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捜索! 発見! 合流! てったいー!

千早目線です


こうやって〇〇目線って書かなくてもいいだろっていう自信が欲しい

「南の森、あそこね」

「まずいぞ、思ったよりも時間がかかった」

「すみません、足のいい馬は領主様が利用中でして!」


 付き添いの兵士が焦ったように声をかける。でも焦りがあるのはこちらもよ。


「千草、大丈夫?」

「平気よ」


 千草はあたしと違い運動が苦手だから少し心配ね。出かけてからずいぶん口数も少なくなってきたし。


「森の手前で降りるぞ。コナー、馬を頼んだ」

「了解です。その、本当に日が沈んだら戻ってしまっていいので?」

「ああ、後ろから追いつくから大丈夫だ」


 昼の明るい時間はともかく、夜の暗い時間に走れる馬は相当訓練されたものだけだ。


「さて、とりあえずジェニファーのところだな」

「ジェニファー?」


 誰?


「この森に居を構える錬金術師だ。森に来たんなら会ってるかもしれん。森の中の道をたどれば着くしな」

「錬金術師……若様の教師にどうかしら」

「そうね、あたし達じゃ教えられないもの」


 あの可愛らしい小さな主はとても優秀だ。あたしではほとんど教えることがないくらいには優秀。

 天才と呼ばれる種類の人間だもの。


「とりあえずこっちだ。道があるからそこを通ろう」


 ロドリゲスの案内で森の中を進む。するとすぐに何度も荷馬車か荷車が通ったであろう獣道が顔をだす。


「シンシアのやつがいればな……」

「シンシア先輩は追跡が得意なのですか?」

「ああ、そういう種類のJOB持ちだ。まあいないもんは仕方ねぇ。とりあえずオレ達はやれることをするぞ」


 そう言って森の中を慎重に歩いていく。


「魔物が来ないわね」

「この辺の道はジェニファーが魔物除けの薬を定期的に撒いてるんだ。だから滅多なことがない限り……」


 ロドリゲスが足を止めて、右手を上げる。

 あたしは懐かしいそのサインに足を止め、千草をいつでも庇えるように周りを警戒。


「な、何?」


 あたし達の行動の意味が分からない千草が、驚きつつも声を殺して聞いている。


「……血の匂いだ」


 ロドリゲスが剣を抜いてゆっくりと歩を進める。

 千草はロドリゲスの後ろを歩かせ、あたしは後方を警戒。若様の言う通り、3人で来て正解だったわ。


「ここだな。血の跡がある」

「ほんとだ」

「片付けられているわね。人の仕事だわ……そうなると」


 あたしはその場から周りを見渡すと、木の元に草やコケのないむき出しの土を見つけた。


「ここね。土が掘りかえされて埋められてるわ」

「踏み固められた足跡が残ってるな、こりゃ最近のものだぞ」

「ふ、二人ともすごい……」


 千草が満足に戦ったのは、貴族院の授業と姫様のところにいたときのダンジョンでの戦闘だけだったわね。

 こういう判断や知識は実際に冒険者として活動したことのない千草には分からないのもしょうがないわね。


「当たりを引いたかしら」

「まだ断定できねえが、少なくとも狩人以外のやつがここを通ったのは間違いねえな。狩人なら毛皮くらいもってくだろうし、その時間がないほど逼迫してたなら埋める余裕なんてねえ」

「魔物除けが効いていない?」

「分からん。とにかく、奥にいくぞ」


 ロドリゲスがより警戒心を上げる。

 あたしは緊張した千草の肩をたたくと、先に進むように誘導。

 千草の体はだいぶ強張ってるわね。





「あそこだ! 囲まれてやがる! オレは攻め立てる!」

「あたしは防御ね。了解」


 目的地付近、森の中の一軒家が見えてくると、その一軒家の状況も見えてきた。

 レッドウルフや一角ウルフといった狼種の魔物が、その一軒家を遠巻きに囲んでいたのだ。


「アオーーーーン!」


 狼の遠吠えと共に、一斉にこちらに注意が向く。こっちが風下だったから気づいてなかったみたいね。


「おおおお! バッシュ!」


 ロドリゲスが剣でレッドウルフに鋭い一撃を叩き込んだ! その攻撃で止まらず、剣をすぐに持ち上げて次のレッドウルフに攻撃を仕掛けた。


「飛剣、横一文字」


 刀ではないので威力に不満が出る攻撃。それでもあたしの放った飛ぶ斬撃は、狼達をまとめて三匹にダメージを与えた。二匹はうまく倒せたわ。


「我が敵の自由を奪いたまえ! フォレストアイビーバインド!」


 千草の魔法! すごい! 周りの木々からツタが伸びて、狼達を捕まえていく!


「はあああ!」

「せいっ!」


 それでもすべての狼を捕縛できているわけじゃない。自由に動き回る狼を、ロドリゲスが優先的に攻撃をしていく。

 あたしは千草の近くから離れられない。飛ぶ斬撃は使えるけど、下手に放つと千草が生み出した蔦を切ってウルフを自由にしてしまう。

 剣を構えたまま牽制をするしかやることがないわ。


「姉さん、何体か引き寄せるから」

「トドメを刺せばいいのね? 一匹ずつ頂戴」


 千草に聞くと頷いた。


「ええ、後回しにしてもいいけど」

「ロドリゲスに余裕があるときにだけにして」


 狼の数が多い時は手が出せないわ。

 ロドリゲスが前に立ち、狼の攻撃を優先的に受ける。左右に回り込もうとする狼は、千草の魔法で捕まえる。

 そうなるとロドリゲスを突破し、正面から抜けてくる狼があたしの相手。


「はっ!」


 とはいっても、レッドウルフじゃ相手にならないわね。一撃で倒せるもの。

 勢いよく飛び掛かってくるのを抑えるのが苦労するくらいかしら?

 殺したまま後ろに流すと、千草に当たっちゃうから考えないといけないわね。


「よし、敵がビビりだしてきたな」

「でも攻め気が消えてない。狼種だし、群れのリーダーに命令されているかもしれないわ」


 そう、これだけ圧倒的な差があれば狼種の魔物ならば、逃げ出しているはずだ。

 でもそれをしないというのだから、何かに命令を受けている可能性が非常に高いわ。


「はあっ! せいっ!」

「こんにゃろ! 匂い玉くらえっ!」


 あたし達が戦っている正面から、そんな声が聞こえてきた。


「ファラッド様! 無事か!」

「ロドリゲス殿か!」

「怪我はないですか!?」

「っ! その声はっ!」

「ええ、あなたのお迎えよ」

「シャーマリア嬢!」

「ちょっと! 止まらないで走ってよ!」

「す、すまん」


 お目当ての男が見つかったわ。よかった、そろそろ撤退しはじめないといけない時間だったもの。


「フォレストアイビーバインド!」


 千草の声に、再び近くの木々や地面からツタが生まれて狼達を捕えた。

 洞窟型のダンジョンや草原型でばかり戦っていたし、千草は回復魔法と補助魔法が基本だったけど、こういう便利な魔法も持っているのね。


「どういう状況だっ! 逃げちゃいかんのか!?」

「すまん! 少なくとも見える範囲は全部倒したい!」

「なんでだ!」

「街の商人が来てるのよ! このまま狼に囲まれてたら食料が尽きるわ! こいつらは食えないし!」

「ジェニファー! 怪しい薬ばっか作ってないで食えるもんも作っておけよ!」

「今日は注文票と錬金素材の納品の日なのよ!」

「家の周りに狼がいないのは、薬の効果?」

「そうよ! でも一番強いのには効かなかったのよ!」

「一番強いの? どれ?」

「今はいない! なんとか迎撃した! そいつは引いたが周りの小物が撤退してくれんのだ!」


 戦闘が続くなか、ファラッドが声を上げる。

 このままじゃダメね。


「千草と、そっちの、薬投げてる人!」

「ジェニファーよ!」

「二人は庭から援護を、あたし達が周りの狼を片付けるわ。3人いれば倒しきれるでしょ」

「いい案だ!」

「相変わらず冷静だな。シャーマリア嬢は」

「ここまで来た道を中心に、左があたし、右がロドリゲス。屋敷の後ろ側にファラッド、それでいいわね?」

「了解!」

「分かった!」




「ご迷惑をおかけしまして」

「いや、それはいいですが、どういった状況で?」


 あたし達の代表として、ロドリゲスがファラッドに問いかける。でもそんな質問より、もうすぐ日暮れよ? 急ぎたいんだけど。


「とりあえず、若様のところに戻らないといけないんだけど。日暮れ前には森を出るように言われてるわ」

「シャーマリア嬢?」

「今はアーカム家のメイド、ただの千早よ」

「同じく千草です、ジェニファーさんはこちらの?」

「ええ、錬金術師のジェニファーよ。こっちが商人のボビーさん」

「うっす」

「それとボビーさんのお子さんのジョージ君よ」

「ど、どうも」


 ファラッドの話によると、亜種だか上位種の魔物が出たからこちらに伝えに来つつ、実物を見てやろうと思っていたらしい。


「考えなしね。興味本位で魔物を見に来るからそうなるのよ」

「千早!」

「申し訳ない、シャーマリア嬢の言う通りだ。レッドウルフの上位種程度ならどうとでもなるかと。実際戦ってみればどうにかなりそうだったんだが……」

「代わりにこれだけの狼に囲まれてしまったと」

「そうだ。四方を気にしながら狼との戦闘を長時間こなすのは難しくてな、少しずつ削っては休憩を繰り返していたんだ」


 魔物除けの効果がレッドウルフや一角ウルフには効果があったから、柵の内側には入ってこないらしい。

 でも上位種にはそれが効かなかったらしく、柵の中での戦闘になったそうだ。

 ファラッド一人で戦える程度の相手ではあったので、深手を負わせることはできたとのこと。でも逃がしてしまったらしい。


「また来るでしょうね」

「ええ、その前に移動したいわ」

「せっかく周りの雑魚は片付けたんだ。今のうちに領都に行きましょう」


 ロドリゲスの提案に、あたし達は頷いた。

 相手は狼型の魔物の上位種で、群れのボスにもなっているのだろう。しかも種の違う魔物まで従えているとなると、厄介な相手だ。


「ファラッド様、指揮を」

「……分かった」


 ちらりとこちらを見たけど、大人しく受けるようね。


「先頭はロドリゲス殿、頼んだ。その後ろにジェニファー嬢」

「嬢だなんていらないわ。呼び捨てでいいわよ。貴族サマ」


 ジェニファーと名のった錬金術師の女性は、それなりに若く見えるわね。


「商人の二人がその後ろ、すまんが荷車はあきらめてくれ」

「はい」

「分かりました」

「シャーマリア嬢達はその後ろだ」

「分かりました」


 千草を守れる位置にあたしを置いたのはいい判断よ。


「最後尾は私だ」

「あー、ファラッド様、最後尾と最前列をチェンジで」

「ロドリゲス殿?」

「最前列を頼む、オレが一番後ろだ。これは譲れん」


 ロドリゲスの言葉遣いがだんだん雑になってるわね。


「……了解だ、とっととこの森を抜けよう」

「それと、何かあったらオレ達を置いて逃げてくれ。あんたには立場がある」

「……了解した」


 ロドリゲスの緊迫した気配に、ファラッドがしっかりと頷いた。

 今更ながら自分の立場というものを理解したのだろう。

 結局、ファラッドが遭遇したというリーダー格の上位種は現れなかった。

 日暮れは過ぎてしまっていたけど、なんとか森を脱出できたわ。


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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
誰目線というのは常にあったほうが読者としてとても有難いです! フリガナなんかも小学生高学年位からはあると有難い事も多いと思います。
[気になる点] > ロドリゲスの案内で森の中を進む。するとすぐに何度も荷馬車か荷車が通ったであろう獣道が顔を顔をだす。  ◇ ◇ ◇  『何度も荷馬車か荷車が通ったであろう獣道』 …パワーワードだ…
[一言] ジェニファー男じゃないのか?思いっきり街の人たちが錬金術師のおっさんって言ってるけど。
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