知識チートが光り輝く
殿下と殿下の護衛のウェッジさんと一緒に遊びながら適当に話をしていると、ドアがノックされた。
「お待たせいたしました」
「もういいのかい? 久しぶりの息子の帰省なんだろう?」
「ええ。妻はまだ話をすると言っていますが、十分に時間はいただけましたので」
登場したのはお父さんだ。二人のメイドさんを後ろに連れている。あれ? 殿下の連れてきたメイドさんなのに、うちのメイドの服を着ている。
「こちらもゲームに興じて時間を忘れていたが、そうか」
結構盛り上がったからね。殿下もウェッジさんも中々に負けず嫌いだ。
「ジル、私の横に」
「はぁい」
「……ジル?」
「はいっ!」
おっと、遊んでいたから気が緩んでしまった。いつもの間延びした返事をしてしまった。
その光景にクスクス笑われるが、僕は子供なので勘弁してほしい。
「片膝を立てて、私と同じように」
「はい」
お父さんが殿下相手に跪いて、頭を下げる。
僕もお父さんと一緒に並んで同じように頭を下げた。
「では始めよう。王に代わり、その第一子、フランメシア王国第一王子、レオンリード=フランメシア=アルバロッサがアーカム=オルトに伝える」
「はっ」
「王国騎士団第一親衛隊所属、ウェッジ=フォルナーベ伯爵の立ち合いの下、汝に伯爵位を授ける。オルト子爵家次男ジルベール=オルト、そなたが子爵家の家族の立会人だ」
「はい」
ええ!? お父さんなんか爵位が上がったんだけど! 動揺を隠しつつ、僕は殿下の言葉に返事をした。
「アーカム=オルト伯爵、其方の王家への忠誠に陛下は満足されている。今後もより一層の活躍を期待する」
「ご期待に沿えるよう、微力を尽くしてまいります」
お父さんは殿下に言葉を返して立ち上がる。僕もそれに合わせて立った。
殿下はウェッジさんから何かを受け取って、お父さんの胸元に飾る。勲章のようなものだ。それと正式な爵位の証明書も手渡された。
「さてジルベール。疑問があるだろう?」
「はい殿下。立会人は兄が相応しいのではないのでしょうか?」
次期領主であるお兄ちゃんをないがしろにしたようで気分が悪い。
「本来はそうだ。だが今回はこの後で面倒なことがあるのでな。説明するからまたかけてくれ」
殿下はそう言ってテーブルに僕を勧める。
殿下とウェッジさん、お父さんが席に座り、僕もお父さんの横に座る。
お父さんと一緒に来た黒髪のメイドさん二人がイスに座らせてくれたのが、少し気恥ずかしかった。
「先ほどの話の続きになるが、お前をこの場によこしたのはオルト伯爵の奥方やミドラも了承の上だ。安心するといい」
殿下の言葉に胸をなでおろす。
普段殿下と行動を共にしているというお兄ちゃんが、何かをやらかしてこの場に来れなくなった可能性もあったからだ。
「息子さんは随分聡いですな。アーカム殿」
「そう言っていただけると、うれしく思います。ウェッジ殿」
お父さんがそう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。
「今回ジルベール、お前がここにいるのはジルベールカードの支払いについての話だ。安心して聞きなさい」
「支払いですか? もう商会は立ち上がったのでしょうか?」
カードの作成自体は毎日行っているけど、ハンコが押される前の真っ白なカードを溜め込んでいるだけの状態だ。
たまに屋敷に帰ってきたシンシアがハンコを押しているようだけど、その後の話は知らないし、既に売りに出したという話も聞いていない。
「商会は既に動き出している。だがまだ表立って活動を行ってはいない」
「商品が一種類しかないから活動も何もないだろう?」
お父さんの返事に殿下が苦笑いをして答える。
「最初のセットの大半は閣下が購入なされる。それを元手に商会の基盤を作成するのだが、陛下と殿下もジルベールカードを欲しがってな」
「それで支払いの話になるのですか。でもなんで僕に? お父さん……父上の裁量でいいのでは?」
「ジルよ、物を作って売るのだ。お前に収入が入るのも当然だろう?」
「……おぉ!」
ポン、と手を叩く僕。確かにそうだ。僕が生産者で、それを販売するのがお父さんだ。
「だが今回はルール作りを先にしなければならなくてな、その前に王家がお金を大々的にオルト伯爵家の商会に支払う訳にはいかないのだ」
「端的に言うとだ。金は払えん、だが物は欲しいという状況だ」
「ウェッジ様、分かりやすいですけどぶっちゃけすぎでは?」
思わず突っ込んでしまうが、はっはっはっはっと笑いがかえってくるだけだった。
「王家の方々には既に献上しているのですよね?」
殿下や閣下が関わっている以上、既に彼らの手に渡っていなければおかしい。これは確認の意味でお父さんに投げかけた言葉だ。
「無論だ。だが王家としても同じ品を毎度無償で受け取る訳にはいかんのだ」
「とはいってもジルベールカードですよ? 家族で1つあればそれで充分じゃないですか」
支払いに大きなお金が動くような物ではないはずだ。
「なるほど、認識の違いがあるな。ジルベール、こいつはいくらぐらいで販売すると思っている?」
「銀貨1枚くらいでしょうか?」
日本円で千円、こっちの単位で言うと1000キャッシュだ。ぶっちゃけトランプなんか千円で2つくらい買えるだろうが、真新しい物だからもうちょい値段が付くだろう。
「金貨で15枚だ」
「はぁ!?」
1セット150万円ってことですか!?
「いくらなんでもボりすぎじゃ?」
「これでも値段は抑えたのだぞ?」
大本の魔術書の紙片はダンジョンで取り放題で、勝手に青い鬣の連中が持ってきてくれているものだ。
実質的にお金が掛かっているものなんかインク代くらいじゃないの?
「貴族の子であるジルベールの手作り。しかも今までに存在しない遊具だ。このくらいの値段は当然だろう」
「買う人いるの? それ」
「すでに話を聞いた親戚筋から問い合わせがすごくてな……」
殿下が肩を落としている。
「ルール作りのために根回しをしているところでな。身内の信用できるものとはすでに遊んでいるのだが、屋敷から出られない子供に与えたいとかなり言われている」
「マジっすかぁ」
10セットで1500万円の収入ってこと? 今僕は知識チートをしているっ! 輝いているっ!
「120セットほど用立ててほしいのだが」
「金貨1800枚っ!」
「お前の子供、計算早いな」
「え? でもそんな金額即金で出せるんですか?」
「出せぬから、お前の父と交渉させてもらったよ」
ウェッジさんが関わっているらしい。
「というわけで紹介しよう。チハヤとチグサだ」
「「 よろしくおねがいします 」」
殿下の言葉に、先ほど僕をイスに持ち上げてくれた子とイスを引いてくれた子が頭を下げて挨拶をしてきた。
 




