え? 解決してないの!?
灰色の大森林。
ユージンの奇跡でも登場した世界樹の森から広がる大森林のことだ。
世界樹と呼ばれるファンタジーではド定番の天を貫くような巨大な木。
エルフ達はその巨大な木を信仰し、その木の下で穏やかだが強い国家を形成していた。
そう、過去形である。
「まだあんのかよ」
「ん?」
「いえ、なんでも」
背中から汗が噴き出る。
マジか、ユージン達世界樹無視して世界救ったのか!
「最後の姫君の犠牲で大規模な侵攻は防げましたが、灰色の大森林の版図は未だに広がっていると聞きますが」
「ああ、この地図も10年以上前のものだ。この辺りには広大な森林地帯がないから徐々にしか灰色の世界は広がっていないが、それでももう少し広い範囲に伸びているだろう」
最後の姫君……ユージン達の仲間になる予定だった、エルフの姫のマーニャのことだ。なるほど、物語に登場しないわけだ。仲間にならずに灰色の大森林の問題に向き合っていたのだろう。
「灰色の木々が伸びた場所は魔物も出ないし他の植物も生えないって聞いたけど」
「その通りだ。灰色の大森林は生物の気配を全く感じない異質な世界。だが生えている木々を傷つけると、ダンジョンのように魔物が生み出される厄介な土地でもある」
灰色の大森林の中心には元世界樹。闇に落ちたエルフの王子である、魔王軍四天王の一人となったダークエルフによって反転の呪いがかけられてしまっている。
本来は聖なる属性を持つ世界樹は、闇の属性を得て『イービル=ユグドラシル』となっている。
ユージンがそのダークエルフと戦い、勝利した時にイベントの会話でそのダークエルフから『イービル=ユグドラシル』を世界樹に戻す方法を教わり、キーとなるアイテムをもらうのだ。
そして世界樹を元に戻すことで、仲間になるのがエルフのマーニャだ。ハンターのJOBを中盤くらいまで上げていて、騎士のJOBも最大レベルで持っている強キャラである。
彼女はエルフの悲願を成し遂げたユージン達に感謝をし、また兄である王子をダークエルフへと変貌させた魔王に恨みを持って仲間に入るのだ。
「これは……マズいかも」
イービル=ユグドラシルは動かない。その代わり地面の下の根を徐々に広げて近くの植物を支配下に置いているのだ。
その支配下に置かれた木々は色を失いイービル=ユグドラシルの一部となる。そしてその木々を中心にまた根を広げるのだ。
地面の下はイービル=ユグドラシルの根にびっしりと覆われてしまい他の植物は死滅してしまうし、新たな芽は育たない。
残った木々はイービル=ユグドラシルの一部なので、攻撃を受けたりすると『エレメンタルウッドマン』と呼ばれる魔物が生み出されて反撃をしてくる。
ストーリーの後半で戦うモンスターだからこれがなかなか強い。
結果、灰色の大森林に住まう魔物はエレメンタルウッドマンのみで、他の動物や魔物はおらず、生命を感じない異質な世界となっているのだ。
いずれは大陸すべてを覆ってしまうのではないかと言われているが、根本的な対策はゲームの段階では取られておらず、ユージン達が攻略をすることになるのだった。
「しかしあそこの近くは御免こうむりたいというのがこちらの心情なのですが」
「エルフ達の犠牲で侵攻の速度はかなり遅い、拡大するにしてもまだまだ先のことになるであろう」
マーニャ達エルフの王族はエルフを率いてイービル=ユグドラシルに楔を打っている。
彼女達は自らを石にして、イービル=ユグドラシルの拡大を防ぐ儀式を行っているのだ。
イービル=ユグドラシルは元々世界樹だ。世界樹へ直接干渉する儀式魔法がエルフの王族達には伝えられていて、この大陸はエルフ達の犠牲によってなりたっている。
マーニャが儀式魔法を行う前にユージンはイービル=ユグドラシルをなんとかしたんだけど……。
元王子のダークエルフからユージンは解決方法を聞き出していなかったのか? それとも解決方法を聞き出したものの、そのアイテムを準備できなかった?
ゲームと違い現実の戦いだ。最後の言葉を聞く前にトドメを刺してしまったのかもしれない。
「ここの領土を拡大するとなると……」
「こちらの街には代官を置いてある。引継ぎはそちらから……」
お父さん達が拡大する領地について話しているが、頭の中に入ってこない。
エルフ、エルフか……ファンタジー定番の種族だな。
数万ものエルフの犠牲によって成り立っている王国の平和……だ。
どうにかできる、手段はある。知っている。
どうしよう、どうしようかな。




