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「……は……」

あぁ、やっぱり驚くよね。見上げるとカイトスはポカンとしたような顔をしている。

でも何故だか涙が止まらない。だいぶ制御できるようになってきたと思ったけれど、やっぱり幼児の本能には逆らえないのか。


私はカイトスに私を重ねていた。姫様を守れなかった時の私に。


大切な人を失う。そんなデリケートな事を本当は言葉だけで表面的に解決するべきことではないのだろう。時という薬だけがその傷を癒せるのだから。だけど、そういう訳にはいかなかった。

姫様ならもっと優しい言葉をかけられたのだろう。綺麗事だけでない、それでも相手を気遣う優しい言葉を。でも私には使えない。幾度となく嘘という仮面を被って偽り続けてきた姿形のない私から出てくる優しさなんて本当の心には響かないだろう。だから、敢えてあの言葉を選んだ。人に向ける言葉なんて嘘でしかないから、私に向けた言葉を伝えた。

だけど……彼にはいい迷惑だっただろう。だって




「貴方が呪われていた事に気づけなくて。」


――彼は呪われていたのだから。


「呪われて……えっと……どういうことですか?」


カイトスは戸惑ったように首を傾げている。


カイトスが落ちたのは「牢獄の泉」という場所だ。

かつてこの場所に牢獄があり、その牢獄ごと沈められて死刑になった少女がいる、という逸話がある。その話が本当かは知らないが、この泉に魅入られると精神的負荷がかかり、持っている気持ちが増幅されるという。

この呪いがその少女によるものなのか、泉自体に何か特別な力があるのかはわかっていないが、封印されていて影響は無いはずだった。だけど、封印が解かれていたらしい。意図的にとかれた様子はなく、先日の新月で増強した魔力によるものでは無いかということらしい。カイトスはその泉に魅入られて、精神的負荷がかかり、感情が高ぶりやすくなっていたそうだ。


「ということです。アルビー様は一度スイッチが入ると誰にも止められなくなりますが、スイッチが切れた後の冷静になった時がヤバいんですよね。穴があったら入りたいとずっと言っていましたよ。」


話もろくにできない私の代わりにアクアが余計なことまで説明してくれる。


そう、彼はただ呪われていただけなのだ。私はそれを本心だと勘違いして、更には自分まで重ねて、余計なお節介をかいた。あぁ、本当に消えたい。


「ごめんなさい。いい迷惑よね。勝手に勘違いして偉そうにして……」


「それは違います。」


カイトスの声が私の言葉を遮る。


「僕は……確かにあの言葉に救われました。それで……その……陛下の提案、受けようと思うんです。」


――ということは


「義弟……ということになるのね。」


「戸籍上はそうなりますが、あくまでも一時的なものだと思います。公爵領も……父上と母上が守ってきたものですし。」


領地を継ぐ覚悟もできたのだろう。後は彼がどれだけ力をつけるかだ。


「その、アルビレオ様。少し聞きたいことが……」

「何かしら?」

「その泉の呪いの事なんですけど……」


泉?恐らくはもう一度封印がかけられることだろう。そういえばどうして呪いの泉は潰されなかったのだろう。


「『独りにしないで』って言ってたんです。」


その言葉にはっとする。そうだ、この泉は……


「そう、なのね……」


私は泉に近づいていく。何もかも飲み込んでしまいそうな深い暗闇にぼんやりと私が映る。


「もう、ひとりじゃないよ。」


手で救った水が月明かりでキラキラと光る。かつて、別の少女もこうやっていただろう。

手から零れ落ちた水は誰かの涙のようだった。


「アルビー様。カイトス様。もう戻らないと風邪引きますよ。それに、絶対侍女頭に怒られますからね!」


アクアが急かして来る。もうすぐ夏が来るので暖かいが水に濡れたのだ。風にあたるとさすがに冷える。


「帰りましょう。」


姉弟で過ごす初めての夜だった。




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