表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/163

殿下襲来

「およ?」


 日中の訓練を終えて、夜になりこっそりチュートリアルダンジョンに忍び込む。

 そんな日々が続き、5歳にもなった。夏の足音が聞こえてきたある日。

 体に入ってきたJOB経験値が体から抜けていく感覚に見舞われた。


「魔術師カンスト?」


 経験値テーブルなんか覚えてないから自信がないけど、JOB経験値を体が吸い込んでも外に逃げていってしまう。


「早かった、のか?」


 4歳の頭の頃に見つけて、約一年。ゲーム内の時間として考えるとかなり長いけど、現実としてはかなり早いのだろう。


「錬金術師になりたいけどなー」


 正直怖い。

 ここの次の階層に行けば、ここと同じように二次職用の職業の書が手に入るだろうけど、戦闘があるのだ。


「せめて前衛を連れていければいいんだけど」


 ゲームではシナリオを進めていくと、とある森で引っかかる。

 森の中を進もうとすると『ここから先は君たちには危険だ』と道を塞いでいるNPCがいるのだ。

 どんなにレベルが高くて、装備が良くても通れない鉄壁のNPCだ。

 そこでガトムズが『面白くない』と言いながら『領主のところに戻り相談してみよう』と提案をする。

 そして領主のところに戻って、JOBレベルが一定以上あると領主がここの地下に案内してくれるのだ。

 JOBレベルがギリギリでは倒せない強敵『門番ミノタウロス』が待っていて、そいつを倒すことで領主に実力を認めてもらい、それぞれの二次職へと転職を果たすことになるのだ。


「一人で倒すとなると……どうしようか」


 僕自身は相変わらず非力だ。

 おじさんやトッドのおかげでレベルアップができたっぽいけど、JOBが魔術師だから体力なんかの上昇値は低い。

 門番ミノタウロスの持つ、馬鹿でかいハルバードで切りつけられたら即死間違いなしだ。


「とりあえず、すぐには無理だろうから……」


 錬金術師になるには魔術師のJOBが50を超えていれば、錬金術師の書でなれるのでおそらく大丈夫だろう。

 錬金術師として物を作る時に、有用になるJOBを選ぶべきだ。


「シーフか弓士、シーフだな」


 シーフにはパッシブスキル『盗賊の指先』がある。これはJOBレベルが高ければ高いほど器用度が上がるのだ。

 器用度は敵への攻撃の命中率の上昇と、錬金術やその先の職での物品の作成の成功率に関わってくる。もちろん罠の発見率や解除率やなんかも。

 弓士のアクティブスキル『コンセントレーション』の方が上昇率は高いけど、あれは常時上昇ではない。上昇させたい時に使わないといけないスキルだ。

 シンシアが以前カードにハンコを押すのに使っていたアレである。

 僕が使えば周りの人にバレてしまう。


「いずれは取りたいけど、先にシーフかな」


 収納からシーフの書を取り出して早速読み込む。

 魔術師の書を読んだ時と同様に、すんなりとJOBの変化が完了した。


「さて、魔法の威力はと」


 魔術師はJOBの特性として、魔法に威力の上昇やクリティカル率の上昇補正がある。

 さらに魔術師のJOBの間だけ発動する専用スキルもある。これは魔法自体の威力や持続時間を上昇させるものだ。

 シーフに変えることによってその辺のメリットは消えてしまう。

 ただしJOBを変えても、そのJOBで覚えたスキルは他のJOBでも使える。使えないのは専用スキルだけだ。

 つまりシーフになったまま魔法を主軸に戦うことができるというわけだ。


「炎の絨毯っと」


 発動は少し遅い。とはいっても前まで一瞬で出せた魔法が一呼吸空けて発動する程度の差しかない。


「落ち着いて魔法を使うようにしてるって言えば誤魔化せるかな」


 その程度の誤差だ。問題ないはずだ。

 シーフになって最初に覚えるのは軽業。次来るときには覚えられるだろう。

 盗賊の指先が手に入れば器用度があがる。


「字を綺麗に書けるようになるかも!」


 指先手先の器用度が上がるのだ。これは大いに期待が持てるのではないだろうか?

 僕はスキップ気味に転移門をくぐって即座にゲートを開けて部屋に戻った。

 空間魔法のゲートも探知魔法の人探知も問題なく使えるので、今までと特別何かを変える必要がない。

 ちなみに一度使った魔導書をもう一度使うとJOBは変更できるので、魔術師に戻りたければ魔術師の書を使えば元に戻れる。

 次は弓士か神官かなー。






「ようこそおいでくださいました、歓迎いたします」


 お父さんの挨拶に、僕達家族も頭を下げる。


「ああ、急な来訪ですまないな」

「いえ、あらかじめ連絡はいただいていたので。殿下がいつ来られても良いよう、準備をしておりました」


 カードを量産しつつ、迷路を攻略できない日々をいったん空けて、今日に至る。

 今日はビッシュおじさんとクレンディル先生が屋敷に来る日だった。

 だけどその連絡の手紙に、お兄ちゃんが婚約者のリリーベルお義姉ちゃんを連れて帰ってくることが記載されていた。

 王子様と共に行きますとも。

 前もって連絡を受けていたので、僕はお母さん相手に礼儀作法の勉強を再びする羽目になったのだ。

 もう少しで攻略できそうだったのに! もっと難しいのもあるわよって教えてもらえたばかりだったのに!


「手間をかけさせたな。今回はお忍びだ、ミドラの友人として遇してくれれば十分だ。世話の者にもそう云いつけてある」


 父の挨拶に、レオンリード=フランメシア=アルバロッサ殿下は朗らかな挨拶を返す。しかし世話の者というけど、彼らの人数はうちの使用人の人数の3倍以上来ているのですけどね。


「屋敷の手配、助かったよ。こちらはこちらで何とかするから今日は家族水入らずで楽しんでくれ」

「ありがとうございます。ですが殿下、ミドラの友人であるのであれば、なおのこと今夜はお泊りくださいませ。息子の友人を歓迎もせずに放り出すような真似を、我が家ではいたしませんから」

「そうか。では一泊だけ世話になろう」

「はい。ジル、殿下をお部屋までご案内なさい」

「はい。殿下、お久しぶりでございます。僕がご案内を務めさせていただきます」

「よろしく頼むよ」


 僕はお父さんに前もって言われたとおり、部屋まで案内する。

 元々伯爵家の住んでいた家だ。高貴な方がお泊りになってもいいような部屋はいくつも余っている。

 そんなお部屋をご案内……先導するのが僕の仕事だ。先導だけ、案内や説明はシンシアが行うけど。

 僕の足に合わせて殿下はゆっくり歩いてくれる。

 階段を上がりきって、更に奥。僕達家族が過ごす区画とは別の区画に案内をして、一番大きなドアの部屋の前で止まる。

 ドアを開けるのはシンシアだ。僕ではない。


「こちらのお部屋で、ご自由におくつろぎください」

「ああ、助かったよ」


 殿下が僕の頭を軽く撫でてくれる。


「ところで殿下、カードはお気に召されましたか?」

「ああ、実に面白いものだ。ミドラだけでなく、私の家族とも遊ばせてもらったよ」


 王族全員でトランプですか? シュールですね。


「新しいイラストの物がございます。ご確認をお願いできますか?」

「ああ、それはいいね。楽しみだ」


 ホストである我が家だが、殿下に関しては彼が連れてきた従者達が行う。

 シンシアから彼らに使っていい部屋や間取り、避難口などの説明を行ったり、殿下のお荷物を解いたりと従者の皆様も中々に忙しい。

 従者の皆様の手があくまで、お相手をするのが僕の仕事だ。

 もちろん殿下もそれは分かっている。

 僕の案内した部屋に入り、あらかじめテーブルに置いておいたやや豪華な宝石箱。

 殿下の護衛騎士の一人がそれを確認し、頷いた。


「ウェッジ、君も参加をしないかい? 3人の方が遊べるゲームが多いんだよな」

「殿下がそうおっしゃるのであれば」


 ウェッジと呼ばれた、線の細い騎士の人が殿下にイスを勧める。

 僕も子供用の背の高いイスに足をかけて座る。

 騎士さんはイスを運んでいる。


「それじゃあ何をしましょうか」

「なんだかんだで黒星からがいいかな。ウェッジ、切ってくれ」

「殿下、少しお待ちを」


 騎士の人は鎧を外して、壁の近くにある大きい木箱の中に押し込んだ。

 さすがに鎧を着たままカードで遊ぶのは嫌だったらしい。


「さて、では自分がシャッフルを務めさせていただきます」

「よろしくお願いします。えっと」

「僕の護衛騎士をしてくれているウェッジ=フォルナーベだ。親衛隊の隊長でもある」

「お初にお目にかかります、フォルナーベ伯爵。ジルベール=オルトです」

「しっかり勉強されているようですな、ジルベール君。護衛の任の間はウェッジと呼んでくれ」

「畏まりました、ウェッジ伯爵」


 クレンディル先生の授業の成果出てるよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 護衛騎士の中にビッグスさんもいたりしない?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ