これはきっとイベントだ、そうに違いない
「ご無事の帰還に安心しました」
「すまない、ジルベール様。ご迷惑をおかけした」
ロドリゲス達が無事に帰ってきたので、玄関までお出迎えだ。
色々心配だったけど、一人になれたのでチュートリアルダンジョンに行ってJOBポイントの回収とアイテムの確保も終わったので内心はホクホクである。
日が暮れて外が真っ暗になっても戻ってこなかった時は心配だったけど、無事に帰ってきて心底ホッとした。
「事情は気になりますが、もう今日は夜です。疲れもあるでしょうから、詳しくは明日お聞きしたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。明日の……朝少し経ったらお伺いいたします」
「ではそれでお願いします」
「それと、こちらを」
ファラッド様は、閣下の手紙を僕に渡してきた。
「少々気が緩んでいたようです。今の私を閣下も信用されないでしょう。現状、最もふさわしい方にお渡ししておきます」
「……事情は分かりませんが。でも間違いなく、お預かりいたします」
「ジルベール様、一緒に保護した者たちです。商家のボビーとその息子のジョージです」
「はい、二人ともこんばんは。無事で何よりです」
「へえ」
「若様、彼らは荷車と商品の一部を失いました」
ありゃ。まあ荷物くらい命と比べれば安いものよね。
「命だけでも無事でよかった。父が戻り次第、何か補填できるようなものが用意できるか言っておきます」
「はっ! ありがとうございます」
子供のジョージ君だっけ? 彼は父親と同じように扱えばいいか。
「こちらは森に住む錬金術師、ジェニファーといいます。彼女のいる家の周りには狼が多く現れ、とても帰還することはかないません」
おお、なんか世捨て人っぽい! とはいえおばさ……妙齢の女性であって、仙人みたいな人じゃないけど。
「ひとまず宿の手配をさせます。今日はそちらに泊まってください。明日以降に関しては……ロドリゲス、今日行動を共にした男から指示が行きますので、それに従ってください。間違っても一人で森の家に帰らないようにお願いします」
「はい!」
彼女は家を失ったような状態だ。とりあえず一晩休ませて、そのあとどうするか……。
ロドリゲスがその辺の人の使い方は知っているかな?
「ロドリゲス、千早、千草、怪我は?」
「小さな怪我は全員ありましたが、すでに治療をしました」
千草が対応してくれたようだ。
「そっか、三人ともご苦労様。ロドリゲス、疲れているところ悪いけど」
「はい。宿の手配ですね」
「ファラッド様を送りがてらお願い。彼女もファラッド様と同じ宿でいいよ」
扱いが分かんないしロドリゲスもあっちこっちいかないで済む。
「了解しました」
僕は改めてファラッド様に視線を送る。
「ジルベール様。彼らを派遣していただき、ありがとうございました」
「「「 ありがとうございました 」」」
「こちらこそ我が領の民を守っていただき感謝です。ロドリゲス、後はお願い」
「かしこまりました」
僕はほとんどの時間を屋敷でダラダラ過ごしていただけだけど、みんなは森の中を歩き回ってたんだ。早めに解散してあげないとだ。
ロドリゲスの案内で、お客様方は帰っていった。
「千早と千草もご苦労様。お風呂やっておいたからゆっくり休んでおいて」
「はい、では若様も」
「僕は先に入ったから平気。一応待ってるけどロドリゲスが戻る前に僕が寝ちゃったら起こして。お風呂のお湯を張りなおすから」
「若様は優しいわね」
「お風呂に一緒に入れないのは残念です」
「いいから。リビングにいるね」
もちろん起きていられるわけもなく、お風呂上がりの千早に起こされる。
食事も取っていなかったので、ロドリゲスが軽い物を作ってくれたのでそれを食べておやすみだ。
起きてるだけだったら普段してるんだけど、人を心配しながら起きてるのは結構堪えるものがある。
お父さん達、大丈夫かな。明日ロドリゲスに頼んで、鳩を飛ばしてもらうことにしよう。
翌日、朝食を取りながら昨日の報告をしっかりと受ける。
ファラッド様が報告にくるから、前もって情報を仕入れておくのだ。
「亜種か上位種の狼系の魔物ね。いやなタイミングで出てきたなぁ」
「魔物は時期なんか待ってくれないもの」
「仕方ないことですけど」
「狼系の魔物は戦闘力もそうだが、一度隠れられると見つかんねえんだよな」
どちらにせよ駆除対象だ。
「んー、とりあえず南側の森付近に注意喚起と、立ち入りの禁止を通達するべきかな? 討伐はお父さん達が戻ってからだし」
「ロドリゲス。旦那様がお出かけの時はどうしてたの?」
「ミレニアが対応していた。なんだかんだ言って戦闘能力は高いからな」
「お母さんかぁ……千早達で対応はできない?」
「ファラッドが互角以上に戦えて、周りの狼の邪魔がなければ逃がすことも無かったって言ってたから見つければ勝てると思うけど」
「ファラッド様の時のように逃げに徹されると厳しいでしょうね」
「つーかもう手出しをしにはいかせねえぞ。やるんならオレだけが行く」
「分かってるよ。ファラッド様が関わってたからみんなにお願いしたんだし」
ぶっちゃけファラッド様が閣下の遣いだったからみんなに動いてもらったのだ。ファラッド様が無事でなかったとしても、閣下からの手紙だけは回収しなければならなかったからだ。
ロドリゲスだけは理解してたと思う。
もしファラッド様が閣下の遣いではなく、ただこちらに遊びに来ていただけの貴族であればここまでの対応はしなかった。
一度か二度顔を合わせただけの相手より、ロドリゲス達の方が大事だ。
「とにかく狼の魔物の対応は後回しでいいや。領民に魔物が出たことを巡回兵達から南の森に近づかないように通達を。森に住むジェニファーさんだっけ? 彼女の救助は無事できていることも伝えさせて。森に他に住んでる人なんていないよね?」
「居を構えている者はいないな。狩人が森小屋で閉じ込められている可能性はあるが」
その可能性は考えたくないなぁ。
「救助の人間は出せないですね」
「だな」
「そもそも出しても意味はなさそうだわ」
そうなんだよね。救助に出した人に被害が出る可能性が高いし、そもそも生き残っていなそう。
「伝令! 南門付近に多数の狼型の魔物が近づいています!」
「っ!」
門番の一人が走りこんできた!
「どのくらいで到達する!? 数は!?」
ロドリゲスが声を張って質問を飛ばした。
「時間に猶予はあまりありません! 総数は不明です! 明らかに体格の大きな魔物もいます! 兵隊長はスタンピードと判断!」
「なんでお父さんのいないときに!」
昨日の騒動はまだまだ尾を引きそうだ。
ゲームのストーリーがいよいよ始まったのかもしれない。これは心して掛からないと大変な目にあうぞ!
「装備を整えて南門に移動! 外壁の上から状況を確認するよ!」
僕は立ち上がって、門番の男に言う。
「ファラッド様が来たら丁重に説明して宿に帰ってもらって! 来客は全部断ること! ロドリゲス! 千早! 千草! すぐに移動!」
「ジル坊!」
「若様! 駄目です!」
「外壁の上から攻撃できるのは僕と千草だけだよ! 問答してる時間はないからね!」
兵士の中には魔法や弓の使い手もいるかもしれない。でも数が不明なほどの敵が来ているのであれば、一人でも戦える人間は多い方がいいに決まっている。
「ロドリゲス! 早く動け!」
「っ! 了解だ! 状況によっては抱えてでも連れて帰るからな!」
ロドリゲスが慌てて飛び出すと、千早は僕を抱きかかえて部屋に連行。素早くダンジョンに行ってたときの装備を準備してくれた。
僕は一人で着替えられるお子様なので、二人にも準備をさせる。
机の引き出しを開いて、JOBをシーフから魔術師に久しぶりに変更した。




