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「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
再び、スクルプトリース侯爵家に戻ると執事長らしきおじいさんが出迎えてくれた。どうやら先程魔術の連絡が届いたらしい。魔術って便利。
「事故とは、こちらも把握しておらず申し訳ありません。急なものでしたから準備が足りないところもあるかもしれませんが、なんなりとお申し付けください。」
さすが、この短時間で準備ができたらしい。屋敷では使用人達が慌ただしく動いているのが見えた。
「感謝するわ。スクルプトリース侯爵家の皆様には良くしてもらったと、お父様にも伝えておきます。」
陛下への報告はなによりのお礼になるだろう。そう思ったのだが、執事長の顔は浮かない。どうしたんだろう?
「実は……大変申し訳ないのですが、ただいま侯爵様は留守にしておりまして……」
えっ!?昼間の時はいたのに……
「急な仕事が入った為、辺境に向かっているのです。」
嘘だ。きっと最初から仕事は入っていたけれど、私が来るから時間をずらしたんだ。そうでなきゃこんなに早く準備して出かけられるはずがない。
「シェアト様は?」
「お嬢様は庭園にいらっしゃいます。……え?アルビレオ殿下?」
執事長と護衛の声を無視して庭園へ向かう。日が沈んだ空は暗く、それでもほんのりと明るい。
きっといるのは――いた。
「シェアト様。」
彼女はエキナセアの花の前にしゃがんでいた。いつも私と会う時とは違う、表情のない顔。それでも、私を見ると普段通りの笑顔に戻った。
「アルビレオ様、いらっしゃったのですね。気づかず、申し訳ありません。」
「シェアト様……」
ニコリと微笑んだ彼女の顔はいつもと変わらないはずなのに痛々しい。だって――
「泣いて いたの?」
涙の痕は隠せていないのだから。
「あれ?……あっ……。……なんでもありませんよ。気にしないで……」
「悲しいの?」
「……っ!」
私の言葉に僅かに反応する。それでも表情が変わらないのは何故だろう。
「寂しい?」
「……」
私が何を問いかけても表情は変わらない。まるで表情が張り付いたかのように。
「なんでもないですよ、気にしないでください。それよりも部屋に入りましょう。夏とはいえ、夜は冷えますから。」
こんな時でも私の心配をしてくれるシェアト様。変わらない表情は恐ろしい程に“ いつも通り”で――
「……疲れたの?」
「え……」
彼女の表情が変わる。微笑んだまま、それでも確かに強ばっている。
「いつも優しくするのに、相手の顔色を伺うのに疲れた?」
「な……何を言って……」
「何があっても“ なんともない”ふりをして、笑顔を貼り付けて、外面だけを取り繕う自分に疲れた?」
「そんなこと……」
「自分の感情を抑えて、何がしたいのか分からなくなって、自分の存在が分からなくなって、それがどうしようもなく怖くて……」
「違うっ!」
シェアト様が初めて声を荒らげる。彼女は、取り繕った微笑みを消した、何かを飲み込んだような苦しげな顔をしていた。
「……すみません。取り乱しましたわ。部屋に行きましょう。案内しますね。」




