ふぁいやーぼーる!
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
外壁の上からいくつもの火の球が一番体の大きな狼の魔物に次々と飛んでいく。
先ほど質問をしてきたクリスタはJOB値が高いのか、一度に2つも3つも生み出して交互に飛ばしている。
「そんなにいっぱい撃たなくても、ファイヤーボール。いいよ? 疲れちゃうし。ファイヤーボール」
外壁のヘリの上に魔力回復効果が少しだけついている『初心者の魔導書』をイス代わりにして座りながら、おじさんから貰った杖を振ってファイヤーボールを放つ。
ボスっぽい狼の魔物は、面倒そうにそれらを回避する。
そして僕の予想通り、いや、予想以上に他の狼を巻き込んでいた爆発範囲が広い。それとボス狼が飛びのいた先にいた狼を、たまに踏みつけたりもしてる。
「他のメンバーも、ファイヤーボール。自分の魔法を撃つ回数に気を付けて。ファイヤーボール。魔力がなくなる前に、ファイヤーボール。ちょっと多いな、炎の絨毯。休憩を挟んでね。ファイヤーボール」
魔術師のJOBがカンストしているので、魔力回復速度アップのパッシブスキルが最大レベルで手に入っている。さらに魔力の回復速度が微増する魔導書を尻の下に装備(イス代わりに)している。
そのうえで、これまでに火の属性結晶も大量に使用していたのだ。火属性の魔法使用時の魔力消費も抑えられている僕は、無限にファイヤーボールが撃てるらしい。いくら撃っても魔力が減っている気がしない。
これだけの数が飛んでくると避けるのが大変みたいで、ボス狼がせわしなく動き回っている。
舌をだらりと出し、口から涎を垂らしながらもこちらを睨みつけてくる。
顔が超怖い。
「ファイヤーボール」
ついでに炎の絨毯を南門から少し離れた場所に、南門の前を囲むように広い範囲に配置。これで他の狼の魔物が門に取り付きにくくなったはずである。
「わ、若様すげえ……」
「しばらく僕一人で支えられそうファイヤーボール。だから休憩してていいやファイヤーボール」
なんか呪文を言いながら放つのも面倒になってきたなー。
「ファイヤーボール! ひゃああああくっ! れんぱーーーーつ!」
空中に百発ほどファイヤーボールを浮かべて、それを順番に飛ばしていく。
まるでロボットアニメのミサイルを避けまくるワンシーンのようにボス狼は軽快に動き回る。
あ、それでも一発当たった! あ、体勢崩した! 追加がくるよ! さらに来るよ! うわぁ、どんどん当たっていって爆炎と黒煙でボス狼が見えないや。
「あの、若様」
「その若様って固定になったの? えっと、クリスタさん」
「す、すみません、その。お名前をお伺いしてなくて」
そんな相手の指示をよく聞いてたねみんな。ロドリゲスが一緒だったからかな?
「……そっか。ジルベール=オルトだよ。領主であるアーカム=オルトの次男ね」
「はい! ジルベール様! その、当たったみたいなんですけど」
「うん。せっかくだから作った分は全部撃っちゃおうって思って」
順番待ちのがファイアーボールが、どんどんと消費され、ドンドンと爆発していく。
なかなかすごい光景である。
「若様、お飲み物です」
「千草、ありがとう。よく用意してたね」
「街の住人が持ってきてくれたんです」
一口飲むと、さっぱりした果物の飲み物みたいだ。少しぬるいけど美味しい。
「千草はいま余裕がある?」
「門の周りの炎は若様の魔法ですよね? あれで千草や弓兵の手が空きました。壁に取り付く狼もいないみたいですし」
そっか。
「他の狼の魔物、減らせるなら減らそうか」
ボス狼が爆炎に飲み込まれているさまを、唖然と見つめる周りの狼達。
「その方が良さそうですね。兵士長! 届く範囲の狼に攻撃を開始です!」
「了解でさぁ!」
そんな唖然とする狼達の上空から、問答無用に降り注ぐ矢。
レッドウルフや一角ウルフは、序盤の敵だ。レベル一桁のユージン達でも勝てる相手なので、訓練された兵士達の弓であっさりと絶命していく。
先ほどまでは動き回っていたので命中率は高くなかったのだが、今はどの個体も爆炎に視線がくぎ付けだった。足を止めてしまっていたのだ。
「きゃうん!」
「くーん!」
思ったよりも可愛らしい声で悲鳴を上げる狼達。そんな『え? いま攻撃してくるの?』みたいな顔でやられるのはやめてほしい。
「黒煙が邪魔でよくわかんないね。風よ、煙を吹き飛ばせ」
ファイヤーボールの着弾点が煙を延々と生み出していたので、その煙を風の魔法で吹き飛ばした。
そこには、焼け焦げて加熱されすぎ、半ば溶岩と化した地面……それと、頭蓋骨の一部。
「倒せた、みたい?」
「の、ようですね。あまりの熱に皮も肉も骨も燃え尽きてしまったんでしょうか」
ただのファイヤーボールだけど、20発も30発も重ねるととんでもない威力になるみたいだ。
「うおおおおお! ジルベール様! ばんざーーーーい!」
兵士長って呼ばれたおじさんが声を上げると、他の兵士達も口々に歓声を上げた。
そして狼達がこちらを見て、怯えた表情を見せると、次々と走り去っていってしまう。
「勝てちゃった?」
「勝ちましたね」
僕が呆然と呟くと、千草もニッコリ頷いて肯定してくれた。
「ジルベール様!」
「あ、ファラッド様」
「遅れてすまない! それと、初陣での勝利おめでとう」
「えっと、ありがとうございます?」
これが初陣になるってこと? 今まで何度かダンジョンに行ったけど?
「さあ、そんなところにいないで、街のみんなに顔を見せてあげるんだ!」
僕の作戦では、ボス狼のタゲを取ってる間に周りの狼をなんとか減らし、周りの狼が減ったらロドリゲスと千早、千草を投入するつもりだったんだけど。
「ほら、まったく! この英雄様は小さいな!」
ファラッド様は座っていた僕を抱えると、そのまま肩車をして外壁の内側に顔をだした。
「王弟殿下ベルベット=フランメシア=モーリアント公爵が家臣! ファラッド=モーリスである! 凶悪な魔物はこのジルベール=オルトが見事に倒したぞ!」
「「「 うおおおおおお!! 」」」
「うわ、うるさっ」
思わずのけ反りたくなるほどの大音量だ。
兵士達だけじゃなく、住人達も声を上げているほどだ。
「だが取り逃した魔物はまだ多くいる! 安全が確認とれるまでは南門から外には出ない方がいいだろう! 分かったな!」
なぜかファラッド様がこの場を収めてる。いいの?
「ほら、ジルベール様。何か声をかけてあげて」
「ええ? 僕はいいよぅ」
「ならば手くらい振るといい」
言われた通り手を振る。
「かわいいー!」
ありがとー。
「ところでファラッド様」
「なんだい?」
「こちらには何しに? 宿に戻るように伝言を受けられませんでしたか?」
「いやあ、あっはっはっはっ」
適当に笑っても、ごまかされないからな? 完全武装してるじゃないか。




