本で見つけた謎のダンジョン
「6階はパペットマン。ウッドパペットと泥パペットだって」
「一気に難易度あがったな」
「ええ。その分魔石はいいですよ」
パペットマンはゴーレム系統の魔物だ。斧やハンマーといった武器で攻撃しないと倒しにくい。
「入手素材は光鉱石か。魔苔も継続して手に入るし、こりゃいいな」
「魔導ランプに使われてる石だよね?」
「そうです。比較的一般家庭にも普及している魔道具ですね」
「夜に明るいと色々便利だよなぁ」
「その分起きている時間が長くなりますけどね」
「働いてる時間もな」
「夜はゆっくり休んでね?」
僕の言葉には苦笑いしか返ってこない。
「7階はパペットマンが泥だけになりますね。代わりにスライムがでるようです」
「スライムかー。トイレのやつだね」
「あれとは比較にならないほどデカイみてーだがな」
大人を丸のみできそうなスライムが描かれている。
スライムの対処方法だけ事細かく書いあるし、準備ができていないなら逃げるように注釈まである。
こりゃ強敵のようだ。
「スライムは物理攻撃が効きにくいですから」
「ここの階はあまり素材が採れないって書いてあるね。魔苔や赤傘キノコもほとんど入手できないって」
「スライムが食べてしまうのではないですか?」
「ああ、そういう」
「あいつらなんでも食うからな」
この大きさになるとかなりの量を食べそうだね。
「大きい分、壁や天井からの奇襲には気づけそうです」
「スライムが天井から落ちてきたら嫌だね」
「狭いダンジョンでは結構あるんですよ。敵発見能力を持たない人間はそういう階層にいくべきではないですね」
「こわぁ」
絶対に行きたくないね。
「8階は、ライドブッカーと自動人形ですか」
「ライドブッカー! 空飛ぶ本の魔物だ!」
「ドロップは魔導書の紙片ですか。空の魔導書が入手できれば収入は見込めますけど」
「だが厄介だな。ここにきて魔法が飛んでくるようになるのは……しかし空の魔導書か、安定して供給できるならこの領の強みになるな」
「厄介な相手ですが旨味はかなりありますね」
「あー、魔法かぁ」
ここにきて難易度が一気に上がったらしい。
「自動人形が前衛でライドブッカーが後ろから魔法を、ってなると最悪だ。どっちも知能が高い魔物だから連携もしてくるぞ」
「自動人形は見た目が人の魔物ですから。忌避する人もそれなりにいますしね」
自動人形は精巧に人に似せたデザインの魔物だ。
「ここはそれなりに敵が多いらしいので採取にも向かなそうですね。風花草が取れると書いてありますけど」
「外でもそれなりに群生している場所があるから微妙だな」
でも魔導書の紙片は欲しい。あれは魔法カードという魔力消費なしで魔法を放つ消耗品が作れるんだ。
空の魔導書も職業の書が作れるから、ゲーム時代には乱獲したものだ。
「9階は……アイアンゴーレムですか。専用の装備が必要ですね」
「金属の塊だからな。ドロップは鉄のインゴットってのは美味しいが」
「ゴーレムがドロップするインゴットは精製されていますからね。良質な鉄が手に入るのはいいことです」
「この辺には鉄鉱山がないから助かるぜ。お、鉄鉱石や銅鉱石が採れる階層らしいな」
「荷物の運搬方法をうまく考えればかなりの収益になるかもしれません」
収納の出番だね!
「10階は階層守護者の部屋だって。ミスリルゴーレム、うわ、大きいし強そう」
「「 ミスリル! 」」
ファンタジー定番金属の登場だ。
「安定して倒せるようになればかなり稼げるな」
「ミスリルゴーレムを倒すには専用の部隊を組織しないといけません。道中の事を考えると大所帯になりそうですが」
ゲーム内でも中ボスとして登場した魔物だ。でかいし動きは遅いが、とにかく硬くてタフな魔物である。
魔法にも強いので地道に削るしかないんだけど、とにかく時間がかかった。まあ対ゴーレム用の武器があれば短縮できるけど。
「11階は、渓谷? 敵はワイバーンが群れてくるって」
「そりゃ無理だなぁ」
「本にもここで探索を断念と書いてありますね。ワイバーンのお肉は美味しいですけど……」
ワイバーンは空を飛ぶ亜竜の一種だ。火を吐いて、爪や牙や、その巨体での体当たりなんかをしてくる魔物。
ゲームと違って空の敵に簡単に攻撃できるわけじゃないから、かなり大変な戦いになりそうだ。
「渓谷って状況じゃなければ多少はいけたかもしれねーが。足元に気を使いつつ、魔物が空から群れで襲ってくるとか悪夢だろ」
ロドリゲスが唸りつつ、本の次のページを開く。
そこからはこれまで紹介されてきた魔物に対して、具体的にどう対処してきていたのか、どのような失敗があったかなどが記載されていたりした。手書きだから大変だっただろうなぁ。
「今回の魔物の出現位置とダンジョンの位置、それを考えると旦那様に報告した方がいいかと思われます。この本をお借りして、あの方に話を聞いてくるべきでしょうけど」
「確かにそれがいいな。アーカム様に報告するにしても裏付けがあった方が良い。レムラ婆さんとこか?」
「レムラ婆さん?」
物知りばあちゃん的な人がいるのかな?
「レムラさんはこの街に長く住んでいるエルフの薬師です。300年以上この領に住んでいる方で、かの英雄ユージン様ともお話ししたことがあるという方ですよ」
「ほあー」
エルフは人間の5倍近い寿命がある種族だ。そういう人ならダンジョンがあったことなんかも知っているかもしれない。
「ですが、ジルベール様をお一人にしてしまいます」
「そうだな、対策しなきゃならん。少し時間をもらうぞ。屋敷の警備を見直す」
「警備?」
「シンシアが離れるとなるとな。オレもジル坊にずっとついてる訳にもいかない」
「ジルベール様、2時間から3時間ほどお一人で過ごしていただかなければならないですけど」
「別にいいよ。適当に本を読んでるから」
「ジルベール様ならお一人でも静かにお過ごしできるかと思いますが……」
「だな。でもジル坊はちっと元気が足りん」
「そうかなぁ?」
でもチャンスだ。またチュートリアルダンジョンに行けるタイミングが来た。
「昼の仕込みをして警備も見直す。行くのは午後にしてくれ」
「わかりました」
「でも警備を見直すって何するの?」
二人しかいないよね?
「屋敷の周りの巡回を増やすのと、門番に注意を促すんでさ。それと屋敷の周りだけじゃあなくてそれ以外の場所も」
「人の目が増えるだけで日中は抑制になりますから」
それはそうかもしれない。
「あれ? でも魔物の討伐に出張ってるんじゃないの? お父さん達も出たくらいなんだし」
「兵士や自警団人間が全員出たわけではありませんから。兵士の中でも魔物との戦いに慣れている者を中心に出かけているのは確かですが、ある程度の人数は残っていますよ?」
「そっか」
「全員JOBを持っている訳じゃないしな」
「そうなの?」
「領民が中心だからな。そうとうに優秀じゃないと職業の書は使ってもらえんよ」
「ほへー。じゃあシンシアやロドリゲスは優秀だったの?」
「シンシアは男爵家の出だからだな。オレは冒険者だから自分で買った」
「買えるんだ」
「冒険者ギルドでな。ある程度の功績と金があれば、まあ物さえあれば買えるもんなんだよ」
「弓士のJOBだけで残りは自費ですよ」
ゲームの知識があるから錬金術さえ使えれば最終職の職業の書も作れるけど、素材の入手がね。
「ロドリゲス。準備を」
「おう。了解だ」
リビングでくつろぐ時間は終わりらしい。巨漢のロドリゲスがソファから立ち上がって、ドアへと消えていった。
「では午前中はシンシアとお外で遊びましょう」
「うん!」
思いのほかハードな追いかけっこやボール遊びを楽しんだ。
疲れさせてお昼寝でもさせたかったのかな?