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「前に、『人の気持ちを代弁するな』って言ってましたよね。」
「えっ……ええ。」
まぁ、言った。言った気がする。えと……それがどうした?
「あれ、とても驚いたんです。周りは そんなことない とは言うけれど、そうかなんて分からない と言う人は初めてだったので。」
確かに言う人はいないだろう。自分を責めるのは“ 許されたい”と望んでいるからだ。そんな人にあえて傷口を抉るかもしれない言葉をかけない。……普通は。
気に触ったかな。実は怒ってる!?どうしよう……
「確かにな、って思ったんです。なんて罪深いことをしているのだろうと、自分を思い返すことが出来ました。今日まで伝えそびれてしまったんですけど、ありがとうございます。」
「……は……」
良かった。本当に良かった。危うく私の黒歴史図鑑に新たなる一ページが加えられるところだった。なんて良い子なのだろう。
「そう、良かっ……」
「でも……っ!」
私の言葉が遮られる。カイトスの目が真っ直ぐにこちらを向いた。
「それでも……父上と母上は僕を
――愛してくれていたと……そう思いたいんです。」
その目のなんと綺麗なことか。いつしかの絶望の色はもう無い。ただただ希望に満ち溢れている――そんな気がした。
ダメでしょうか? そう伺ってくる彼は少し不安気だ。
思わず笑ってしまう。
あぁ、私の言葉は彼に届いたのか。
「そうね。確かにそうかも。叔父様達はあなたのことが大好きだったわ。」
昔の記憶で、正しいかは分からないが、叔父様が私に自慢をしていたのを覚えている。
『私の息子はとても優秀なんだ。アルビレオ様には遠く及ばないかもしれないがね。それでも――私と妻の宝物なんだ。』
「ありがとうございます。」
カイトスが笑う。
記憶の中で屈託なく笑う叔父様は今のカイトスに似ていて……いや、カイトスが叔父様に似たのか。
「カイトス様、もう夜遅いですし、お戻りになられた方がよろしいかと。」
アクアが話が終わったのをみて声をかける。彼女の後ろにいるのは――じい、カイトスの執事になったのね……
かつて幼い私の面倒を見てくれた優秀なじいの姿があった。
「カイトス様。」
「そうだ……っ!」
何やら思い出したように彼がじいに目配せをする。
「これを。」
じいから渡されたのは白い袋だ。何だろう?
「誕生日、おめでとうございます。」
カイトスの言葉に一瞬時が止まる。あっそうか、今日誕生日か。
生誕祭で散々祝われたくせに、何だかすっかり忘れていた。
「あ……ありがとう……。」
誕生日プレゼント、何だろう?
白い袋から出てきたのは黒猫のぬいぐるみだ。
「可愛い……」
もふもふの毛も、クリっとした目も可愛い。とても私好みだ。
「そ……それではこれで……」
「待って!」
部屋から出ていこうとしたカイトスを呼び止める。
貰ったぬいぐるみを抱きしめて
「ありがとう!」
もう一度、心からの感謝を伝える。ちゃんと笑えたのは久しぶりかもしれない。
「…………っ!こちらこそっ、失礼しますっ!」
カイトスはそう言うと、何やら慌てたように出ていってしまった。 どうしたんだろう?彼の後を追うようにじいも出ていく。
「良かったですね!アルビー様!」
そして、何故かアクアはニヤニヤしている。
「アクアね。カイトスにぬいぐるみを進めたの。」
「お気に召しませんでしたか?」
悪びれもせず平然と言ってくるアクアの頬を抓る。柔らかい肌はミョーンと伸びた。私の誕生日だから特別大サービスです!
「いひゃいでふ。」
「反省なさい。まぁこれは気に入ったけど。」
「じゃあいいじゃないですか。」
「私の趣味を漏らさないで。ていうかどうして知ってるの?」
「やだなぁ、長い付き合いじゃないですか。主の好きなものくらい分かりますって。」
「そう、それじゃあアクアはブラックコーヒーが苦手だと侍女頭に伝えておくわね。」
「そんなぁ!酷い!悪魔!鬼!怒った時の侍女頭!」
そんなやり取りをして顔を見合わせる。アクアといると自分がバカになれる気がして心地良い。
「ふっ……ハハッ!あははっ!」
小声で笑い合う二人を黒猫のぬいぐるみが見守っていた。




