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「アルビレオ様はやっぱり優しいですね。こんな私でも救おうとしてくれるなんて。」
そう言って彼女は笑う。涙を一筋、流しながら。
「私が誰かを救えていても、その想いが嘘であることは変わりません。私は……優しくなんかない。」
嘘だ。何も思っていない訳じゃない。貴方は苦しんでる。偽ることに罪悪感を抱き、笑うことに疲れている。
――それができている。
「私には優しさを偽るしかないんです。演じることで誰かのためになるならば、私は喜んで笑います。それが私の役目だから。」
違う。それは貴方の役目じゃない。貴方がそれを背負う必要はない。
――お願い、もう無理して偽らないで。
泣いたっていいんだよ。怒ったっていいんだよ。疲れたら休んで、大変だったら周りを頼ってよ。
自分らしさ。そんなのわかんなくったっていい。なりたい自分を演じたっていい。 誰にも言えないことは隠したっていいから。必ずしも素直であるようにしなくてもいいから。
思うように生きてよ。
好きなように振舞ってよ。
自分のために演じてよ。
誰よりも先に、自分のことを認めてよ。
――もう、それができない私の代わりに
「……アルビレオ様?」
「……ごめん……なさい。」
笑っていた彼女の顔が崩れる。驚きと驚愕を隠せない表情。
……なんでだろう。なんで……私が泣いてるのよ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!」
一度出た涙は止まらない。唸り声と共に次から次へと溢れ出していく。
「ごめんなさいっ!貴方が苦しんでいたことに気づかなくて。貴方が何を抱えているのかも知らないで、勝手なことばかり言って。
結局はまた、偽らせただけじゃないっ!」
止まらない懺悔の数々。これじゃあカイトスの時とまるで同じだ。私が勝手に偉そうなことを言って、暴走して。ほんとバカみたい。
「アルビレオさ……」
「それでもっ!それでも それでも それでもっ!
……お願いだからさ、もう無理して笑わないでよ
認められたいなら私が認めるから。貴方が頑張ったことも、疲れたことも、嫌だったことも全部。」
――無理している貴方を見ると苦しいんだ。
“ 優しさ”ではない、私の言葉。後悔と懺悔とエゴと、分からないくらいに感情が詰まりきったこの言葉でもほら、
「……なん……でっ……」
――伝わるから
「どうして、見捨てないんですか?私は……優しくなんてないし、酷いこともたくさん言ったのに。なんで……」
それは……
――私に似ていたから
「貴方が“ 優しい”から。」
本音を隠して、相手に都合のいい言葉を被せて、そうやってできた空っぽの言葉だけど。
そんな言葉に救われる人間は愚かだろうか?
「ぅわぁぁぁぁぁぁっっっ!
なんで!どうして!私は優しくなんかないっ!
私は“いい子 ”なんかじゃないっ!
だからっ だから あぁぁぁぁぁぁっっっ!」
何かの栓が外れたように泣き出す。止まらない涙を流す彼女の顔にはもう、仮面は無かった。
「やめてよ。優しくしないでよ。私にはその権利がないんだからっ!希望を持たせないでよっ!」
――ねぇ、貴方は何を抱えているの?
幼い彼女を歪めてしまったのはきっと……
いや、やめておこう。推測で話すことではない。
「ぅわぁぁぁぁぁぁっっっ!」
幼い子供のように泣き喚く姿は今までの彼女からは想像もつかないだろう。だけど……子供らしくていいじゃないか。
貴方は演じる必要はない。思うように生きて。
そして……その果てに、私の思いを知ったら
全てが私の思惑通りだったと知っても
許さなくてもいい、怒ったっていいから
どうか叶えて




