改めて、王都へ
「はい、これであがりね」
「まいりました」
「またオレが最下位ではないかっ」
交易都市イーリャッハを出発して、子供達で馬車に乗っている僕ら。
まあ執事兼お世話係のファラッドもいるけど。
イーリャッハを出発する直前までは、いよいよ王都に向けてのイベント発生かと身構えていた。だが公爵のお屋敷から外を出た瞬間にその心配は綺麗に霧散した。
ここまで来た時の3倍以上の騎士が護衛についていたからだ。街中を進む姿はもはや大名行列である。
その真ん中で手厚く保護された馬車に乗る僕の警戒心なんぞ、毛ほど役に立たない。
来る時と違い、魔物の発見報告すら聞かなくなったほどだ。
おかげで僕は油断しまくりのただのお子様である。
「黒星ばかりでは退屈だわ」
「またサフィーネゲームに戻します?」
「それもいいけど、流石にねぇ」
馬車で移動中なので、カードを広げるゲームができない。やれることと言えばババ抜きジジ抜きポーカーくらいだ。
他にもゲームはあるけど、新作ゲームの案はとっておけとお父さんとお母さんに比較的太めの釘を刺されてしまったので提案できない。
「では少しお話をしませんか?」
「お話? 何かしら?」
僕は一度トランプもどき自体をやめることを提案する。
「姫様もコンラート君も、今までお屋敷の敷地から外には出られなかったんですよね?」
「ええ」
「そうだな」
「僕もです。暇じゃありませんでした?」
「暇だったわ。もっと早くジルベールカードを持ってきてくれればよかったのに」
「オレは、そうでもなかったか? でもジルベールカードはうちにも欲しいぞ」
そういう催促は僕ではなくお父さんに言ってください。
「僕はカードがあっても暇でしたし。普段はどうやって過ごしてました?」
みんなはどうやって時間をつぶしていたのだろうか? 気になるところだ。
「わたしはお母様とお茶会をしたり、お部屋で本を読んだり、お庭をお散歩したりしていたわ」
「姫様のお屋敷は中庭が広いし立派でしたね。うちはあそこまで広くないので羨ましいです」
貴族の家が広いのは子供を飽きさせないようにするためっていう理由があるのかもしれない。
あんな大きな街にある公爵家の屋敷が、めちゃくちゃ広かったもん。公園かよ。
「小さな頃は退屈を感じていたが、ここのところはお勉強と鍛錬ばかりだ。夕方になってようやく父上や母上との時間が取れたくらいだったかな」
伯爵家は教育熱心なようだ。でもこれはコンラートが跡継ぎだからかもしれない。
「あら、わたしも午前中はお勉強よ? 鍛錬はなかったけど」
「僕も午前中がお勉強で、午後は空いてた」
「なぬ? どこの家でも鍛錬をしていると父上に聞いたぞ!?」
「それって、コンラートが跡継ぎだからじゃないかしら?」
「お兄ちゃんは鍛錬してたって聞いたけど、お兄ちゃんの鍛錬を担当していた騎士がお兄ちゃんについて王都にいっちゃったから、僕の鍛錬を見る人がいないってお父さんに聞いたよ」
子爵家は伯爵家や公爵家よりも人手が不足しているのだ。
「それは、なんというか」
「鍛錬など一人でもできるだろう? オレは今日もお庭で剣を振ったぞ?」
「子爵家の、それもジルベール様は次男でございますから。仕方のないことかと思われます」
沈黙を守っていたファラッドさんが急に発言をしたので、僕達の視線が彼に集まる。
「私は男爵の家の者です。父は仕事があり、代わりに母に鍛錬を見てもらいましたが、別の方に師事をした事はありません。礼儀作法の家庭教師は付きましたけど」
「ファラッドさんも、ウチと同じような感じだったんですね。僕のお母さんは神官系のJOBと聞いていたので、僕の鍛錬には付き合えなさそうです」
僕の言葉に彼はゆっくりと頷いた。
「私もこの歳になって初めて気づいたのですが、みなさんくらいの年齢の子供の面倒を頼めるような信用できる部下や知り合いはそうはいません。オルト家はアーカム様の代で興された新しい家ですからなおのこと、長男であるミドラード様を優先するのは仕方ないことだと思います」
「なるほど。ちゃんと考えると、理由も分かってくるね」
「領地持ちの貴族と言えども、信用できる人材というのは中々に手に入らないのでしょう。私も心から信用できる者は、代々仕えてきてくれている家来達と、貴族院で知り合った友人数名くらいですから」
だからこそ貴族院で心から信頼できる友人を作れたのは、私にとって財産なんです。
そう言ってくれたファラッドさんはどこか誇らしげだった。
「ねえ、貴族院の事、教えてもらえないかしら?」
「あ、聞きたいです」
「オレもだ! 興味があるぞ」
僕達の暇つぶしの矛先は、ファラッドへと向かった。
ファラッドは苦笑しながらも、貴族院での授業や面白かった出来事、変な先生の話なんかを色々と教えてくれた。
意外と話上手だったファラッドの話は、夕方まで続いてそのまま野営。
たわいもない話やトランプもどきを続け、時には眠くなってスヤスヤ眠って姫様に蹴られて起こされたりし、とうとう王都が見えてきた……らしい。僕の席から王都は見えない。
貴族としてのお披露目のため、王都に来た。
ゲームによっては今まではダイジェスト的なものではしょられていて、ストーリーのスタート地点がここなのかもしれない。
危険な目になんか遭いたくないし、痛いのもごめんだ。
ゲームの主人公や、キャラクターに転生したであろう僕は油断できないのである。
それとサフィーネ姫様がヒロインかもしれない。こんなに可愛いんだもの。
でもお子様相手にときめいたりはしないですけど。
彼女との出会いがイベントで、もう出会いイベントは終わりましたとかだったらいいのになぁ。




