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両手に花なの!

「あんなのに会うんじゃ、安心してお外で遊べないよ」

「即座に対応できるのが普通じゃないと思うんだけど」

「若様、かなりの魔法の腕前なのですね」


 僕は両手を伸ばして千早と千草と手を繋ぐ。


「あたし達が守らないといけないのに、守られてしまったわ」

「小さな騎士様でしたね」

「魔法で対応だけどね」


 騎士様だったら剣でカッコよく倒していたのだろう。僕の子供ボディは残念ながら剣を振るえるようにはできていない。


「でも、旦那様は騎士だし、お兄様も騎士ですもの。若様も剣の才能があるんじゃないかしら?」

「刃物こわいし」


 あと剣は重いのだ。

 チュートリアルダンジョンで最初のころ入手した剣を振ろうとしたけど、そもそも持ち上げるのに一苦労で、持ち上げようとしたらバランスを崩して転んだのだ。剣をすぐに手放さなかったら危なかったんだぜ。

 ナイフも同様だ。スリムスポアを倒した時に使ったけど、何度も突き刺しているだけで腕が疲れてしまった。


「僕は剣の才能はない気がする……」


 魔法の才能もブーストしたものであって、もともとあった才能ではないけど。

 あれ? 僕ってなんの才能もない子?

 や、ゲームのキャラクターである僕に才能がないなんてことはないはずだ!


「確かに刃物は危険ですね」

「千草は刃物が苦手だからね」


 千草に刃物っていう組み合わせが怖い。


「姉さんは気軽に使いすぎよ。あんなに危ないのに」

「司祭系はともかく魔術師はナイフも使うわ」

「杖のほうが便利です」


 それには同意です。

 魔術師や魔法使いの装備は片手杖と両手杖、ナイフと魔導書だよね。

 装備できるだけであって、魔術師としての性能の優位性を考えるとナイフはだいぶ劣る。短剣系統の武器は特殊効果がつかない限り魔術師系列の職で装備することは基本的になかった。


「木剣での素振りなんかから始めるといいですよ」

「やらないし」


 危ないことはしたくないのです。


「そうは言っても、旦那様のお子様である以上若様もいずれ剣を覚えなければなりませんよ?」

「そうなのかな? 剣の訓練って話は聞かないけど」


 お父さんは僕に剣なんかの鍛錬をするように言ってきたことはない。

 魔法を使えるって知られてからは魔法の勉強は勧めてくるけど。


「まあまだですよね。でもお父上が剣の素振りをしてたりしたら興味が湧いたりしない?」

「や、別に」


 魔法なら楽しいけど。


「男の子って剣が好きってイメージですけど」

「ミレニア様の英才教育の賜物じゃないかしら?」

「あー、魔法の話をするとお母さん嬉しそうにするよ」

「その時の旦那様の胸中が知りたいわね」


 お父さん、寂しいかな? でもお兄ちゃんは剣の道に進んだし、僕は別に魔法に行ってもバランス取れててよくない?


「あ、お兄ちゃんだ」


 お兄ちゃんのことを考えてたらお兄ちゃんと遭遇したでござる。


「リリーベル様と一緒ですね」

「デートかな?」


 手を振ったらこっちに気づいて手を振り返してくれる。

 千早達と同じく、殿下の従者としての仕事を今日はしなくていいからオフなんだろう。二人とも騎士服ではなく私服だ。


「デート?」

「そうよー。ジルちゃんもデートね」


 デート、デートなのか?


「両手に花なの!」

「ませガキだなぁ。どこで覚えたんだ」

「本!」


 お兄ちゃんに頭をポンとされる。でも実際千早と千草に両手を繋いでいるから両手に花なのだ。


「若様あまりお外にでたがらないので」

「お外で遊ぶっていう意識がなかっただけだし」


 お屋敷の外でやることが特にないのだ。今日もお散歩を楽しんでいるだけで、特別何かを目的としているわけじゃない。


「同年代の子供がいないからかなぁ、ずいぶん達観した子になっちゃった」

「お兄ちゃんはいたの?」

「オレは王都で育ったからな」

「そっか、王都なら貴族の子もいっぱいか」

「だな。王都の中では家格が低かったから気兼ねなく遊べたっていうのもあるな」


 領地が安定するまでお母さんとお兄ちゃんは王都にいたんだっけか。僕も実は王都生まれらしいし。


「でも王都と比べると見るところないんじゃない?」


 お店も少ないしおしゃれな店も見当たらないし。


「まあ仕方ないさ。それでも見るべきものはあるしな」

「今後は増えそうですもの。今の風景を目に焼き付けておかないとね」


 お義姉さんは未来の領主の奥さんとしての仕事と考えているようだ。まじめな人っぽい。


「とはいえ、一通り回ってしまったからな。外に出て軽くからだを動かそうかなと」

「お互い剣だけは手放せないものね」


 二人ともラフな格好だけど、確かにしっかり帯剣している。

 お散歩の締めくくりに外で狩りでもする気なのだろうか?


「でも外にお兄ちゃんが満足できる相手なんているの?」

「一応近くの森にならフォレストウルフがいるからな。領民に危害を加える可能性のある魔物だから倒しておいたほうがいいさ」

「ふうん」

「……連れてはいかないぞ?」


 興味ないよ。

 僕はね?


「まあ、そうですよね」

「千早は残念そうだね」

「姉さん……」

「今日は自由行動なんでしょ? 屋敷に戻ったら千草と一緒に行ってくればいいよ」


 僕は理解のある上司なのだ。子供だけど。






 デートの邪魔をしたらまずいということで、千早と千草は別行動で領都の外で活動するとのことだ。

 僕は屋敷に戻ってしみじみとお勉強の時間。などと子供らしい行動をせずに、チュートリアルダンジョンに潜った。


「うん。JOBがたんまり入った気がする」


 王都にいたときは別だけど、こっちに戻ってからは毎日入っているのだが、日に日にJOBポイントが上昇している気がする。

 これは同種討伐ボーナスが働いているからだろう。


「こうなると、逆にキノコ類の魔物以外を倒したくはなくなるなー」


 スリムスポアとスポアしか倒していない僕だからこそ、こうやってレベルアップの恩恵が受けられている。

 またスポアパワーレベリングやりたい。お父さんでもおじさんでもいいから、また企画してくれないかな?


「今日も属性結晶と属性矢を回収してと」


 収納の魔法でこれらをしまう。

 そして炎の絨毯を出し直して、スリムスポアを倒せるようにしておく。


「うーん、どうしようかなぁ」


 もう錬金術師には変更ができる僕である。

 盗賊の指先のレベルも上がっているから、シーフのJOBである必要はあまりない。


「身体能力が上がってる気がしないんだよね」


 もちろん【軽業】や【短剣修練】などのパッシブスキルが手に入っているから戦闘能力は上がっている。

 でも単純に僕自身のレベルアップがまだだから、それ以上の能力向上はあまり発生していない。

 JOBの補正で素早さや器用度は上がっていると思うけどそういった技能を必要とする場面に出くわしていないので、なんとなく上がったかな? 程度の認識しかないのだ。

 強いて言えば字がきれいに書けるようになったことだ。誰も気づいてくれないけど。


「コマンドバトルのゲームだったから、あんまり身体能力が唸るシーンっていうのがなかったし……」


 アクションRPGではなかったのだ。たまに入るムービーでそういったシーンはあったけど、戦闘時はドットキャラが武器を振って敵にダメージが出たり、盾が出てきて防ぐとかそういった描写だ。

 しかもユージン達のパーティで主にシーフを専属としていたキャラはいないのだ。

 JOBとして選択すればシーフになっていたけど、やはりそれぞれの立ち位置で戦っているムービーが多く、ユージンは剣で、ガトムズは魔法で、みたいなシーンばかりだった。


「むう、冒険者とかが戦っているシーンがみたいな」


 とはいえ、そんな状況に今の僕がなれるわけがない。


「あ、見に行けばいっか」


 こっそりいけばバレないかもしれない。

 ちょうどお兄ちゃんや千早たちが近くの森で狼狩りをしているのだ。

 隠れて見に行けば実際の戦闘が見れるかもしれない。


「確か南西って言ってたよね」


 狼型の魔物が出る森が南西にあるって話だ。

 こっそり見に行くことにしよう。

 僕は意気揚々とチュートリアルダンジョンから抜け出して、人目を忍んで屋敷の門から出る。


「供もつけずにどちらにお出かけで」

「ぎくっ!」


 誰もいないと思ったら、普通に門番に見つかってしまう僕である。

 間抜けじゃん!


「むう」

「ダメですよ? お坊ちゃん。お一人でのお出かけは」


 門番の兵士さんに普通に指摘をされてしまった。


「ごめんなさい」

「はい、ではお戻りください」

「はぁい」


 普通に門の中に戻される僕。

 空間魔法で抜け出せば良かったのに、なんで普通に歩いて外に出ようとしてるのさ!

 失敗である。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] 遣れることはやる油断しないとか何とか言ってたような 近接もちゃんとやれよ へんな不得意設定は気持ち悪い 身体強化とかあるんやろ?男にナヨナヨされると気色悪い
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