そのうちは、結構すぐだった
よくよく考えると、門から出なくてもこっそり出かけた段階で騒ぎになるのが目に見えていた。
場合によっては門番の人や巡回の兵士さん達が叱られてしまう案件だ。勝手をした僕がお説教を受けるのはしょうがないにしても、彼らが職務怠慢だと言われて怒られるのは可哀想すぎる。
空間魔法でおでかけしたら、それこそ彼らには気づきようがないのだから。
普段からそれに気を付けて夜にこっそりとチュートリアルダンジョンに行ってたじゃん! なんでそのことに思い至らなかった!?
「……聞いてます? ジルベール様」
「はい!」
「嘘ですね」
「いひゃいいひゃい!」
適当に返事をしたらシンシアが僕の頬を引っ張ってくる。
お説教中に上の空なのがバレてしまったようだ。流石シンシア。
「それで、どこまでお出かけするつもりだったんですか?」
「お兄ちゃんや千早達のところ!」
「……森で狼狩りをするとの話でしたが?」
「見たかったの! いひゃいいひゃい!」
「よく伸びますね」
「しょうじきにいったのに……」
頬を引っ張られていつも以上に舌足らずになってしまった。
「魔物がいる領域に一人でお出かけになるなんて、ありえません。供が最低でも3人は必要です」
「えー、多くない?」
「最低でも、と言いましたが?」
手を伸ばしてくるシンシアに恐怖し身を縮こませる。
しかしシンシアは僕の頬を優しく撫でるのであった。
「はあ、素直な子だと思っていましたが、少しばかりやんちゃな面が出てきましたね」
「えへへ」
シンシアに頬を撫でられながら、僕は赤面する。
「可愛く笑ってもダメです。行くなとはこちらも言いませんが、行くならきちんと準備が必要です。第一ミドラ様や千早達がどこにいるのか分からないじゃないですか」
「それって行くなって言ってない?」
「計画性がなさすぎると言っているんです」
「いひゃいよ!」
また引っ張られた。
「はあ、狼狩りを見てみたかったんですね?」
「というか戦闘が? 僕って今までスポア狩りくらいしかしてないし」
「ジルベール様くらいのお歳ですと、そもそもスポア狩りも普通は行いません」
ぴしゃりと言われてしまった。
「そっかぁ」
「そのうちビッシュ様が外に連れていってくれるでしょうから。それまでは我慢してくださいね? 勝手に一人で屋敷から出てはいけませんよ?」
「はぁい」
いつになるんだろ? おじさん最近見てないんだよね。
「来たな、やんちゃ坊主」
「ダンジョンに潜ろうって王子様はやんちゃじゃないの?」
僕の返しにレオン殿下は痛いところを突かれたといった顔をする。
「はっはっはっはっ、一本取られましたな」
「こら、殿下に軽口を叩くんじゃない」
「はぁい」
「まあ元気な証拠だ」
今日は殿下達がダンジョンに行く日だ。なので全員それっぽい服装だ。
殿下とお兄ちゃん、お義姉ちゃん、ウェッジ伯爵は青を基調とした騎士服に胸当て、剣を腰にそれぞれ差している。
おじさんは魔法師団の制服だろうか。赤い服に灰色のローブを着ている。
千早と千草もメイド服ではない。
千早はミニスカ袴だ。黒のソックスの間から覗く太ももがエロい。
千草は先日の授職の儀式の時に着ていた時のような聖職者の服装。
「ジルベール。お前はこれを持っていなさい」
おじさんは僕に短い片手杖を渡してくれた。僕から見ればそこそこ長いけど、某ハリーなポッターの杖みたいなやつ。
服は騎士服に似たものを着せられている。
「おおー! 魔法が使えるっぽい!」
「普通に使えるだろうが」
言いながらもおじさんが僕の頭を撫でる。
なんと今日は僕もついていっていいらしいのだ! 戦力的に十分なのと、この間の件で興味があるなら隠れて見ようとされるより、連れていって見せた方が良いとのおじさんの判断である。
「あんまり深くは潜らない予定だからな。まあ5階層のボス部屋までならこのメンバーなら問題ないだろ」
「ジルベール様、おトイレは済ませましたか? ハンカチもありますね? 指示なく魔法を撃ってはいけませんよ? 皆様の言う事を絶対に聞くんですからね?」
僕よりもシンシアの心配がすごい。
「う、うん。だいじょうぶ」
「ああ、なんでよりによって今日なんですか……他の日であれば私もついていけたのに」
「シンシアもお仕事頑張ってね」
「ええ、それはもちろんですけど」
そんなシンシアは森の中を歩き回るらしく、服は軽装だ。背中のリュックに色々入ってるっぽいけど。
「ほら、そろそろ出るぞ」
「さあ若様、馬車に」
ダンジョンの近くの森までは馬車で向かうらしい。
用意された馬車は3台もある。2台が僕ら用で1台が待たせている間の馬車の護衛をする兵士が乗っているらしい。
途中まで一緒に行くらしいから、シンシアも同乗だ。
千早に抱っこされて馬車に乗せられる。手すりがあるからちゃんと乗れるのに。
「ねえ千早、僕よりも」
「きゃっ!」
「あ」
僕よりも千草を、って言おうとした瞬間に後ろで尻もちをついていた。
「遅かった」
「千草、しっかりしなさい」
「はい、すみませんシンシア先輩」
言いながらも、シンシアが千草に手を貸している。
「頼みますよ? ジルベール様に万が一がないようにしてくださいね」
「も、もちろんです!」
「先輩、千草は失敗してはいけないタイミングでは失敗しないから平気ですよ」
何その変な信頼感。
「じゃあ今は危ないですね。千早、千草にもエスコートを」
「かしこまりました」
「もう、姉さん」
「いいから行こうよー」
前の馬車はもう全員搭乗してるんだから。




