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少し昔のお話です。
あるところに小さな王国がありました。国土の四分の一を森林が覆うこの国の民は、その豊かな自然と山に囲まれた平和な土地で静かに暮らしていました。
しかし、時が経つにつれて人々は争いを始めます。もちろんそれは国内の紛争だけではありません。他国とも資源や技術、時には愛を求めて戦争をしました。
するとどうでしょう。民を守ってくれていた森林は隣国への侵攻や貿易を妨げ、豊かな自然は魔獣という恐ろしい化け物の住処になってしまいます。気づけば幸せだった王国は荒れ、民は餓え、争い、他国との戦いにも敗北し、いつ侵略されてもおかしくない状況になってしまいました。
さて、そんな時代に幸か不幸か生まれ落ちてきた一人の少女。王家の色である夜空をその髪に宿した少女は当時の王国の王女でした。少女は幼き頃からこの国の現状を憂い、成長して立派な淑女になるとその豊かな発想力と逞しい行動力でこの国の現状を立て直していきます。決して表舞台にたとうとせず、見返りも求めずに国のために動いた彼女はまさしく――この国の英雄であったでしょう。
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何故こんな長い話をしたのか。何となく想像している方もいるのではなかろう。
私は昔から不思議な記憶があった。私の知らない“ 誰か”の記憶が。まぁ、ぼんやりとしすぎてほとんど認識はなかったが。そしてたった今、その記憶と“ 誰か”の正体がわかったのである。
我が国のように輪廻転生 という文化がある国に住んでいるのならば聞いたことはあるだろう。転生 というものを。
そう、私の……アルフェラッツ王国第一王女 アルビレオ・アルフェラッツの前世こそ、当時の英雄王女
――の侍女なのだ。
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改めて自己紹介をしよう。
私の名前はアルビレオ アルフェラッツ。八歳。アルフェラッツ王国の第一王女だ。
今は当時の戦時中から100年がたち、あの頃の面影も見当たらないほどに平和になっている。
ちなみに、記憶を思い出してから一年がたっていて、今の時間帯は夜明けである。
前世の侍女時代の事が影響したか、朝は結構な早起きだ。現在の私付きの侍女よりも早い。
転生時の記憶については今だに思い出せないことが多い。 でも、王女――姫様と呼んでいた私の主人に関しては思い出せる。姫様が何をしたか、何を言っていたのかまで。
……変態に思われそうだが、私は姫様の影も担当していたので行動を覚える事も仕事一つだったのだ。
そうそう、仕事に必要だった事も思い出せる。侍女であるためお茶の入れ方や振る舞い方なども叩き込まれた。護衛の仕事も請け負っていたのである程度の薬や武器の扱いもわかる。………私に仕事を押し付けすぎだったのではないかと思わなくもないが、人材不足だったため仕方がないだろう。
とにかくその辺のことは思い出せるし、身体も動く。しかし、それ以外の事があやふやだ。周りにいた人物の顔は思い出せるのに名前は思い出せない。いつ、何をしていたのかも分からない。王族教育であろうと王女の動向までは学ぶことができないため、何をしていたのかは思いだせても、それに関係した人が分からない。更には自分の死因も分からない。なんと中途半端なのだろう。




