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「ゲナー伯爵、コルニー殿、そこまでにしてください。」
私の声で二人が振り向く。
「料理長が冷たい紅茶を用意してくださったの。カイトスも疲れているようだし、一緒に休憩しましょう。」
アクアを呼んで用意させる。とりあえず落ち着いて貰わなくては。……このままだと面倒なことになりそう。
「そうですね、失礼いたしました。どこかの誰かさんの職務放棄のせいで、カイトス殿下もお疲れでしょうし。アクア様も頑張りましたから。」
「おいっ!職務放棄とは何だっ!」
「おや、職務放棄なんて難しい言葉は、筋肉でできた脳では理解できませんでしたか。職務放棄とはですね……」
「それくらい分かって……」
「ゲナー伯爵、コルニー殿。」
コルニーさんの言葉を遮る。ついでにニッコリ微笑んで
「休憩しましょう。落ち着かれた方がよろしいのでは?」
気遣うような文章だが、実際は違う。暗に「誰の前だと思ってんの?頭冷やしなさい。」と伝えている。
この二人がすぐに喧嘩するせいで、副団長や団員たちは何故か仲良くなっている。共に苦労を共有することで仲間意識が芽生えたのか。
それでも困っているのは事実だ。副団長がこっちに謝罪に来たぐらいだし。少し頭を冷やして貰わないと。
ちなみに、八歳の生誕祭での悪役の振る舞いは成功した。――それはもう、私も予想していなかったほどに。
馬鹿で愚鈍な王女だと思ったとある伯爵は怪しい投資の話を持ちかけてきた。
王位を狙っている野心家だと思ったとある侯爵は手を組まないかと誘ってきた。
どれも一大案件である。もちろんその貴族は潰したけど。それでも、キュグニー伯爵は何も動かなかったんだよね……
アクアからの「常に同じキャラだと飽きられますよ。絶対ボロ出しますし。」という助言に従い、茶会や舞踏会などの人が集まるところ以外の日常生活では普通にしていたのだが、なるほど。こういう風に使えるのか。
さっきまで言い争っていた大の大人二人は固まって大人しくなっている。
良かった、これで落ち着い……
「ぅわっ!」
ヒュッ!
アクアの悲鳴と共に風が吹く。
「どうしたの!?」
見ると、カイトスが風魔法でカップを浮かせている。アクアは……
「申し訳ありませんっ!少しふらついてしまって……」
どうやら、アクアがカップを落としそうになったのをカイ
トスが魔術で支えたようだ。
「大丈夫よ。カイトスも無事みたいだし。それよりもアクアは大丈夫?」
「平気です。少し魔力を使いすぎただけですから。」
良かった。カイトスもカップを元に戻しているようだし、やっぱり休憩しないと……
「カイトス殿下、お見事です。」
ゲナー伯爵の声。やばい、このパターンは
「いやぁ、素晴らしい。さすがですね。独学でカップを浮かせるなど、繊細なことはどこかの馬鹿にはできないことですよ。」
「誰が馬鹿だってェ?」
「そうだ、カイトス殿下にも指導を致しましょうか?」
「何だと!!」
カイトスは男児であるため、魔術よりも剣術を中心に教わる。この魔術は独学だったのか。
いや、それよりもまた二人の間に火花が散っている。まずい……
「アルビレオ殿下も、アクア様も優秀ですが、教え子が増えるのは嬉しいことなので。いつでも大歓迎ですよ。」
「勝手に勧誘するな!……ん?アクア様?」
コルニーさんが首を傾げる。
「ええ。アクア様はとても優秀で。将来魔術師団に入団する際は是非、お声がけ下さいね。」
「何だと!?もうそこまで話が!」
「いや、私はアルビー様の専属侍女で……」
アクアが困ったようにこっちを向く。あぁ、また面倒なことが起きそう……
「アクア様、私が剣術を教えましょう!」
……やっぱり




