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来ない!

「サフィーネ姫様からのお手紙はどうだったんですか?」


 暗くなる前に姫様からのお手紙を開く。

 魔法の光はあるけど、夜は寝るものだから明るいうちに開くのだ。


「丁寧に書かれたご挨拶と、可愛らしい字だよ」


 あとカードまたくださいって内容と、今度会える時を楽しみにしてますとの内容だ。

 なんか遊びに来る的なことが書いてあるんだけど、これはお父さん宛に出されたお手紙に書かれているかな?


「お返事を書かないといけないですね」

「うん」


 でも何をどう書けばいいだろうか。


「奥様に相談してから書きましょう」

「それがいい、かな? お父さんにも聞かないと」

「若様、女性からのお手紙を他の男性に見せてはいけませんよ?」


 ニッコリ笑顔の千草がちょっと怖い。


「ではお風呂に入ってしまいましょう」

「はーい」


 お母さんがいないのでお風呂を沸かすのは僕のお仕事だ。

 浴室にいってお湯を作る。

 そして脱衣所で服を脱ぐと、千早と千草も入ってきた。


「一人で入れるよ?」

「今日は一緒」

「今日はご一緒でお願いします」


 そういって二人手早く脱いで僕の手を握る。


「流すわ」

「掛けてください」


 背が高くスリムでアスリートを思わせる千早と、胸が大きく可愛らしい千草に両側から洗われる僕。

 しかし……。


「なんか丁寧すぎない?」

「そうです? 王宮ではいつもこうだったわ」

「それ、国のお姫様が相手だからだよね?」

「そういえば若様は男の子ですものね」

「そういえばって何さそういえばって」


 体を流された後は、浴槽に入る。


「そうやって髪を二人して下ろしてると、やっぱり似てるね」


 千早のが少し目が細いし、顎がシャープだけどやっぱり姉妹。


「そもそもこの国では黒髪が珍しいもの」

「それを言ったら僕の赤い髪もそれなりに珍しいけどね」


 お母さんがそうだけど、僕みたいにここまで赤い髪の持ち主を他に見たことがない。


「南の地方には多いみたいですから、奥様のご先祖様はそちらのご出身なのかもしれません」

「そういえば、お母さんの実家の話って聞かないなー」

「そうなの?」

「うん。この間王都行った時もお母さんの実家の話でてこなかったし」


 王都に行ったとき、お父さんの実家にしか行っていない。


「奥様のご実家は、いまはございません」

「え? ないの?」

「はい。奥様が最後の後継だったのですが、旦那様とご結婚をされたので」

「そうなんだ」


 お母さんは王都の男爵家出身らしい。早いうちに両親と死別、貴族院の魔法師団コースに在学中から冒険者として活動をし、そのまま貴族らしさから遠のいていったらしい。

 その後、同じく冒険者として活躍していたお父さんと何度かパーティを組んで、お互いに惹かれあったという経緯とのこと。それなりに年が離れている千早や千草が知っているということは有名なお話なのかもしれない。


「素敵な話ですよね」

「何度聞いてもよく分からないわ」

「ごめん、僕も理解できない」


 今の流れのどこにときめきポイントがあったのか分からない。

 そんな雑談をしつつ、肌色と湯気の時間は終わりを迎える。

 さて、どうやってこの二人を躱してチュートリアルダンジョンに行こうかなぁ。






 お父さんたちが外泊した時のシンシアと同様に、千早と千草の二人は僕にくっついて離れなかった。

 お風呂は一緒に入るし、寝るときは同じ布団で寝る。

 勉強の時間になると千早か千草の片方がロドリゲスの手伝いに行くので一人になるけど、結局どちらか片方が僕についていた。

 むう、隙がない。


 寝る前の時間に魔法でカードの作成。これは千草と一緒にいつも行っている。

 本気でやるといくらでも作れてしまうので、飽きたら終了だ。

 あまり多く作ると、もっと注文をよこされる可能性だってあるからね。


「しかし遅いね、ファラッド様」


 先日いらしたファラッド様。昨日は休んで今日来られるっていうお話だったけど、お昼過ぎても顔を出さない。


「……確かに。何かあったわね」

「千早?」


 何故か千早が何かあったと断定した。


「彼は学園の同期で知った顔なの。この手の約束を違えるタイプの人間じゃなかったわ」

「それめっちゃ問題だよ! 何かあったんじゃん! 早く言ってよ!」

「姉さん!」


 僕と千草が立ち上がった。


「ロドリゲスに声かけてくる!」

「はい!」

「大丈夫だと思うけど……」

「姉さん! 大丈夫かダメかの問題じゃないのよ!」


 閣下から手紙を預かった賓客だ。領内で何か問題が起きたら大問題になりかねない!

 調理場にいるロドリゲスに僕が慌てて声を掛ける。


「ロドリゲス! ファラッド様が来ない!」

「へえ。まあ多少の遅延は……」

「千早の同級生でそういうタイプの人じゃないって!」

「は? そりゃまずいじゃねえか!」


 貴族で時間を守るタイプの人は、きっちり守る人である。15分前行動気質な人達も珍しくないらしい。

 ロドリゲスもそれを理解しているので、慌ててエプロンを外した。


「狩場のことを聞かれた! もしかしたら森に行ってるかもしれん!」

「まずいじゃんか!」

「とにかく、宿に行ってくる!」

「お願いっ!」


 ロドリゲスが慌てて屋敷から飛び出していく。

 その後、また素早い行動で帰ってきたロドリゲスがこう言い放った。


「昨晩から帰ってきていないらしい」


 その言葉に、僕の顔は青ざめるのであった。




「街の門兵にファラッド様の特徴を聞いて街から出ていないかの確認をした……どうやら南の森へ出かけたらしい」


 ロドリゲスが肩を落としている。


「あー、最悪だぁー」


 僕も頭を抱えるしかない。


「探しに行く、しかないよね……」

「見つかる見つからないは別にしても、何かしら行動を起こさないとダメですね」

「ほんと、面倒ね」

「でも、動かせる人員が少なすぎる……」


 騎士や兵士に所属しているJOB持ちのほとんどがお父さんについていってしまっている状況なのだ。

 屋敷の門番をしている兵士とその交代要員、彼らが全員JOB持ち。それとお父さんの代わりに兵士を取りまとめている人がJOB持ち。

 残っている兵士達の中に何人かいるくらい。


「狩りにでも行って、迷ったのかしら」

「姉さんじゃないんだから……」

「とにかく、オレが探しに行ってくる」

「一人じゃダメ。千早と千草も行ってきて」

「いやいや、ジル坊の守りを外すわけにはいかん」

「千早の同級生が遭難してるんだよ? つまり実力的には千早と同等以上と考えるべきでしょ。その人が遭難ってなったら怪我の可能性がある。治療できる千草は必須だよ? そうなると、千草を守るための千早も必要になるでしょ」


 南の森はよくお父さんが討伐に行く森だ。

 たまに亜種や上位種が出るって言ってた。ロドリゲスは剣士。千早も二次職の侍。

 ファラッド様の実力は分からないが、千早と同じく二次職であるならば、千早と同程度と考えていい。

 もしファラッド様が単独で勝てない相手と遭遇していたらロドリゲスだけでは危険だ。


「若様の護衛のが大事です」

「そうね、若様の方を優先するわ」

「僕は屋敷から出ないよ。それなら安全でしょ。いいよね?」

「いいわけあるか!」

「護衛のいない貴族の子なんていないわ」

「今は護衛いらないでしょ? 屋敷にいてどこに危険があるのさ」

「若様、だめです」


 むー、でもこのままロドリゲスを一人で行かせるわけにはいかない。

 あー、これは怒られるかな。


「じゃあ、ロドリゲス。僕もいくよ。JOB持ちだし」


 魔術師とシーフのハイブリッドだぞ。


「『じゃあ』じゃねえ。何考えてんだ」

「二人が僕の護衛するしかないなら、護衛対象の僕が森に行けばいいかなって。四人になるね」

「それこそダメだ。オレはウェッジ伯爵どころかミドラ坊にも劣るんだぞ。何かあったら守り切れん」

「千早もいるし」

「護衛対象である若様を危険な場所に連れていくわけにはいかないわ」

「何かあったら千草が治してくれるよ」

「そういう問題ではありません」

「いや、僕がわがままを言っている感じになってるけどね君達、相手は公爵家の遣いなんだよ?」


 そうなのだ。相手はお父さんよりも遥かに上の、それこそ王族の遣いなのだ。

 そんな偉い人の遣いにトラブルがあり、それを知っている僕が何も行動に移さなければ、お父さんの立場が悪くなる。


「ジル坊、言いたいことは分かるが、悪いがオレはアーカムの命令に従ってお前を守る。知らん公爵のことなんかどうでもいい」

「でも探しにはいかなきゃって思ってるでしょ?」

「……そりゃあ、まあな」


 ロドリゲスが口ごもる。


「千早と千草も。放置できる問題じゃないのは分かってるよね?」

「……ええ、そうね」

「でも、旦那様にも言われましたし」

「君たちの主は僕だ。お父さんじゃないよ」

「「 っ! 」」

「二人の気持ちは嬉しいよ? でも今は屋敷でぬくぬくしている僕のお守りよりも、ファラッド様の方が大事」


 実際にぬくぬくしつつ、ソファで足をブラブラしている現状だ。


「ロドリゲス、どうする?」

「……分かった、千早と千草を借りる。代わりに門番の休み連中をたたき起こして全員で屋敷を守らせるぞ。お前は絶対に屋敷を出るなよ」

「うん。決めたんならすぐに準備を始めて、捜索に手間取ると夜になっちゃうよ」


 南の森は、なんだかんだで徒歩で2時間以上かかるらしい。

 お昼過ぎの時間はとうに終わっている。準備も含めると、夜までの時間が本当に足りないのだ。


「大丈夫、僕は屋敷から外にでないから。千早、千草。ファラッド様が見つからなくても、日が暮れる前に森からでるようにしてね」

「分かったわ」

「了解しました」

「ロドリゲス、二人をお願い。ついでにファラッド様もお願い」

「ったく、無茶苦茶言いやがる……誰に似たんだか」

「お父さん? お母さん?」

「母親側だな。間違いなく」


 ロドリゲスの大きな手が僕の頭を包み込んで乱暴に撫でる。


「二人とも、馬に乗れるか?」

「問題ないわ」

「大丈夫です」

「装備と荷物を整えたら屋敷の玄関集合だ。急げよ」

「「 はい! 」」


 そういえば僕、馬は乗ったことないなぁ。

余談ですが、自分は五分前行動派だけど仕事が10時からなら10時ジャストに仕事場に来てもいいと思っています。

時間内に仕事が終わるんならぶっちゃけ遅刻してもそんなに気にはしないです。頻発する人には注意しないといけない立場だけどねー

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 15分前に入って一服してから5分前に開始派です
[一言] 余談ですが、自分は五分前行動派だけど仕事が10時からなら10時ジャストに仕事場に来てもいいと思っています。 時間内に仕事が終わるんならぶっちゃけ遅刻してもそんなに気にはしないです。頻発する…
[一言] 5分前とかジャストに来るとか遅刻はありえないですね。 15分前には来て5分前に仕事に入る派ですw
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