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体が浮いている。
叩きつけられると思った場所は地面の上でなく、水の中だったようだ。
ガボッッ!
口の中から空気の塊が出ていく。息ができない。苦しくて必死にもがく。
(どうしてもがいているの?)
どこからかあの声が聞こえてくる。
(ねぇどうして?貴方は
――死にたいのでしょう?)
声と共に闇が動く。
確かに、どうしてだろう。このまま何もしなければ父上と母上の所へ行けるのに
(貴方は願ったでしょう?消えたいって。)
考えていると体が動かなくなってくる。あぁ、どうしてだっけ。どうして僕は――生きたいと思ったんだろう。
(そう、それでいいの。だから早く……)
ボチャンッ!
闇が動いて何かが落ちてくる。
見開かれる金色の光は僕を真っ直ぐに捉えていて.......
そうだ、この人だ。この人がいたから僕は生きようと思ったのだ。
白い腕がこちらへ伸びる。その手をつかもうとして……
(何をしているの!?違うでしょ?生きるのは辛いだけよ?貴方も罪を犯したのでしょう?それならば償わないと。)
声と共に脳裏に両親の姿が浮かぶ。優しい笑顔の二人が血まみれになって倒れていく。
お前のせいだ。
産まなければよかった。
この人殺し!
あぁ、僕はやっぱり……
『人の気持ちを代弁するな!』
はっと前を向くとアルビレオ様が僕の手を掴んでいる。
その手は何故か暖かくて、自然と安心してしまう。
(何で?消えたいんでしょ?ほら、みんな貴方を憎んでいるわ。)
そうかもしれない。そう思いながらも引き寄せられる力に反抗できない。
父上、母上、どうかお許しください。
僕は二人に迷惑をかけました。そして、その迷惑は最終的に二人を傷つけた。
ごめんなさい、二人の優しさを素直に受け入れられなくて。
ごめんなさい、二人を守れるくらいの力がなくて。
ごめんなさい、二人から貰った愛を返せなくて。
そして、どうかお許しください。今、生きようと手を伸ばすことを。
死をもって償うには軽すぎるこの罪を、生をもって償うことを。
勢いよく引き寄せられてて顔が水面にでる。
「泳いでください!!」
言われるがままに足を動かす。やっとのことで地面に着くと、手を引っ張られた。
「何やってるんですか、この馬鹿!」
目の前の少女は涙目でこっちを睨んでいる。
「池に飛び込むなんて、どれだけ心配したと……」
「心配したのは私も同じですよ。」
いきなり灯りが灯る。ずぶ濡れのアルビレオ様と冷ややかな目をしている専属侍女だ。
「仕方ないでしょ!いきなり飛び込むんだもの。私は人命救助を……」
「姫様まで溺れたら元も子もないですよ。」
「そんなこと言って、私のことも助けてくれなかったじゃない!」
「姫様が速すぎるのです。二階から飛び降りる馬鹿なんていな……ここにもう一人いましたね。」
なんだろう、さっきまで死にそうだったのが嘘みたいだ。でも、
「生きてて良かった。」
心の声が漏れたかと思って口を塞ぐ。だけどその声はアルビレオ様が発したものだった。
触れた温もりがアルビレオ様のものだということに遅れて気づく。
「あ.......アルビレオ.......様?」
何故だろう。アルビレオ様が.......僕に.......抱きついている。
顔をあげたアルビレオ様が涙声で言ってきたのは
「ごめ.......な.......さいっ!」
懺悔の言葉だった。




