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「私など優しくなんか……」
「いいえ。だって、私に合わせて話しをしてくれるでしょう?話すスピードや話題なども一緒。話していて楽しいわ。」
これはほんと。シェアト様は話しをする時に、話題を合わせてくれる。逆に、話題に困った時はわかりそうな話しを振ってくれるし、話すのが楽だ。
「……それは令嬢としての嗜みでは?それに、アルビレオ様だって……」
「その“ 嗜み”はできる人は少ないわ。私だって、話しにくいことはあるもの。見聞が広い証拠だわ。」
まぁ、私の場合いわゆる 時代遅れ というものが発生しがちなのだが。
それを聞いた彼女の顔は段々と困ったようになっていく。眉をひそめる彼女の表情は部屋に入ってきた時と同じだ。
「……それはもう、“ 優しさ”とは関係ないのでは?」
「いいえ、“ 優しさ”よ。」
キッパリと断言する私に、シェアト様は更に眉をよせる。
どうしたものか というように首を傾げているが、庭園の時や『優しい』と言った時のような無表情では無い。
「……どうして、そう言えるのでしょうか?」
恐る恐る、といったふうに聞いてくる。納得がいかないのか、先程よりも表情が険しい。
“ 優しさ”というのは複雑だ。自分の“ 優しさ”と相手の“ 優しさ”は違う。誰かのためと思った行為が逆に誰かを傷つけることだってあるのだから。
――だから私はこう考える。
「私がそう思ったからよ。」
私の言葉にシェアト様は目を丸くする。私が自己中心的な発言をするのが珍しいからか、回答が意外だったからか。
「私はあなたが“ 優しい”と思った。
相談に乗らなくても、転んだところに手を差し伸べなくても、
ただ話しをするだけで、あなたが優しいと感じたから。」
シェアト様が“ 心優しき令嬢”と呼ばれるようになったのは、ある時の茶会で、転んでしまった下級貴族の令嬢に手を差し伸べたことがきっかけだ。その他にも、悩んでいる令嬢の相談によく乗っていたり、孤児院への訪問などが多いことから、いつしかその二つ名が広まっていた。
しかし、私が彼女を城に招いて行ったのは全て茶会だ。相談をしたことは無いし、転んで助けられた訳でもない。
特別なことなんて何も無い、それでもシェアト様を“ 優しい”と感じたんだ。
優しさ とは、その行為を受け取った相手によって判断されると思う。その 受け取った相手 というのは当事者含む、それを見ていた第三者も該当するが。個々の価値観が違う以上、同じ行為でも感じ方は異なる。シェアト様は優しいと思っていなくても、私は優しいと感じた。
ねぇ、シェアト様。気づいてるかな?
「表情、抜けているわよ?」
「……っ!」
はっとしたように顔に手を触れ、そして再び目を丸くする。
――涙が流れているのだから。
シェアト様は、私と会う時も他の茶会や夜会で会う時も、何パターンかの表情が作られていた。だいたいは微笑んでいるが、困った時は苦笑いをして、謝る時は深刻そうに、嬉しそうな時ははにかんで、いつも感情がわかりやすいような表情をしていた。




