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バタンッ

部屋の扉を勢いよく閉める。「おやすみなさいませ」と執事の声。誰もいないのをいいことに崩れ落ちる。

「はぁぁー。」



『カイトス。先日、屋敷を調査した際に出てきたそうだ。』

そう言われて陛下から受け取ったのは父上の遺言だった。


次期公爵家当主に我が息子 カイトス イプシロン を任命する。


何故こんなものがあったのか。跡継ぎ争いを避けるために高位であるほど、生前のうちから遺言書を書く貴族が多いらしい。それでも

『まだ七歳の子供に継がせる決意があったということは、余程信頼していたということだな。』

ただ、争いを避けるためではなく、僕のことを“ 信頼”していたのだと陛下はおっしゃった。

正式なものでは無いため、誓約書自体にあまり意味はないらしい。それでも、成人した時には公爵家の管理を任せようと約束してくれたのは、父上の意思があるからだとも言っていた。


その話を聞いて、嬉しかった。父上は僕のことを“ 信頼”していたと、“ 息子”として認めてくれていたのだと。それでも何処か複雑な気持ちがした。僕の勝手な思い込みではないかと何度も疑った。僕は自分を許していない。許されるとも思っていない。だからこそ、この遺言が信じられなかった。――信じてはいけないと思った。

それがわかっていながらも、何処かで「愛されていた」と、そう思いたい自分もいた。


だから、アルビレオ様に聞くことにした。あの人なら、納得する答えをくれるのではないかと。

生誕祭の準備で忙しかったため、祭りが終わった後に聞くことにした。


当日、支度が終わったアルビレオ様を見て、一瞬時が止まった。別人かと思うほどに見た目も、いや、それ以上に纏う雰囲気が変化していた。


『行きましょう』


そう微笑む彼女は今までとは違って、返事が遅れてしまった。

本当に別人なのでは?という馬鹿げた疑いを持ってしまうほどにいつもとは違く、そして……美しかった。


生誕祭も無事に終わり、アルビレオ様の部屋に行く。部屋にいた彼女は先程の祭りの時とは打って変わって、いつも通り より、少し幼く見えた。


緊張しながらも、父上の遺言書について話をすると


『それは……良かったわね。叔父様も、あなたのことを認めていたということじゃない。』


と、陛下と同じようなことを返されて、少し落胆する。


違うんだ。いや、そうなのかな。でも、信じられないんです。信じてはいけないんです。僕は許されてはいけないから。これはきっと思い込みで、本当は違うんだ。


『 前に、 人の気持ちを代弁するな って言ってましたよね。』


そう、これを信じてはいけない。“ 信頼”など関係なく、ただ、争いを避けるための遺言書かもしれない。これが父上の本当の思いかは分からないのだから。


『確かにな、って思ったんです。なんて罪深いことをしているのだろうと、自分を思い返すことが出来ました。今日まで伝えそびれてしまったんですけど、ありがとうございます。』


自分の思いを整理するように、淡々と告げる。人の気持ちを代弁してはいけない、だから“ 信頼”なんて信じてはいけないんだ。

そう、自分に言い聞かせる。大丈夫。分かっている。


甘えるな


許されようとするな


自分は罪人で


贖罪のために 生きるのだ。


でも

それでも……


『それでも……父上と母上は僕を

――愛してくれていたと……そう思いたいんです。』


気づけば前を向いていた。


記憶にある両親の顔は笑っていて、何かができるようになると褒めてくれて、好きな物を買ってくれて、忙しい中でも「おはよう」と「おやすみ」は欠かさなくって、そんな両親からの愛で僕は育ったから。「愛されてなかった」と思う方が罪深いと思ってしまって


アルビレオ様に聞いても困らせるだけなのに、聞いてしまった。

何処か遠くを見つめる彼女の姿に、自分が何を言っていたのか、改めて思い出して不安になる。それでも


『そうね。確かにそうかも。叔父様達はあなたのことが大好きだったわ。』


という言葉にほっとする。何も信じない、誰も信じられない僕の心に、その言葉はすっと入り込んだ。

確信があるような『生きていたって意味が無い』と言った時とは違う暖かい表情に張り詰めていた糸が解けていく。


『ありがとうございます。』


本当にありがとう。あなたのおかげで僕は二度も救われました。





帰ろうとした時、じいに呼び止められてある事を思い出す。

――誕生日プレゼント


数日前に、アルビレオ様と話がしたいと執事に相談した時、誕生日プレゼントを贈ることを提案された。


今回は迷惑をかけたし、これからお世話になることだから何か渡すべきだろうとは思う。でも、何を渡すべきか分からなくて、アルビレオ様の侍女に相談したところ


『それなら、ぬいぐるみとかはどうでしょう?ああ見えて、可愛いもの大好きですから!』


と熱弁された。城下に行った際に選んだ黒猫のぬいぐるみ。金色の瞳が彼女に似ていて選んだのだが、いざ渡すとなると緊張する。


『あ……ありがとう……。』


その言葉に安心したのもつかの間


『可愛い……』


呟かれた声に心臓が跳ねる。金と金の瞳が向かい合っていて、胸が高鳴る。


『待って!』


急いで出ていこうとしたらアルビレオ様に呼び止められた。何だろうと振り向くと



『ありがとう!』



アルビレオ様の満面の笑み。その手にはプレゼントしたぬいぐるみ。

今日のアルビレオ様ともいつもの彼女とも違う、偽りでない心からの笑顔に、今度こそ心臓が止まる。


勢いで部屋を出ていってしまったが


「はぁぁー。」


胸の鼓動はおさまらない。





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