13
「まだ調べてんのか。もう、図書館閉まるぞ。」
「うるさい。」
夏の夜。夕日のさす図書館にて、二つの影が伸びていく。
「こっちだってやりたかねぇよ。引っ張り出して来いって、お前の後輩逞しくなったなぁ。」
「どちら様ですか?」
「おいおい、やめてくれよ。この会話何回やるんだ?俺はなぁ、姫様の近衛で……」
「やっぱどうでもいい。」
「おいっ!ひでーよ!せめて名乗らせろ!」
「この会話、三十四回目。」
「覚えてんじゃねーか。」
じゃれ合う二人は何処か影を帯びていく。
「……姫様が亡くなったのはお前のせいじゃねぇ。」
「……私のせい。私が姫様を守れなかったから姫様は……」
「じゃあ、聞くけどよ。」
一瞬の間が空く。
「自分で短剣刺した奴をどうやって守んだよ。」
「……っ!」
青年の顔は悲しみに、少女の顔は怒りに歪んでいく。
「姫様が死んだことで戦争は終わった。姫様はこのことを望んで……」
「違うっ!姫様は間違っても自分の命を犠牲にしない!私にだってそう言って……」
少女の声はだんだんと小さくなっていく。俯いた顔に影が映る。
「皮肉なものだな。この国を愛したせいでこの国のために死ぬことになるとは。」
「……そうだ……この国さえ、この国さえなければ……」
「やめとけ、姫様が余計悲しむぞ。」
唇を噛んだ少女の頭に青年が手をおく。慰めるように、ーー存在を確かめるように。
「姫様は私が頼りないから……」
「そんなことない。」
「そんなことあるっ!私が頼りないから、なんの相談もなく……」
「そこまでにしろ。」
ピシャリと言い放った青年を少女が呆然と見る。
「姫様がどう思っていたかなんて分からない。勝手に代弁するな。」
「でも……」
「そもそも、姫様がこの国を愛してたって言ったけどよ、本当は分からないんだ。」
貧乏だし、汚いし、あの人のことだから王女だからっていう責任感からかもしれないしな と続ける。
「それでも、姫様はこの国を守った。それを俺たちが壊してどうすんだよ。」
青年は机の本を見る。「洗脳魔法」や「闇魔術」などと書かれた本。
「罪の意識を感じるなとは言わねぇ。ただ、俺達がやるべきなのはこんなことじゃねぇだろ。」
カッと夕日が二人を照らす。少女の瞳に光が輝いていく。
「守るんだよ、この国を。」
◆◇◆◇◆
「アルビー様、怒らないで下さいよ。」
「怒ってない。」
呑気に言ってくるアクアの頬をもう一度抓る。
そう、怒っていない。ただ、少し懐かしいことを思い出し
ただけで。
「アルビー様も泣けるようになったんですね。」
遠い目をするアクア。少し気恥ずかしくなってくる。
「今回は特に気をつかっていましたね。弟、欲しかったんですか?」
「あいにく、年上なのか年下なのか分からない友人がいるので特にそういった願望はないわ。」
「照れますねぇ。」
そんな軽口を言い合う。王女となってからというもの、外部との関わりが少ないため、こういった会話ができる相手がいるのは嬉しい。
カイトスのことはただ危険だったからだ。然るべき身分を持たないでフラフラされては必ずよからぬ輩に利用される。他国にでも行けば戦争の火種にもなりかねない、危険分子だったから。
「それで、どうだったの?」
緩んでいたアクアの顔が引き締まる。本題に入らなければ。
「姫様の言う通り、キュグニー辺境伯の手の者が検察官に紛れ込んでいました。」
やはりそうか。馬車に元から付いていた血を見逃すなど、そうそうありはしない。何処かの貴族の手が入っていると思ったけど、キュグニー辺境伯か……
ん?どこかで聞いたような……
「ねぇ、お父様からの手紙って何処の紙かしら?」
「紙ですか?変なこと聞きますね。えっと……あった。かなり上質なので輸入品ですかね?」
間違いない。陛下が視察に行ったのはキュグニー辺境伯だ。あそこは貿易のほとんどを取り締まっている。
「ますます辺境伯が疑わしくなってくるわね。」
「だけど、あの伯爵って陛下のご友人ではなかったでしたっけ?それに、武功をたてて貴族になった変わり者ですし……」
そうだ。キュグニー伯は百年前、武功をたてて姫様が貴族に推したんだ。
「こうなるとお父様まで怪しいわね……」
前世から感じる違和感。
お父様、姫様、いったい何を隠しているのですか?
その答えを見つけるために、私はいる。




