お披露目会はまだ続く
案内された部屋に入ると、待っていたのはモーリアント公爵家の面々。おじいちゃんや見たことのない大人も多くいる。
「コンラート、ジル、こっちよ」
「サフィーネ姫様」
以前会った時の3倍くらいおめかしした、子供用のフリフリドレスを着た姫様だ。
「姫様、可愛らしい格好ですね。お似合いです」
「あら、ジルこそ。あなたお化粧したら女の子みたいね」
コンラートが硬直していたので僕が声を掛ける。
「さ、ジルベールカードで遊びましょ」
「いいんですか?」
あれは根回しをしてから世に広めるんじゃないの?
「ここなら大丈夫だって、お父様が言っていたわ」
「そうなんですね」
「はばつ? の集まりだから平気なんだそうよ」
「なるほど」
納得です。
貴族達の中でも、閣下の信用できる人間しかここにいないってことね。
ここにもキッズスペースが用意されている。
あれ、お兄ちゃんだ。
「やあ、3人とも。今日はおめでとう」
「レオン兄さま、ありがとうございます」
可愛らしく挨拶をする姫様。あれ? れお……ん? お兄ちゃんが一緒にいる、れおん?
金髪の髪に赤い瞳、お兄ちゃんと比べると細身で背も低い、輝くような笑顔の少年。
「あっ!」
「ん?」
「い、いえ、えっと」
僕はクレンディル先生に教えられた王族への礼をとる。
つまり跪いての御挨拶だ。
「ああ、いいよ、いいって。子供にかしずかれるのは申し訳ない」
「ジルベール? どうした」
「コンラート、レオン殿下だ。レオンリード=フランメシア=アルバロッサ殿下」
僕の言葉にコンラートが固まった。
「お、おうじさま」
ここで、王子様! スゲーっ! ってならないのが貴族の子供である。
コンラートも僕と同じで頭が真っ白になったのだろう。
「二人とも、殿下がこうおっしゃってる。楽にするといい」
「や、お兄ちゃん。そんな簡単に楽にできるもんじゃないよ?」
僕の脇を抱えて持ち上げたお兄ちゃんは、殿下に僕を差し出す。
「殿下、うちの弟だ。可愛いだろう?」
「よろしく。レオンと気軽に呼んでくれればいい」
「ジルベール=オルトです。えっと、兄がお世話になって、ます?」
持ち上げられてぶら下げられたまま王族へ挨拶するのは前代未聞の事態ではないだろうか?
「随分と面白い物を開発したみたいだね。会う事を楽しみにしていたよ」
「あ、あはははは」
気軽に撫でないで欲しい。
「さあ、そっちの子も一緒に遊ぼう」
「は、はい! コンラート=ダルウッドです!」
「うん、よろしくよろしく」
軽い調子で手を振って、姫様と手をつないでキッズスペースに移動する王子様。
僕はお兄ちゃんに抱えられたままだ。
「お兄ちゃん」
「どうしたジル」
「次からは前もって教えておいて」
「はっはっはっはっ……すまん。オレも前もって教えてもらえればそうする」
あ、うん。突発的な事態だったんですね? わかりました。
無駄に緊張を強いられるカード遊びの時間がこれから待っているようだ。
王子様と姫様、お兄ちゃん、コンラート、僕のメンバーでカード遊びを開始する。
うう、嫌な時間だよぅ。
「サフィーネゲームも中々面白いね」
「当たり前でしょう! 私の名前が入っているんだもの!」
「このカードの組み合わせの役も考えられているね」
「お、恐れ入ります」
丸パクリですみません。
「ジルは昔から計算を覚えるのが早かったですから」
「ジルベール、お前、すごいんだな」
変によいしょするんじゃありません、何度も言いますがパクったものですから。
「黒星に、片落ち、数合わせに25、七並べ。このカードだけで随分と遊べるものだね。カードは武器だとばかり思っていたが、よもやおもちゃになるとは」
ディーラー役のファラッドさんからカードを奪ってシャッフルしている王子様。
どうにもシャッフルするのが好きらしい。でも配る時はファラッドさんに渡している。
「他にも色々考えられそうだ」
「その辺は僕の口からはなんとも」
王子様がこちらに視線を送ってくるけど、勝手に新しいゲームを出すなと言われている以上、口を閉ざすしかない。
「ジル、一つ教えて差しあげなさい」
「お父さん?」
王子様と僕達のゲームを眺めていたお父さんが、声を掛けてきた。
「真偽があるのだろう?」
「……結構キツいのをチョイスするね」
「真偽? ほほう? それは楽しみだ」
「でも少し意地が悪いから、姫様とコンラート君は抜けた方が良いかも? 4人が丁度いいと思うけど」
「やるわよ! のけ者になんてさせないわ」
「オレもやるぞ!」
「じゃあオレが抜けようか。4人のが都合がいいんだろう?」
お兄ちゃんが抜けてくれた。
まあ、4人になるならいいかな。
「じゃあルールを説明しますね。単純なゲームです。カードを裏返しにしながら1から順番にカードをだすだけ。最初にカードを出しきった人の勝ちです」
僕はファラッドさんにカードを配ってもらう。
「カードは一度に何枚だしてもいいです。それと、手持ちに順番の数字を持っていなくても、カードを出さないといけません。つまり、1と言いながら嘘のカードを出さないといけないのです」
「嘘?」
「そしてそのカードが本当だと思ったら次に、嘘だと思ったらそれを嘘だと伝えます。2枚の星のカードは何のカードにでも代用が可能とします。皆さんカードを持ってください。レオン殿下、1のカードを出してください」
「ああ、1だ」
「では姫様、2を殿下のカードに重ねて出してください」
「……2よ」
「ここで僕が姫様のカードが2じゃないと思ったら、指摘します。それは2じゃないですね?」
僕がカードをめくると、そこには風の2のカード。
「僕は姫様のカードを嘘だと指摘して確認しました。ですが実際には2だったので、今まで場に出ていたカードが僕の手元にきます」
僕の手元にカードが2枚きた。うお、いきなり1じゃなくて5が出てるし。王子、やるな。
「じゃあコンラート君の番、3ね」
「3だ」
「ここでコンラート君のカードに僕が指摘します。それ、3じゃないよね?」
「なんで分かった!?」
顔。
「こうして指摘して、実際に違うカードを出していた場合、そのカードと場に出たカードを先ほどの僕のように拾います。こうして1から数字を出し合って13になったら、山が無くなり、リセット。また1からカードを出していきます」
「ふむ。1から13までを順番にだしていくのだな」
「そうです。時には嘘をつき、時には相手の嘘を見破りながらカードを減らしたり増やしたりしていって、カードが最初に無くなった人の勝ちです。名前は、真偽ですね」
「ふむ、面白そうだ。やってみるか」
やったことのないゲームに、王子様の目が光る。
このゲームはシンシアとクレンディル先生、お父さんやお母さんとやったことがある。
あまり子供向けではないなと前に言われたから、姫様には教えていなかった。
「では早速やっていきましょう」
「はい。カードを配りなおしますね」
ファラッドさんにカードを渡すと、彼はシャッフルをして再びカードを配布した。
コンラート君、大丈夫かな?
このゲームは『ダウト』と日本で呼んでいたゲームだ。
ダウトのままでもよかったけど、こちら風に名前は真偽にした。
何度かやると、みんな慣れてくる。数字が4つ揃ってたりすると、確実に指摘するようになったりもしてきた。
「それ、違うわね」
「ぬおー!」
「これは……合っていそうだな」
「王子、それ違いますよね」
「ジルベール、お前よく殿下に指摘できるな」
「ゲームだもん、遠慮する方が失礼だよ。殿下、カード全部どーぞ」
「一気に倍以上になったな……なかなかどうしてみんな嘘をつくな」
このゲームはいかに嘘をつくか、見破るかのゲームだが実はそれだけじゃない。
自分の順番にくる番号は分かるので、いかに後半嘘をつかずに乗り切れるかのゲームだ。
それが初めから分かっている僕は、あっさりとクリア。
カードを出すときに顔にでやすいコンラートが苦戦中。
それとすぐに指摘したがる姫様も中々カードが多い。
「抜けてしまったな」
「序盤で一騎打ちになっちゃうと、途端にスピードが落ちるんですよねこのゲームって」
二人ともカードが多いからだ。しかも一周するまで奇数か偶数かに分かれてしまう。
「3、嘘ね」
「くうっ」
「8、嘘ですよね?」
「もう、終わらないわ……」
お互いにカードが増えて減ってを繰り返して、13になっても外れるカードの量が少ない。
「待っているのも退屈だな」
「2人抜けた時点で終わりってルールにしてもいいんですけどね」
決着を付けたい場合もあるから、その都度変更した方がいいように思う。
その後何度か、ダウト……真偽を続けた。
「よい余興になった。今日は楽しめたよ。ありがとう」
「いえ、お祝いの言葉、ありがとうございました」
「……君は、子供っぽくないね」
そうかな? 貴族の子供ってみんなこんな感じじゃない? まあ実際に僕は子供ボディなだけで子供じゃないけど。
「なんでもお兄ちゃんを甘やかせたから、僕は厳しめに育てているらしいです」
実際には全然厳しくないけど。
「そうか、まあミドラが兄ではそうなるかもしれないな」
「……お兄ちゃん、何かしました?」
「そうだな、こういう話は本人がいないときにしよう。私の肩が痛い」
お兄ちゃんが王子様の肩に指をめり込ませてる。失礼すぎない?
「楽しみにしています」
「ああ、こんどゆっくり話そう」
社交辞令だと思うけど、お兄ちゃんの失敗談が聞けるかもと思うと本当に楽しみになる。
王子様はお兄ちゃんに手を振り払い離させると立ち上がる。
そしてゲームを眺めている閣下に何か話すと、お兄ちゃんを連れて部屋の外に出て行った。