範囲攻撃の提案
スタンピード。
魔物の氾濫とも呼ばれる現象で、周辺の魔物を統率する能力を持った魔物が進化などによって発生した際に引き起こされる現象である。
防壁のしっかりしていない村や町では簡単に滅ぼされてしまうほどの魔物が発生することがあり、時に国を存続の危機に陥らせるほどの危険な現象でもある。
「……これだけか」
「申し訳ありません!」
これだけ、というのはこちらの戦力だ。
街の外壁の上に整列する弓を持った兵士が30人。それと魔術師の兵が3人だ。
こちらに近づいてくる砂埃の発生源を相手にするには、あまりにも心もとない。
「よし。オレと千早で降りるぞ」
「分かったわ」
「分かんな! 何言ってるのさ!? 二人は門の内側の防衛だよ!」
兵士達も含めて驚いた表情をした。
「例のサイズの違う魔物はあれだね。弓矢組はそれ以外の魔物を狙って。特に門を壊そうとする狼を中心にね。魔術師組はあのボスを狙うよ」
「え? いや、だがな」
「ロドリゲスや千早がいくら強くってもあんな数を相手にしてたらダメージを受けるでしょ。どう考えても反撃されない位置から削るべきだよ」
あの狼の強さは分からないけど、見た目はかなり怖いし大きさもトラック並だ。人が正面に立って戦うような相手ではないはずだ。
「若様、矢も魔力も限りがあるわ」
「そ、そうだ!」
「だから攻撃相手を絞るんだよ。普通の狼の大きさなら外壁を飛び越えるなんてこともなさそうだし。門を守りさえすれば勝ちでしょ。別に今倒さないといけないわけじゃないんだし」
「「 あ!! 」」
領都の周りを囲っている外壁の高さは10メートル以上ある。いくら魔物でもひとっ跳びで飛び越えられるものではない。あのボス狼は分かんないけど。
そして相手は、人のように梯子をかけて外壁に登ってきたりするようなタイプの魔物ではない。狼である。
「基本的に弓矢を持った兵で門に近づく魔物を倒す。千草はそれに加えて、周りを観察して壁を登ろうとしたりする狼を倒して。こちらの手が足りず、門や壁が突破された時に備えてロドリゲスと千早は待機。突破されたら弓の使えない兵士達と一緒に倒して。残りの魔法兵は僕と一緒にボスの邪魔をする」
僕が一気にまくしたてると、兵士達は一瞬顔を見合わせていたが、頷いてくれた。
「本当は外でボスを倒してくれる戦力が欲しいけど、お父さんもお兄ちゃんもいないからね。それならボスを徹底的に邪魔する」
「質問があります!」
「はいどうぞ」
「今年配属された、魔術兵のクリスタです! ボスの邪魔とは具体的にどうすればよろしいのでしょうか!」
ローブを羽織ったおさげ髪の女の子が、ハキハキとした口調で質問を口にした。
「基本はファイヤーボールです。それだけを撃ち続けます」
「ファイヤーボール、ですか?」
ファイヤーボールは魔術師の初歩の魔法だ。
火系の魔法を覚えようとすると、ほとんど漏れなく覚えられる。
「確かに威力はあるかもしれませんけど」
「速度も遅いし、当たらないんじゃ……」
「使えはしますが、実戦で使ったことはほとんどないんですけど」
僕の提案に魔法兵の3人がそれぞれ口を開く。
おじさんも言っていたんだけど、ファイヤーボールってあんまり人気のある魔法じゃないのよね。
ゲームだと魔法は必中みたいなところがあったけど、現実では動く相手を狙って撃たないといけないから命中率が低い。MP消費は少ないけど、同じMP消費ならファイヤアローの方が連射できるし速度も早いしJOBが上がったら一度に五発も十発も放てるのだ。MP効率的にもダメージ量的にもファイヤーアローやファイヤランスの方が便利だった。
「じゃああの強そうなボスの魔物を倒せそうな魔法、誰か使えますか? 周りの動き回る狼にこの距離から魔法を確実に命中させられますか?」
僕は倒せそうな魔法は使えるし当てることもできるけど、他のメンバーは自信がないようだ。でもそれは仕方がないだろう。今この場にいる魔法兵はお父さんが連れて行かなかったメンバー。実力が劣っているのはしょうがない。
「ファイヤーボールのいいところは、着弾地点で爆発をして爆音を出すところです。これでボス狼に対抗します。相手も避けるでしょうね」
「は、はい」
「でも爆発地点の近くに他の狼がいたら、巻き込めます。石や岩などの破片が周りに散らばります」
爆発するからね。
「確かに……」
「全員で同じ魔法を撃つのは、ファイヤーボールが初歩の魔法で全員が使え、それなりに威力があり、それでいて魔力の消費が少ない魔法だからです。あのボス狼はともかく、それ以外の狼ならば倒せる威力があります。倒せなくても爆風や石や岩の破片に巻き込まれて動きの鈍った狼なら、矢で狙いやすくなります」
特に僕のファイヤーボールは桁違いに強い。
JOBカンストで威力アップアップ、火の適正で火力マシマシの僕のファイヤーボールは、ダンジョンで使用禁止を受ける程度には威力が高いのだ。
「それに爆音も響きますから、狼もビビッて逃げていくかもしれません」
「それは、どうでしょう」
「まあ無理かもですが、とにかく、相手の自由を奪うのにちょうどいい魔法です。指示に従ってください」
「「「 了解! 」」」
「領主のお父さんは不在ですし、母もいません。いま代表として話せるのは僕しかいません。不安かと思いますけど、どうか協力をお願いします。みんなで街を守りましょう」
「「「 おーーー! 」」」




