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コンコン
「どうぞ。」
短いノックの音がして、中に入るように促す。
「失礼します。」
入ってきたのは予想通りシェアト様だ。
私はあの後、部屋に案内された。食事や入浴の用意もされていて、執事長の言っていた通り準備は万端だった。
良かった。シェアト様が来てくれて。寝る前にアクアに紅茶を用意してもらっていたのは、シェアト様と話しをするためだ。
「どうでしょうか?何か必要なものはありませんか?」
「大丈夫よ、とても快適ね。」
通された部屋は短時間で準備されたとは思えないほどに綺麗で、食事も美味しかった。かなりの好待遇でこちらが驚いたほどだ。
「それは良かったですわ。
それで……その、先程は申し訳ありませんでした。取り乱してしまいましたの。」
返事を聞き終えると彼女は頭を下げてくる。表情は暗く、いかにも申し訳なさそうな感じだ。
「いえ、気にしていませんわ。
でも……少しお話ししませんこと?」
アクアに紅茶をもう一杯頼み、用意された部屋の机に招く。彼女とは話さなくては。
「……はい。ありがとうございます。」
シェアト様はそのままの表情で席につく。その間にアクアが紅茶を入れ、机にはカップが2つ並んだ。
「どうかしら?」
「……とても美味しいです。」
しばらくの沈黙が続く。どうしよう、どう切り出せば良いだろう。
「……アルビレオ様は侍女と仲が良いのですね。」
つぶやくように声が聞こえる。侍女……アクアと仲が良いということだろう。
「ええ、昔から仕えてくれているから。でも、シェアト様とも友人ですわよ?」
よく、侍女と馴れ合うなんて という貴族もいるが、そんな感じだろうか?
「そう……ですか。アルビレオ様はお優しいのですね。」
いつもの微笑みに戻ったシェアト様がこちらを向く。優しい 私は自分のことを 優しい なんて思ったことはないが、そう“ 見えている”のなら良かった。
「ありがとう。でも、シェアト様もお優しいですわ。私達をこんなに丁寧にもてなしてくれるのだから。」
彼女の張り付いた微笑みが再び強ばる。そんなこと気づかないかのようにこちらも笑みを浮かべた。
「それに、“ 淑女の鏡”“ 心優しき令嬢”と呼ばれるシェアト様ですもの。私など、まだまだですわ。」
彼女の微笑みは段々と抜けていく。その事に気づいているのだろうか?
「……私など……優しくなんてありません。……」
絞り出すような彼女の声は震えていて、それでも取り繕うような笑みは必死に残していて、その姿は庭園の時と同じで痛々しかった。
「私には不相応な呼び名ですわ。お恥ずかしい。アルビレオ様も“ 星夜の蝶”と呼ばれておりますのよ?優雅な振る舞いも、その美しさも、社交界では有名ですわ。」
話題を転換してきたか。
……なにそれ、星夜の蝶 って、そんな恥ずかしい二つ名
つけられてるの?
「そう……初めて知りましたわ。……それこそ私には不相応ですわね。
それでも、シェアト様がお優しいのは事実ですわ。」
話しを逸らしてはいけない。
ねぇ、教えて。
あなたは何に“ 疲れた”の?
あなたは何を抱えているの?




