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だからだ。私が“ 心優しき令嬢”を“ 淑女の鏡”を演じるようになったのは。


誰でも良い。私を見て欲しかった。私は孤独じゃないって思いたかった。



そして、たくさんの人に“ 優しい”って思われて、“ 完璧な淑女”になれば、お母様も褒めてくれると思った。


お母様が家になかなか帰って来ないのは私が“ いい子”でないからで、私が“ いい子”になったらお母様は帰って来ると。



だけど……結局は帰って来なかった。たまに帰って来ることはあるが、大した話もせずに行ってしまう。


本当は分かっていた。女侯爵という異質な地位がどれだけ危ういものなのか。お母様は私に構っている暇なんてないことだって、本当は。


それでも……帰って来ると、いつか本当の愛が分かるのだと、信じたかった。



それなのに……アルビレオ様に会ってその考えが否定されてしまった。


アルビレオ様に私は何もしていない。相談に乗ることも、手を差し伸べることも。

当然だ。彼女は王女であり、私なんかの偽の“ 優しさ”など必要としない。


それでも、アルビレオ様は私に対して優しかった。私が触れてほしくないことに気づいて、見て見ぬふりをしていたことを私は知っている。用意されているお菓子が私の好みに合わせたものだということも。


私に見返りを求めずに彼女は優しくしてくれた。きっと彼女のような“ 優しさ”こそ本物なのだろう。



それなら?

私はお母様に対して“ 優しく”なかった。“ いい子”ではなかった。それはアルビレオ様も同じだ。それでも、彼女は優しくしてくれて、お母様は私を愛してはくれなかった。



――初めから気づいていたはずだった。

最後に花を握りつぶしたあの時から。お母様は私のことをそもそも見ていないのだと。


気付かないふりして、無様に抗って、その先に得たものは……強い喪失感だった。




アルビレオ様が家にいらっしゃるという日、お母様は帰ってきた。


あぁ、やっぱり。お母様は私なんかより、貴族としての地位の方が大事なんだ。


我ながら酷いことを考えていると思う。そもそも、大事な領民の命と、血が繋がってるだけの娘など、比べるまでもなかったのだ。


そして、アルビレオ様が去ったあとはすぐに家を出ていった。私のことなど、見向きもせずに……



「あぁぁぁ……あっ……」


勢いよく流れていた涙が落ち着いていく。泣き喚いたにしては冷えていた頭が更に冷えていく。


そうか、私は



――見て欲しかったんだ。




認められなくても良い。理解されなくてもいい。それでも、私の思いを聞いて、寂しさに、疲労に、努力に、気づいて欲しかった。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……」






お母様。


わたくしは字がかけるようになりました。


刺しゅうもできるようになりました。


ピアノは「じょうず」だとほめられたけど、おうたはちょつと苦手です。


背も、とても大きくなりました。体重も増えてしまったのは乗馬をするので大丈夫です。


新しく入った使用人に、お気に入りの場所を案内しました。屋根裏は私の秘密基地ですよ。


茶会で、転んでしまった子に手を差し伸べたら、「優しいね」と言われたのですよ。お礼に、綺麗な宝石を頂きました。


礼儀作法の先生に、「もう、教えることはありません」と言われました。これでどこに行っても恥ずかしくない淑女です。




本当は


お母様と一緒に勉強したかった。


一緒に刺繍をしたかった。


お母様のピアノで歌いたかった。


一緒に馬に乗りたかった。


秘密基地はお母様に最初に教えたかった。


茶会はお母様と一緒に行きたかった。


礼儀作法は、真っ先にお母様に褒めて欲しかった。




偉いねって、頑張ったねって、抱きしめて欲しかった。




だけど……それが無理なのはわかってるから。


私は“ いい子”だから、それを我慢できます。一人でなんでもできます。


だから……


もう、迷惑をかけないから


もう、一人でも大丈夫だから


お母様の役にたてるから



――私を見て







庭に咲いているエキナセアの花。あれは私が最後に握りつぶした花だった。

唯一、お母様に見せることができて、届かなかった花。悲しいはずなのに、何故だか見てしまう。そんな花をアルビレオ様は綺麗だと言ってくれた。


あの時、受け取って貰えなかった花を彼女は綺麗と言って愛でてくれた。



――私を見てくれた気がしたんだ。

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