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『人の気持ちを代弁するな!生まれた事が間違いだったかなんて、貴方が決める事じゃない!』
さっきのアルビレオ様の言葉が思い出される。
そんなこと言われるとは思っていなかった。
両親は僕を憎んでる。そう疑わなかった僕の心にその言葉はストンと入ってきた。
『二人がどう思っていたかなんて知らない。あの時、貴方が馬車に乗っているべきだったかなんて分からない。でも、貴方は生きている。それだけは紛れもない事実よ!』
僕だけが生きている。それを恨んだことしかなかった。僕も馬車に乗って死にたかった。だけどそうか、僕は生きているのか。
『貴方が死んでどうなるの?貴方が生まれなければ良かったの?そうすれば二人は報われた?貴方の罪は無くなった?違うでしょ。』
僕が生まれなければ二人は報われた。僕が死ねば僕の罪は消える。そんなことを願っていた。
だけど確かに違う。僕が生まれて来なくても事故は起きたかもしれない。僕が死んでもしてしまった事は変えられない。
『公爵夫妻は望んで貴方を産んだ。それが貴族の役目だったからかもしれない。でも、貴方は望まれて生まれた。それなら生きなさいよ!』
無茶苦茶だ。望まなければ生まれない なんて当たり前だろう。
でも、そんな当たり前の事にも気づかなかったんだ。子供は父親と母親が望まなければ生まれない。少なくとも、生まれた時は望まれていたのか。
子供は二人の愛の結晶――僕なんかが愛の結晶だなんて笑える。そう思ったのに顔が動かない。代わりに涙が頬をつたる。
『悲観的になるな!生きている意味が、価値が、ないというのなら作りなさい!最期まで生きたその時に、生きていて良かったって思えるように。』
生きている意味を作る――そんなこと考えたこともなかった。
僕は生きていいのだろうか?たとえ両親に憎まれたとしていても。生きる意味を、見つけてもいいのだろうか?
『貴方がどうしても罪の意識を消せない、というのであれば守りなさい、公爵が作り上げた土地と民を。地位も責任も継いで。』
頭の中に領地の様子が浮かんでくる。綺麗な土地、笑っている民。
いいのだろうか、僕が守っても。あの時何も出来なかった僕にその権利が、いや、義務があるというのだろうか。
あぁ、頭の中が混乱しそうだ。窓の外を見るともう日が落ちている。
『今すぐに決めなくても良いわ。明明後日にはお父様が帰ってくるみたいだからその時までに決めてくれれば大丈夫よ。』
いつ、返事をするべきだろうか。悩んで眠れない。
水でも飲もうか、ベッドを降りたその時、
(こっちに来て……)
何だ?声が聞こえた気がする。
(お願い……)
縋るような少女の声。窓の外から?
(独りにしないで……)
その言葉を聞いた瞬間、体が硬直する。
そのまま自分の意志とは関係なく窓によっていく。そして
(はっ?)
気づいた時にはもう、体は宙に浮いていた。




