないのよ。」
「何がです?」
「カモミールティーが。」
呆気に取られたように口を空けている。なんとマヌケな顔だろう。
「カモミールって、無いとおかしいのですか?」
「ええ。」
別に、普通の家なら無くてもおかしくはないだろう。しかし、あの家に無いのはおかしいのだ。
「庭園に何が生えていたか、覚えている?」
「はっ?……えっと、あの不思議な……エキナセアに、コスモス、ダリア、マーガレット
……カモミール。」
ようやく気づいたようだ。
「庭園にカモミールがあるのに、それを飲まないなんて、おかしいと思わない?」
「いや…でも、ただ単純に好きではないだけかもしれませんし。」
「そうね。エキナセアも、ハーブティーにすることはできるけど、飲んだ形跡はない。
それでも……飾る花すらも、庭園から採らないなんて違和感はない?」
そう、スクルプトリース侯爵家に飾られていた花は、全て庭園には咲いていないものだった。あんなに立派な庭園があるのに、わざわざ花を買うなんておかしすぎる。
「でも……それならなんで……」
「もうひとつ、違和感があったの。シェアト様の話では、侯爵が気づく前に、追い出されてしまったと。でも、全く
取り合わないなんて変ではないかしら?」
「確かに……でもならなんで……」
「触れられなかったのよ。あの花に。」
「はっ?」
エキナセア、カモミール、コスモス、ダリア、マーガレット。これらの花にはある特徴がある。
全て同じ種類の花なのだ。
キク科に分類される花には、稀に副作用にかかる人がいる。アレルギーというらしい。詳しいことは知らないが、侯爵はきっとキク科の花にアレルギーがあるのだろう。
「それなら尚更なんで庭園にその花を言えるのですか?」
そう、問題はそこだ。わざと植えていたのなら、庭師や使用人達の謀反を疑ったが、忠誠心は強いようだった。おそらくは侯爵自身が望んで植えたのだろう。
「これは憶測でしかないけれど……
遠い東洋の国では、人が亡くなった時に、キク科の花を供えるらしいわ。」
「それって……」
もし、このことを侯爵が知っていたのなら。侯爵が自身の危険を気にせずに、ただ、自分の夫のためにその花を供えていたのなら。
「この世はなんて残酷なのでしょうね。」
自分の夫のために植えた花を、娘が自分の為にと摘んでくる。しかし、自分はその花に触れることができない。母親は娘の好意を無下にしないため、気づかないふりをする。
母の為にと摘んだ花は、母が触れられない花で。
娘の為にと気づかないふりをした行為は、娘を傷つけた。
相手の為を思った行為も、相手に伝わらなければ“優しさ ”にはならない。
――これは、不器用な母娘の物語だった。




