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「これ、あそこに持って行って!」
「ちょっと、これはそっちのテーブル!」
「ホールの清掃終わらない!誰か応援呼んで!」
いつも慌ただしい王城だが、今日は一段と騒がしい。何故なら……
「アルビー様の生誕祭ですね!」
今日のアクアはテンションが高い。それもそのはず、今日は私の生誕祭 兼 お披露目だからだ。
「八歳でお披露目とか微妙すぎない?」
「慣習ですから!」
王家に生まれた子供は存在を成長するまで秘匿する慣習がある。暗殺や分別つかない子供を政治に利用されないようにするなどの目的らしい。
本当はもっと早くても良かったのだけれど、お母様の体調が優れないので遅らせたそうだ。
「カイトス様の養子入りも発表するそうですね。」
そう、今回の発表の理由は何よりもカイトスが王家に入ることになったからである。
あの日から三ヶ月が経ち、私の生誕祭と一緒に発表してしまうために急いで準備したのだ。王女の発表が養子の発表より後とか笑えない。色々外野がうるさそうだ。
「さあ、気を引き締めていきましょう!」
それを合図にぞろぞろと侍女達が入ってくる。顔が怖い。
…… 君たちが引き締めて欲しいのは気持ちじゃなくてお腹だよね……
◆❖◇◇❖◆
「やっと終わりましたね……」
「そうね……」
アクアも私もぐったりしている。ドレスに着替えるのはやっぱり苦手だ。圧がすごい。
「化粧をしますが……リップはどれにします?」
今、部屋にいるのは私とアクアだけだ。
私の化粧は毎回アクアがやっていて、口紅は私が自分で選んでいる。化粧、特に口紅は意外と顔の印象を決めるからだ。
今日のドレスは青い落ち着いた色でありながらもデザインは可愛いらしいもので、幼い王女にはピッタリな物だろう。それに、これならば化粧で色々と変えられる。
外見で人を判断するなとはよく言うが、初対面の人は外見以外に判断材料がない。
よって、着ている服や化粧、立ち振る舞いに喋り方など、そういったものから人となりを判断する。
そして、第一印象というものはなかなか覆らないものだ。
「女は化粧で化けると言いますが、アルビー様は本当に化けますからねー。」
「大切なことでしょ。」
「子供らしくありませんよ?警戒されないようにしないとですよね。」
国を守る、それが私の目的だが、今のところ特に目立った問題は無い。
しかし、妙な違和感がある。お父様、姫様が隠していたこと、私はそれが知りたい。国家存続に関わる問題ならば早急に解決しなければならないし。
……違和感は感じた時に対処しないと、後で後悔するから。
とまぁ、私の目的はそれなのだが、貴族関連の問題だろうから社交界が重要な鍵となってくる。どう動き、どう情報を集めるか。
――姫様だったらどうするだろう?
「……っ!」
鏡に向かって微笑んでみる。遠い記憶にある姫様の笑顔。
賢く、聡明、それでいて聖母のような慈愛を分け隔てなく与える“ 王女”。
彼女の微笑みで周りが感じる印象はこんな感じだろう。
そう思っていたのだが、何やら 鏡の後ろでアクアが驚いたような顔をしている。
「どうしたの?」
「いや、少しビックリして……」
纏う雰囲気を変えたからだろう。上手くできていたのは良かった。
だけど……
やっぱり偽物だ。
賢さを思わせる真っ直ぐな瞳の奥にある好奇心を、柔らかい微笑みの裏にある孤独さを、私は表現できない。
そもそも、警戒されないようにする のは本当に良いのだろうか。今はカイトスもいて、一人ではない。役者が増えれば舞台は盛り上がる。
偽物を演じるくらいなら――
「これにするわ。」
私は一つの口紅を選ぶ。
「蝶のバレッタがあったでしょう?あれも付けてちょうだい。」
「分かりました。それなら髪は少しだけ編みますね。」
アクアによって着々と髪が結われていく。化粧は全体的に薄く、でも目元にはキツイアイラインを入れて真っ赤な口紅をつける。
鏡に映った微笑みは、さっきとは打って変わって、優しさや幼さなどは微塵も感じさせない
“ 女王”がそこにいた。
…… まぁ、王女だけどね。




