さむらい?
お父さん達の話し合いが長く続きそうだったので、一旦休憩になった。
それもそうだろう。あの人たちは長旅をしてウチに到着したばかりなんだから。
以降の話し合いには僕は別に要らないとのことで、夜の晩餐までは千早と千草の二人と話すといいと言われ、二人を伴って僕の部屋に戻った。
一緒に色々と渡された資料もある。子供ボディの僕にこれを読めと?
中々の量である。
その中でも特に多いのが国有奴隷の説明と、千早と千草の今までの行動についての資料だ。
書かれていたことは、奴隷という状態がどういうものであるかということだ。
国有奴隷は王家の所有物であり、王家の犬である。
犯罪者たちの中で、有用な能力があったり、情状酌量の余地があったりする人間の一部が死罪にならずに奴隷化するのだ。
基本的には激戦区での戦闘や鉱山なんかでの強制労働させられることが多いらしい。
JOBを持っていれば力も強いから物も一度に運べたり、魔法が使えたりと便利なようだ。
彼女達は元々、学生時代に第一王女の側付きとして共に行動をしていたようだ。
うちのお兄ちゃんと同じ立場だったんだね。
第一王女からの覚えも良く、他の王族とも顔を合わせていた機会があったことで人となりが知られていたこと、そして自分の父親を犯罪者として処断した功によって死罪を免れたらしい。
鉱山等へ送られなかったのも第一王女のおかげだそうだ。
そして彼女達は、奴隷という立場ではあるものの正式な立ち位置は王家の犬。
僕が王家や国家へ不利益をもたらす行動を起こそうとした場合や実際に起こした場合には、国家にそれを伝える義務ももっているそうだ。
基本的には僕に絶対服従だし僕と敵対することはないけど、僕の上に国が存在しているらしい。
つまり、目に見える形のスパイだ。これじゃあ確かに他国には連れていけないし、こういう存在だと知っていれば向こうの国も受け入れたくないだろう。
「僕はカードのことで秘密を持っているんだけど、王族に報告する義務が二人にはあるの?」
資料を読んでいる間、直立不動で待っていた二人に顔を向ける。
「それが国に害をなす内容であれば、ご報告いたします」
千早が困った表情をしていたので、千草が答えてくれた。
「あ、ごめんね。二人とも座っていいよ」
「はい」
「失礼します」
資料を読み込むのに夢中になっていて、放置にしていてしまった。失敗だ。
「きゃうっ!」
「え?」
千草が転んだ。イスに座るだけなのに?
「す、すみません」
「千草は何もない所でよく転ぶけど、あんまり気にしないで」
え? 何それ? そういうキャラ付け? まさか千草もゲームの登場人物!?
「そ、そう。大丈夫?」
「へ、平気です」
顔を赤くして千草が椅子に座りなおす。
「えっと、王家へ不利益と判断する内容を確認したいんだけど……」
「不利益をもたらす予定なの、ですか?」
「そういうことじゃなくて、僕がカードを作るのは魔法の力なんだけど、こういう力を持っていたり、個人で伸ばそうとするのって報告対象なのかな?」
鼻の頭を押さえていた千草が千早に代わって答えた。
「えっと、個人で強大な力を入手するにあたっての、経緯にもよります。例えば王家や領主が危険と判断し、封印している侵入禁止のダンジョンへの許可のない侵入ですとか。魔法を使ったり錬金術を使ったりした非人道的な実験ですとか、邪悪な存在……例えば悪魔とか邪龍とかそういった類のものと契約をして力を手に入れようとする場合は報告対象になりますね」
いたたた、と鼻を押さえていた千草だけどしっかり答えてくれた。
ドジっ子メイドだ……。
「そ、そう。じゃあ職業の書を使ったり、特別なレベル上げの方法をしても、邪悪でなければ秘密にしてもらえるって認識でいいのかな」
僕の言葉に二人が頷く。
黒髪で顔だちも日本人に近い二人だ。整った顔をしている二人だけど、どこか安心できるのは僕が日本人だからだろうか。
「職業の書は私達も持っているわ……持っています」
千早がしゃべると、千草が千早の手をペチンと叩いた。
「や、普通にしゃべっていいから」
「そう? じゃあいい?」
「姉さん……はぁ」
千早は嬉しそうに声を出し、千草は溜息をつく。
「二人のJOBを聞いていい? 持ってる職業の書も知りたいかな」
「あたしは戦士の書、そこから侍の書に行ったわ。剣豪は書があれば更に先に行けるんだけど」
「侍の上に剣豪なんてのもあるんだ……」
知らなかったよ。
「東国の一部に伝わる書よ。あたしの祖父がそちらの出身で、用意してくれたの」
「千草にはそちらの才能がなかったので、こちらのJOBと同じく神官と司祭のJOBです。あと魔術師も修めています」
千早さんはがっつり前衛で千草さんは後衛なんだね。
「二人ともJOBは上げられてないよ……ね?」
「王家には王族専用のダンジョンがあるから、そこで姫様と一緒にパーティを組んでたのよ。だからそこそこ育てているわ」
「姉さんはしっかり侍を育ててたけど、千草は司祭で止まってるけどね……」
元々貴族院に入ったのが1年違いらしいから、千早さんのが育っているらしい。
「そっかぁ。あ、僕は魔術師ね」
「本当にその年で魔術師になっているんだね」
「殿下に教えられてはいましたけど」
「うん、まあね」
勝手に魔術師の書を使っただけですけど。
今はシーフですけど。




