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王城内での平和な密会

「入れ」

「「 はっ! 」」


 ジルベールの父親、アーカム=オルトが通されたのは城の一室。

 彼の前に先に部屋に入るのは、ベルベット=フランメシア=モーリアント公爵。

 この城の主の弟にあたる人物である。


「ベルベット、アーカム子爵。よくぞ足を運んでくれた。掛けてくれ」

「ああ、兄上も元気そうで安心だ」

「失礼いたします」


 二人が簡単に頭を下げて、目の前の威厳ある男の前のソファに腰かけた。

 彼こそがこの国、フランメシア王国の現国王、ウィンファミル=フランメシア=アルバロッサその人であった。


「さて、面白い物を開発したとのことだが?」

「ああ。兄上、これだ」


 問われてベルベットが取り出したのは、彼の娘であるサフィーネが持っていた物よりも質素だが、その分厳重に鍵のかけられる宝石箱。

 中に入っているのは、ジルベールの開発したカードだ。

 ベルベットが取り出した宝石箱と鍵を、国王の横に立っていた男が手を触れて鍵を開ける。

 そして取り出したカードを王の前のテーブルに広げた。


「本当に、武器ではないのだな」

「投擲の技術のある者ならば、近い距離ならばこれで人が殺められるそうだが……武器ではないそうだ」


 国王がカードの一枚を取り出して、折り目は付かないように軽く折り曲げる。

 この世界でカードとは、魔法を放つ消耗品か、シーフの上位職であるストライカーやアサシンが装備をする武器を指していた。


「ふむ。祭りでは簡易的な弓矢で的を当てるゲームもあるから、そういうものと考えれば不思議ではない、か?」

「なぜ兄上が民達の祭りの催しものをご存知で?」


 ベルベットの指摘に、国王の横にいた男が眉を上げて国王を見た。


「よ、余とて貴族院に通っていたのだぞ? 祭りぐらい参加したことがあってもおかしくなかろう? なあ!」

「どうでしょうかね?」


 国王の言い訳に、ベルベットは国王の横の男に視線を送る。


「そのような経験があったのであれば、自分もご一緒していたはずなんですけどね」

「だそうですが?」

「……今はこのカードの話であろう? のう? アーカムよ」


 国王があからさまに話題を変えようと、カードを持ち込んだアーカムに言葉を投げかけた。


「私としても興味のあるお話ですが、まあ今は我が息子の発明の話をしていただけると嬉しいですね」


 肩を竦めながらアーカムは答えた。

 これは国王の横の男に対してだ。


「ふむ、ならばあとでじっくりお話ししてもらうことにしよう」

「それがいいな」

「はあ、大した話ではないぞ。それよりも、そなたの息子に知恵の神の御心が舞い降りたか」


 知恵の神の御心が舞い降りた、それは新しく有用な知恵や知識が生み出された時に使われる言葉だ。


「そのようで。ジルベール本人は屋敷から出れない幼少の時期を、どう楽しく過ごすか考えた結果なのですが」


 アーカムは言いながらも、国王の前に置かれたカードを手に取ってシャッフルする。


「実際に遊んでみると、これがまた面白くも奥が深い。読みあいも当然必要になりますが運の要素もそれなりに必要としている。この部分がなんとも軍盤に酷似していましてね」


 カードをこの場の4人に配りながら、黒星。ババ抜きの説明を始めた。

 ベルベットは元々ルールを知っていたし、そこまで複雑ではないと残り二人の大人も問題なく遊べた。

 そしてしばらく無言でババ抜きをしつつも、互いに視線で牽制しあう時間が過ぎていく。


「ふうむ。もう一度」

「や、もういいでしょ」

「楽しめるのは十分に分かりましたので」

「他のゲームもありますが、それはご家族とお楽しみを。こちらにいくつかゲームの内容を書いた紙を用意いたしましたので」


 それを受け取った国王の横の男。国王はその冊子を恨みがましそうに見ている。


「やってみた感触だが、確かに面白いな」

「ああ。軍盤の歴史が繰り返される気がすると、そうオレが、私が考えてもおかしくはないだろう? 賭け金の増額や、金粉などをあしらった豪華なカード、それに暗殺にも使えるカードときたもんだ」


 ベルベットの言葉に国王が小さく頷いた。


「であるな。賭けの金額については王国法で定められておるが」

「こいつはこいつできっちりと作っておくべきだと思う。抜け道を見つけられたら目もあてられんぞ。生産量にしても同様だ。こいつはいまのところアーカムのところの子供しか作れないが、現物を触れば恐らく錬金術師ギルドの連中なら作れるだろう」

「ジルベールと言ったか? どれくらい作れるのだ?」

「まだ4歳の子供、それにカードを乾かしたりするのにも時間がかかりますので。報告を受けた時には1週間ほどかかったと聞きました」


 アーカム自身も勘違いしていたが、これはシンシアに言われて4セットを作った時間である。

 1セットが1週間かかるわけではない。ジルベール自身がカードを作成するのであれば、1日で何セットも作成が可能である。

 カードに数字やマークを押して乾かして、そのあとで透明な保護液をかけて更に乾かすので時間がかかっただけだ。


「貴族の子が魔法を使い、1週間か」

「そうなると一つ……オルト領からの距離なども考慮すると、金貨で15枚から20枚程度が妥当なところか?」

「ですかね。軍盤と比べると安価になりますが」

「軍盤と比べると輸送にコストがかからないし、一度に大量に運べるのも良いな」

「馬車の中で遊べるのもいいですよ? 馬車で酔う者ではできないでしょうけどね」


 次々とジルベールカードに関することがらが飛び出してくる。


「分かった。軍盤と見合わせて国で法を先んじて作っておこう。準備が出来次第、大々的に発表することとする。そうだな。1年以内には法を発表しよう」

「まあ予測通りだな」


 国王の言葉に、弟であるベルベットが苦笑をした。


「先んじて販売優先権を貰っておいたぞ?」

「何? ズルくないか?」

「こっちでも西部地方の貴族連中との繋がりに使いたいんだよ。兄貴にもいくつか回してやるから安心しろ」

「……待て、今の西部地方にそれほどの支払い能力があるのか?」

「一応食料品の現物での支払いも許可はしてくれるってよ」

「我が領はダンジョンが見つかったため、人を欲しています。幸い人の手配はできましたが、人が動くとそれ以上に食料も。自領内での消費を超えるほどの食料を我が領では生産出来ておりませんので」

「……であるか。ならばこちらからも人を出すか?」

「お恥ずかしい話ですが、お預かりした人を統率できるものがあまりおりません」


 オルト領はまだ10年程度の歴史しかないのだ。


「ふうむ。食料はベルベットのところで賄えるのだな?」

「それは任せてくれ」

「となると、支払いは金が一番か……」

「そうしていただけると」

「ああ、それならば自分から一つ提案が」


 適度に会話に入っていた男が提案したこと。

 それに国王は良い案であると頷くが、アーカムは若干表情が暗くなる。

 ベルベットがそんなアーカムの背中を叩き、必要なことだろと諭したことで、今回の話し合いは終わった。

 このあとも4人でテーブルを囲んで時間を忘れてカードに興じた。

 帰りがいつになるか分からないと前もって言っていたアーカム以外の人間は、それぞれの妻や子供、執事に色々と文句を言われる結果になるのだが、それはそれぞれ別の話である。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] とても続きが気になります
[気になる点] アーカムが若干表情を暗くしてしまう提案というのはどんなことなんだろう?ジルにも割と直接的に関わるのかな?
[一言] 売られていくカードの売上の一部くらいはくれるんかな。
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