エルフのおばば
久しぶりのお出かけに感動しつつも、移動は馬車である。
街の中でも中腹に住んでいるからそれなりに距離があるらしい。僕の子供ボディでは歩いて行くのは困難とのこと。
メンバーは僕とお父さん、千早と千草。
千早では道が分からないので、お父さんが御者台に乗って馬車を操っている。
「到着だ」
「はぁい」
お父さんが馬車を停めて、扉を開けて顔を出してくれた。
お父さんに手を引かれて、僕は馬車から降りる。更に千早と千草にも手を貸しているお父さんは紳士だ。
「あ、ありがとうございます」
「あたしは大丈夫ですが……」
「千草に手を貸して千早にだけ手を貸さない訳にはいかないだろう?」
従者の手を取りながら笑うお父さん。
「ここがレムラさんのおうち?」
「ああ」
あまり特徴のない一般的な平屋だ。
「千早は馬車を頼む」
「はっ」
お父さんの指示に千早が返事をする。
「さて。レムラ婆、いるかな?」
特に確認もせずに来たらしい。お父さんが代表してドアをノック。
「はいはーい」
「やあ、シノーラ。レムラ婆はいるかい?」
「領主様!」
出てきたのは若いエルフの女性。
「ばあさまは裏のお店にいますよ」
「今日はお店に出てるのか。体調がいいようでなによりだ」
「こちらにどうぞ。この時間帯ならお客さんもいないでしょうから」
そう言ってエルフのシノーラさんが案内してくれる。
「ばあさま、領主様がいらっしゃいましたよ」
「はいはい、中に案内しなさいな」
家の裏手にはこれ見よがしのテント! 占いの館みたいだ!
「ようこそ、領主様。おや?」
「久しぶり、レムラ婆。息子を紹介させてくれ」
お父さんが僕の肩を軽く押したので、前にでる。
「ジルベール=オルトです」
「こんなババのところにようこそいらっしゃいました、占い師のレムラにございます。ささ、席にお着きくださいジルベール様。占って差し上げましょう」
「え? あ、うん」
「いや、今日の用件は占いではなくてだな」
いそいそとカードの準備を始めるお婆さん。
「占いではなく? ではどのようなご用件で」
「うちに入った新しい従者が植物の系統魔法を修められるらしくてな。何か助言を貰えればと足を運んだのだ」
「千草=シャーマリシアと申します。おばあ様、どうかご教授をお願いいたします」
「ほお、同族以外に見たのは初めてですねぇ。最近では同族にも特別な才を持つものも随分減りましたけれども」
レムラお婆さんが残念そうにつぶやく。
「植物の魔法の才能でしたら、種の選別から始めるのがいいでしょう。その上で育てるのです」
「種の、選別ですか?」
「ええ、同じ植物の種でも元気な種と元気のない種がおります。元気な種は普通に播けば芽が出て葉が広がり花が咲きましょうが、元気のない種は芽もでません」
「そ、そうですね」
「種から植物を育てるのが植物の魔法の素質を上げる近道でございますが、元気のない種を育てるのがより難易度が高いです。種から魔法で植物を育てるのはやられているでしょう?」
「はい」
「同じ鍛錬を続けても伸びはしないとは申し上げませんが、より難易度の高い鍛錬を行えばより上を目指せるでしょう」
「なるほど、ありがとうございます」
おー、でも元気な種と元気のない種の選別とか分かるのかな? 僕にも分かるんだろうか?
「さて、それではジルベール様。せっかくいらしたのですから、占って差し上げましょう」
「レムラ婆の占いはよく当たると評判だ。やってもらうといい」
「え? うん」
占い。どうにも現世の感覚だと信用できない僕だけど、ここは魔法のある世界だ。
面白い結果になるかもしれない。
「おばばはカードの占いを得意としておりますでな、説明をしながら占いましょうぞ」
「お願いします」
いかにもなテーブルクロスに覆われたテーブルに、レムラお婆さんはカードを置く。
「ではカードを3つの山にしてくだされ」
「はい」
言われた通り、カードを3つに適当に分ける。
「よろしいですじゃ。では最初の山を……これは」
お婆さんは真ん中のカードの山の一番上のカードを開く。
そこには山よりも大きい木。世界樹かな? が描かれていた。
「このカードが出る方は久しぶりですな」
「そうなんですか?」
「ええ、今は世界樹に近づこうという人もおりませんから」
そう言って今度は右の山のカードを持ち上げる。
「姫、のカード……」
「お姫様のカードだね」
お婆さんが表情を引き締めて、3つ目の山のカードを開く。
「英雄……」
「ユージン?」
「まあ、そうですな」
そこにはユージンのイラスト。
「で、ではこの世界樹のカードの一番下のカードを……」
お婆さんがそこを開くと、そこには小麦のカード。
続いて姫の山の下のカードを開くと、そこには魔物。そしてユージンのカードの山の一番下のカードは丸いガラス瓶のカード、これはポーションかな?
「おお、おお……これは、この結果は」
「はい、はい?」
「世界樹、姫、英雄。世界樹と姫君を救う英雄の素質がジルベール様にはございます。と、占いにでました」
「はあ……はあ!?」
「そして、小麦。これは世界樹の繁栄を約束するという意味でしょう。姫様と魔物、これは二つ考えられます。姫様を魔物から救うか、姫様と共に魔物を倒すか」
「姫様って……誰?」
「わが国には姫君は……まあそこそこいるな」
こんど嫁がれる姫様もいれば第二王女もいるらしい。公爵家の姫様もいるね。
「そして英雄のカードの下から顔をだすのは薬のカード……どうかこのババアめの話を聞いてくださいませ、我等エルフの悲願の話を……」
「えっと、結果は?」
「……どうか、エルフをお救いください。エルフの救世主となられるお方、ジルベール様」
「え?」
思わずお父さんの顔を見上げてみたが、お父さんは僕の頭を撫でるだけだった。
聞けってことかな?
 




