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それから約一ヶ月が経ち、季節も夏に移り変わろうとしている今日この頃。
あれからシェアト様――私の“ お友達”とは親交を深めている。今日はシェアト様の家に遊びに行く日だ。
いつも来てもらって申し訳なく、お父様にお願いして外出の許可を貰ったのだが
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。なかなか挨拶に行けず、申し訳ありません。今日はごゆっくりとお過ごしください。」
シェアト様の御母君――女侯爵に挨拶していただいてしまった。
「アルビレオ様、お越しくださりありがとうございます。」
ニコニコとしているシェアト様。お母さんとの時間をとってしまったようで申し訳ない。
そっか、王族が来るとなれば当主も挨拶しないとなのか。
改めて“ 王族”という立場の厄介さを理解した。
「庭園へ案内しますね。我が邸でしか咲かない特別な花がありますの。」
少しお茶を飲んでお話ししてから庭園へ案内してもらった。広い屋敷は掃除がきちんとしてあり綺麗なのだが……
「こちらですわ。 エキナセア というそうです。王国ではなかなか栽培されないそうなのですよ。」
エキナセア という花は花弁が下向きに付いていて不思議な感じがする。
「とても……不思議な花なのね。花弁が下向きについているわ。それでも、とても綺麗。」
「そう言って頂き、光栄ですわ。この花の形が気に入って、庭師に育ててもらっているんですの。」
自慢げに話す彼女はいつもとは少し違う。相手の様子を伺うのではなく、自分から伝えていて……ほんとに好きなんだな。
「どこで見つけたのかしら?」
「屋敷の裏に。我が家はいろいろな物を運び入れますから、どこかから種がついてきたのでしょう。」
そういった途端、表情が少し暗くなる。あ……まただ。
「その……」
「屋敷に戻りましょうか。ここはよく日が当たりますし。」
再びにこりと笑って遮られる。やっぱり何かあるのかもしれない。でも……
「アルビレオ様?」
私だって “ 嘘をついている”のに、これを言う権利はないか。
「そうね。戻りましょう。」
もう少しだけ、様子を見てみようかな。
◆❖◇◇❖◆
「綺麗な庭でしたね。」
馬車の中でアクアが話す。スクルプトリース侯爵家の皆さんは最後まで丁寧にもてなしてくれた。
「シェアト様も何だか生き生きしてましたよね。やっぱり自宅だからでしょうか?」
アクアも気づいたんだ。あの時のシェアト様の様子……
「そうね、あの花も綺麗だったし。」
「不思議な花でしたよね。でも、一番見えやすいところに咲いてたし、本当に好きなんでしょうね。」
好き……。そういえば、シェアト様はあの花が「好き」とは言ってなかったな。何となく、そう思っただけで。
――そうだ。彼女は一度も「好き」と言っていない。あの花だけでなく、今まで会った時も。食べてるものとか見ている方向とかで察していたけれど彼女の「好き」なものを彼女の口から聞いたことはないのだ。
「アクア……私……」
ガタンッ!
「何事ですかっ!」
急に馬車が停止し、アクアが動き出す。
「申し訳ありません!この先で事故があったようで」
「道は通れるの?」
「通れないことはないですが、渋滞しております。この道は商人がよく使うので」
渋滞か……。窓の外を見ると日が沈み始めた頃だ。渋滞を待つと確実に遅くなるし、回り道しても混んでいる可能性が高いよね。
「アルビー様、如何なさいますか?」
「……そうね。どこかの宿に泊まりましょうか。」
王族特権で融通して貰うこともできなくはないけど、困ってるのは皆一緒だしね。王女の外泊についても魔術で連絡だけ入れておけば大丈夫でしょう。
「宿ですか……警備が不安ですね……」
何やら護衛の騎士やアクア達が悩んでいる。別に、自分の身くらい守れるけど……
「スクルプトリース侯爵家に泊まらせて貰うことはできないんですかね?」
貴族のアレコレについて少し疎いアクアが聞いてくる。なるほど、シェアト様のところにもう一度……
「かなり急だから驚くだろうけど……まぁ、王族の願いという時点で拒否権はないわね。」
王女といえど王族。その辺は融通は効くかな。うーん……かなり申し訳ないけどそれが一番良いかな……
「一度お願いしてみましょう。」
こうして、もう一度スクルプトリース侯爵家にお邪魔することになった。




