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カイトス視点です。
自傷行為が含まれる場面です。苦手な人は飛ばしてください。
何だったのだろう。僕は一人呆然としていた。
ずっと悩んでいた。僕が生きていて両親が死んだ事が悔しかった。
父上と母上はとても優しい人だった。あの時も、なかなか家族の時間をとれないことを心配した二人が僕のために出かけようとしていた事を知っている。それでも断ったのは――恥ずかしかったからだ。
こっそり屋敷を抜け出して領地を見に行った時、僕と同い年くらいの子供が働いている所を目にして驚いた。
両親のいない子供や貧乏な家の子は幼いうちから働くのが普通だと仲良くなった少年が教えてくれた。かく言う彼も五歳の時から普通に働いていたという。
それから両親と過ごすのが恥ずかしくなった。平民の子供は親の愛も知らずに働いているのに、貴族である僕は両親の愛を受け、十分な環境で学べている。いつまでも自立できない自分が恥ずかしかった。
そして、あの時もそんなくだらない思いで両親の思いを踏みにじったのだ。……最低だ。
その後、両親が事故にあったと聞いて心臓が止まるかと思った。呆然としたまま急いで現場に向かうと、たくさんの人混みの中に二人はいた。――血まみれの姿で。
後ろを見ると馬車が倒れていた。取り繕わない領民の姿を見せたいんだと、あえて用意した古い馬車。その車輪には赤いものが付いていた。よく見ると乾いていて、今回の事故で着いたものでは無い事がわかった。
頭の中が真っ白になった。
これが魔獣の血だったら。二人が襲われたのはこの馬車のせいではないか。そして、二人がこの馬車に乗ったのは
――僕のせいだ。
それから、王城に連れていかれて陛下からこれからの事を教えてもらった。
とりあえず、事件性が無いかを調べること。
その間、王城に待機してほしいこと。
出来れば養子として王家に迎えたいこと。
一つ一つ丁寧に聞いてくれた。
「私は君の父上の兄だ。君にとって私は叔父ということになるのだね。直接ではないが多少の血の繋がりはある。どうだ、家族にならないかい?」
強制はしない。君が選べば良い。
そう言ってはくれたものの、養子にならない場合の選択肢を与えられない以上、ほぼ強制だろう。
「無理です。」
気づいたら断っていた。不敬だと怒られるかもしれない。でも、陛下は眉を潜めるだけだった。
「理由を聞いてもいいかい?」
僕は父上と母上の子供で公爵家を継がなければいけないから。――そう言いたかった。
だけど……僕にそれを言う権利があるのだろうか?公爵を殺した僕に……
いつまでも答えない僕に怒ることもなく
「そうか……気が変わったら教えてくれ。」
と言い、陛下は部屋を出ていった。
それからしばらく何をしていたのかをあまり覚えていない。ただ、食事をしようとする度に、寝ようとする度に、
両親を殺した犯罪者が
と言う声が頭の中をめぐった。
何かをすることが怖くなり、何も出来なかった。でも何もしないのも怖かった。
だから自分を傷つけた。痛かったけどこれが自分の罪なのだと思えば少し楽になった。
だけど、傷跡を見た侍女が虐待を疑ったためやめた。
何もしない、何もできない自分が嫌になって自分の存在がわからなくなっていった。
あの時、あの人の言葉を聞くまでは。




