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「は……?何を……言ってるのですか?」
シェアト様の顔から笑顔が消える。動揺を引き出せた。
「聞こえなかったかしら?あなたはやっぱり優しい と言ったのよ。」
彼女が何を思おうが、私をどう思っていようが、私には関係ない。彼女が優しいのは本当だから。
「話しを聞いていたんですよね?私は優しくなんかない。励ます言葉も、差し出した手も全部嘘!内心では関係ないって思って、自分の利益のためだけに人の感情も利用した。アルビレオ様の茶会の誘いを受けたのだって、全部王女である貴方を利用しようとしたから!」
そうだね、そうなのかもしれない。利益を求め、近づいてくる人は何人も見てきた。実際、私もそうだし。貼り付けた笑顔の裏で、何を思っているのかなんて分からない。だけど――
「そんなこと、誰だって同じではないかしら?」
「……え……っ?」
人の心は読めない以上、誰だって簡単に嘘がつける。自分の感情、誰かへの思い、行動、思考、全てが偽れる。
貴族だけではない、人間とはそういう生き物だ。誰と関係を持つか、どう振る舞うか、どう生きていくか、全てを計算した上で、なりたい自分を演じる。
「身内にも自分の本当を隠して、いつしか自分でも分からなくなって、それでも演じて、騙して、そうやって世界は成り立っている。」
そこに夢のような正直さなんてないかもしれない。
誰かに差し出した手は、優しさだけでできていないだろう。同情、保身、下心、様々な気持ちが混ざりあってできている。
見せかけだと言うのならそうだ。救いがないと思うかもしれない。でも、そのハリボテの“ 優しさ”が誰かを救うかもしれない。
「私は貴方の心を読める訳では無いわ。だから、貴方と話せて楽しかったし、嬉しかった。――優しいと思った。」
「……」
彼女に相談をした令嬢は少しでも心が軽くなっただろう。転んでしまった下級貴族の令嬢は差し出された手が神の手だとでも思ったかもしれない。
「ねぇ、貴方は何の利益をもとめるの?」
「はっ……?」
「貴族として、外面を良くすることは家の利益に繋がるわ。だけどどうして“ 優しい”と思われたかったの?」
私は分からないのだ。どうして彼女が苦しくなるほどに自分を偽って、“ 優しい令嬢”を演じようとするのかが。
私が“ 悪役”を演じたように、侯爵家の利益を考えるなら“ 優しい令嬢”でなくても良かったはずだ。
「どうして?」
「それは……」
悩んでいるのか迷ったように下を向いている。
あくまでも予想でしかないが、『家の利益のため』というのは嘘だと思う。何か願いがあるのならば私に言わないのもおかしい。何より、自分の感情を直接私に伝えたのだ。――人は、大事なことほど人に伝えられないから。
「私は……認められたかったのです。」
「認められたかった?」
「はい。……馬鹿げてますよね。承認欲求を拗らせて、結局何も残んなくて……。それでも、認められたかったんです。私は頑張ってるって。」
――誰でも良かったから
それが彼女の思いだった。
「『優しい』って言われると、全てが報われる気になったんです。助けた人のことを下に見て、自分が上になったつもりになって。」
でも…… と続ける。
「そんなことないのはわかってたんです。ただの自己満足だって。貴族の役目だといって全てを正当化した私は、ただ浅ましいだけ。」
笑っているのに涙がでている。今の彼女の表情は彼女の苦悩を表したようだった。




