サフィーネゲームが完成したわ!
わたしの名前がついたゲームなのよ! すごい事だわ!
貴族として生まれた者は、いつか自分の名前が人々の記憶に残るような偉業を成さないといけない。そう教えられ育てられたわたしは感動をしてしまったわ。
だって世界で初めてジルベールカードで新しい遊びをやったんだもの! これを偉業と言わずになんと呼べばいいのかしら!
「ふふふ」
寝間着姿でベッドの上を転がり、わたしは笑ってしまったわ。
新しい音楽の曲には作者の名前が付けられる、これと同じようなことをやったのよ!
「……でも、ジルベールはふしぎ」
わたしと同じく、お披露目を迎えたわたしよりも小さな男の子。年下の男の子って初めて見たわ。
コンラートと共に会った時は緊張したわ。でもそれ以上に感動だったの。
お屋敷の中でしか生活できないわたしに、新たな娯楽を用意してくれた子。
女の子かなと思わずにはいられない可愛らしい顔に、大人しくもしっかりと言葉をしゃべる姿。
まるで大人と話しているのではないかしら? そう思える気遣いも感じるの。
やっぱりあんなゲームを作れる子は、普通とは違うのかもしれないわね。
「何に気を付ければいいのかしら」
彼らと会う前に、一緒に遊んだうえで、ジルベールへの発言は気を付けなさいと言われたわ。
そしてジルベールの発言は、できるだけ覚えていなさいとも。
ファラッドも付けるからと、普段はお父様の仕事の手伝いをする執事までつけられたし、屋敷内で働く侍女も普段より多くつけられたわ。
彼は何か問題があるのかしら? あんなに面白い遊びを考えられる子なのに。
「新しい遊びも教えてもらえたし、完璧だったわよね?」
ベッドの側で控えている侍女のニーナに問いかけると、彼女は苦笑いだ。
「どのゲームが面白かったですか?」
「七並べが面白かったわ! それと数字合わせもなかなか手ごわかったわね」
数字合わせの時のジルベールは少し意地悪だったわ。コンラートがわたしの次だったというのも問題だったわね。
「あんな攻略法があるのね」
順番によって勝敗が左右されるとは思わなかった。たまたま連続でめくれてないカードを当てなければ、まったく勝てなかったかもしれない。
「サフィーネゲームが一番楽しかったわ!」
あれは4人でやるより、3人の方がカードが回って面白いかもとジルベールは言っていた。
強い役をつくるには、カードが多く残る方が高い役を揃えられるとも。
「ジルベール、字が書けていたわね」
そこはちょっと悔しかった。わたしも文字の勉強をしていたけど、知らない単語が多くて一人ではあまり長い文はかけない。
お父様とお母様に、お勉強の報告として短い文のお手紙を書くことができる程度だ。
うん、結構悔しいわ。聞けばジルベールはわたしよりも2歳も年下なんだもの、年下の男の子に負けるって考えるとかなり悔しい。
ファラッドとジルベール、それとジルベールの侍女が並んで紙に色々と書き込んでいる様は、まるでお仕事をしているお父様のようだった。
わたしもあれくらいできるようにならないといけないわ。ジルベールができるんだもの。
「コンラート様とジルベール様以外で、印象に残られた方はいらっしゃいましたか?」
「ジル、オルト子爵の奥様。綺麗な方だったわ」
ジルベールのお父様、オルト子爵は騎士としてもとても強い方と聞いたわ。でもお父様の方が大きくて強そう。
奥様のミレニア様は、燃えるような赤い髪で遠くから見た時は目の引いた、少し怖そうなイメージだった。
でも実際にご挨拶をしたときの優しそうな瞳と、穏やかな表情がとても美しいと思った。
お母様よりもお若いからかもしれないけど。
「左様でございますか」
「魔法が使える方なのよね?」
「そう伺っております。王都の男爵家の血筋だとお聞きいたしました」
「あの方もお強いのかしら?」
戦いの場で剣を振るう様子が、とても想像できないわ。
「伯爵家出身のオルト子爵の妻に選ばれる程ですから、何か特別なお力はあると思います」
「それもそう……なのかしら?」
よく分からないわ。
「明日以降も、しばらくダルウッド家とオルト家の方々とご一緒なさいますから。奥様方をお誘いして女性だけのお茶会などもご準備されてはいかがですか?」
「面白そうね! ジルベールやコンラートの話も聞けそうだわ!」
「楽しみができましたね。そろそろお話は終わりにして、おやすみくださいませ」
「ええ……もうちょっと」
「ふふ、お寝坊したら皆さんと遊んだりお話ししたりできなくなりますよ?」
「そ、それはイヤだわ」
ニーナの言葉に、わたしはお布団にもぐる事にする。
明日も、明後日も一緒に遊べるのね。
お披露目では粗相のないように、そう言われたけど……お披露目ってとっても楽しいものだったね。




