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「……あれ?……なんで……っ……」
私も表情を、態度を、見た目を、偽りながら生活している。彼女と同じだ。だけど彼女は――
「疲れた……のでしょう?」
自分を偽ることに疲れてしまったのだろう。嘘をつくのも、無理やり笑顔を作るのも。それを辛いと感じるならば、彼女はやっぱ“ 優しい”。
「違う……私は優しくなんか……」
呆然としたまま、それでも何とか笑顔を作ろうとして、また涙がこぼれて。それを繰り返す彼女は見ていて胸が苦しい。
「タオルをとってきますね。」
空気を読んだのかアクアが部屋を退出する。これで外に声が漏れていても誤魔化してくれると嬉しいのだが。
「少し、休んで。それでまたゆっくり考えればいいのではないかしら?酷い顔をしているわよ。」
――とても苦しそう
頬に手をあてた彼女は今度こそ表情が抜ける。きっと今すぐ休息が必要な状態だ。……まぁ、そのきっかけを作ったのは私だけれど。
シェアト様は俯き、肩を震わせている。この小さな肩に、どれだけの物を抱え込んでいたのか。
――私を頼ってくれれば良かったのに
そんなこと、言う資格がないことは分かってる。私だって偽り続けているのにそんなこと――。それでも、彼女がこのままなのは嫌だった。最初はキュグニー伯の情報を得るためだったかもしれないが、私にだって人間の心はある。
今では、本当に“ 友達”になりたい。
何があったのか。何を思ったのか。
全てとは言わない。それでも、楽になるまで話して欲しい。
たくさんの相談を聞き続けた彼女には、たくさんの人に手を差し伸べてきた彼女には、その資格があるだろうから。
私は息を飲み、シェアト様が顔をあげる。彼女は――
「お見苦しい所をお見せしてしまいましたね。申し訳ありません。」
また、笑っていた。
「……っ」
さっきと違うのは、それでも涙を流していることぐらいだろう。笑顔を保ったまま、涙を流し続ける彼女は不安定に見えた。
「優しい……なんて、嬉しいですね。でも、私は優しくなんかありませんよ。
ただの……浅ましい人間です。」
気にしないような、気遣うような優しい声は、今では苦しい程に痛ましい。
「……っ。ねぇ、どうして“ 優しくない”と思うの?どうして断言できるの?」
どうして自分を認めてあげないの?
私がされた質問と同じことを聞き返す。
私が“ 優しい”と思ったことをあなたはどう感じたの?
「私が……なんとも思っていないからです。」
キッパリと言い切った彼女は笑みを深める。
「私は、何とも思っていないんです。相談を受けた人のことも、助けた人のことだって。どうでもいい、私には関係の無い人だとしか思っていません。」
――だから私は優しくない。
“ 心優しき令嬢” と呼ばれた彼女から紡がれるのは想像もつかないような辛辣な言葉だ。
「……それならどうして助けたの?」
「それが貴族としての役割だからです。外面は大切でしょう?」
さも当然かのような表情をして、また笑う。狂気的にも思えるその笑顔はどこか寂しかった。
「……どうして私にこの話をしたの?」
外面が本当に大切なら、こんなこと私に話す必要はない。それでも話したと言うことはきっと……
「……分かったでしょう?私はアルビレオ殿下の“ 友人”には相応しくありません。」
今まで、ありがとうございました。
頭を下げるということは、本気なのだろう。
『私は優しくないから、外面しか意識してないから、友達をやめましょう』
要はそういうことだ。
利益を重視する貴族にとって、こんなことを言う人は絶対にいない。……実際にそうだとしても。
残念ながら私の思いとはすれ違っていたみたいだ。外面でしか縁のない友達関係だったとしても、相手から断られて閉まっては成り立たない。もともと、情報を聞きたいだけだったし、私がそこまでして“ 友達”にかまけている時間はないのだ。だから……
「そう……
あなたはやっぱり優しいのね。」
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