パクったゲームはサフィーネゲーム
「また勝ったわ!」
「むう、ギリギリで負けました。参りました」
「く、あまり参加できていないっ」
翌日。王都への出発は明日らしく、今日は一日ゆっくりだ。
なので今日も公爵家のお茶会室、キッズスペースでトランプもどきで遊んでいた。
姫様と僕と、おまけでコンラートの数合わせの戦いは激しかった。
僕も接待プレイを心掛けているというのもあるが、わざととはいえ負け続けるのはしんどい。だからなるべく圧勝しないようにしていたけど、負けが込んできた。
「七並べっていうのはどういうものかしら?」
「ご説明してもいいですけど、3人でやるのはあまり適さない気がしますね」
七並べは4,5人でやった方が場が混沌として面白いと思う。
「他に何かゲームはないかしら? 知らないものの方がいいわ!」
「そうですね。少し難しいかもしれないのですが……」
「む、そんなのもあるのか?」
3人でできるゲームで、盛り上がるものだとポーカーだろうか。
でも、役の表なんかがないので、難しいかもしれない。
「シンシア、僕のカードはある?」
「こちらにございます」
準備していてくれたらしい僕のカード。姫様の物と比べると質素な木の箱に入っているそれを取り出して、役毎に並べていく。
「コレがワンペアでコレがツーペア、スリーカードに、ストレート、フラッシュ、フルハウス……まあフルハウスでいいか。フォーカード、ストレートフラッシュにロイヤルストレートフラッシュ……と」
全部並べると場所をとるな。
「これは?」
「姫様のカードで説明をしますね。シャッフルをお願いして5枚カードを配ってください」
姫様が興味津々で覗き込むのを、執事のファラッドが押さえつつカードを配ってくれる。
その後で僕はファラッドから山札を受け取って、何枚かを上に持っていく。説明をするためにカードを並び変えたのだ。
「最初は見せながらやりますね。配られた5枚のカードの中で、この役に近いものを目指します。僕の手札だと、4が一組揃ってますね。これはワンペア、こちらの状態です」
テーブルの上ではなく絨毯の上なので、体を伸ばしてワンペアのところを指差す。
「この状態でワンペア、一番下の役の状態ですね。この中で、自分がいらないと思うカードを裏側にして捨てて、同じ枚数のカードを取ります」
僕は手持ちのカードを二枚裏側にして捨てて、2枚新しく補充した。
「こうすると、ワンペアだった役がスリーカードになりました。つまり役がこっちの、下から二番目になります」
「なる、ほど?」
「三枚カードを残して、二枚カードを捨てて補充します。あ、星が来ましたね」
僕は黒い星のカードと、数字の1のカードを入手した。
「星のカードは、自由のカードです。すべてのカードの代わりに使えます。僕の手札だと、4のスリーカードが一組と、1のカードと星のカード。フルハウスにもフォーカードにもできますので、この場合フォーカードにします」
そこでフォーカードの場所を指差す。
「上から3番目に強い組み合わせになりました。こうやってみんなで手札を2回交換して、強い役を出せた人の勝ちというルールです」
「少し難しいわね」
「横にこれを出したままにしておいてくれれば、見ながらできるな」
「この役はこのままにしておきましょう」
僕はカードのシャッフルをお願いした。
「ジルベール様、よろしいでしょうか?」
「はい、えっと。ファラッドさん」
カードを配ってくれるファラッドさんが、僕に声を掛けてきた。カードを渡してくれるときの『こちらをどうぞ』以外では初めてかもしれない。
「例えば同じワンペア同士だった場合は、同点ですか?」
「その場合、1が一番上で、それ以外は数字の大きい順です。ツーペアやフルハウスも、一番大きい数字を持っている方が勝ちで。フルハウスの場合は3枚の方で競いましょうか」
細かいルールは今決めてしまえばいい。公式大会のポーカーのルールなんて知らないし。カジノなんかでの場合カードの配布も2枚からとかがあったはずだ。
「ストレートの場合は?」「それも数字の大きい順で。でもストレートの場合は13から1には行けません」
「ふむ、理由を聞いても?」
「ロイヤルストレートフラッシュが、特別だからです」
「ロイヤルは特別、ですか。なるほど。では数字が同じで、役も同じであればどう判別しましょうか」
「そうですね……火は水に負け、水は雷に、雷は風に、風は火に負けるというのはどうでしょう? それ以外の組み合わせの場合は引き分けってことで」
「カードを裏側に捨てるのは?」
「人の捨てたカード見て、役が成立しなくなると知られるのを防ぐためです」
「役の順位はどう決められたのですか?」
「揃いにくそうな順番で」
「なるほど……。ラーナ、書くものを」
「畏まりました」
どうやらいつでも遊べるようにメモを取るようだ。真面目な執事さんである。
「このゲーム、なんというゲームなのですか?」
「このゲームの名前、名前ですか」
ポーカーのままでいいかな?
そう思ったけど、名付けの理由とか細かく聞かれると少し困るな。
どうしよっか。
「名前は……サフィーネ姫様、何かいいのありますか?」
「え? 名前、ですか?」
「はい。これは前から考えていたゲームなのですが、名前が決まっていなかったので」
「わたしが決めて良いのですか!」
驚きの声を上げて、立ち上がる姫様。
「え、ええ。まだ決まっておりませんので案をいただければと」
「お待ちを! お父様! お父様!」
「え、ちょっ」
「サフィーネ姫様っ!?」
驚いていると、同じくお茶会室でお父さんと伯爵と話していた公爵が何事かとこちらに歩いてきた。
お父さんと伯爵も何事かと、ついでにお母さん達も。
「新しいゲームを教わりましたの!」
「おお、そうか。それはそれは、世話になるなジルベール」
「いえ」
「それでジルベールが私にこのゲームの名前を付けていいって!」
「なんとっ!」
公爵が目を見開く、伯爵も驚いていて、お父さんは苦笑いだ。
「ジルベールよ!」
「あ、えっと、不味かったでしょうか? 何か失礼でも……申し訳ございません、閣下」
でかい人の剣幕に、僕はビビッてしまう。
子供ボディな僕に威圧感に対する耐性はないのである。
「素晴らしいっ! このような素敵なプレゼントを頂けるとは! 良かったな! フィーネ!」
「え? え?」
持ち上げられて担がれて、肩に乗せられる僕が現れた。
ててーん!
「高っ」
「ゲームの名前はそうだな、サフィーネゲームとするしかあるまい」
「わたしの名前をつけていいのですか!?」
「うむっ! このゲームを最初にやった人間として、相応しかろう!」
公爵がテンション高めに動くから、肩の上の僕もグラグラして怖い。
「オルト子爵っ」
「はっ!」
「貴様の息子は素晴らしいな! 例の件、全面的に支援する事を約束する」
「ありがとうございます」
「商会の立ち上げが必要になるぞ? だれぞか信用のできる人間はいるか?」
「父の商会の息子を引き上げる予定にございます」
「一人息子か?」
「いえ、次男がいます。長男は跡取りでしたが、今回の件で独立を希望しました。既存の商会で扱うよりも新規の専門の商会を用意するべきであると」
「ふむ。その考えには同意だ。信用はできるか?」
「我が領への行商を生業としているものです、ご安心を」
公爵がカイゼル髭を引っ張って考えるそぶりをみせる。
「よかろう。明日、商業ギルドに書類を用意させよう。今のうちに準備を整えておけ」
「かしこまりました」
「ジルベールは名前を書けるか?」
「問題ございません」
答える父ではなく、首を向けて肩の上の僕を見る公爵。
「書けます」
「よし、では問題ないな。ジルベールよ、さっそくだがワシにもサフィーネゲームを教えてくれ。一緒に遊ぼうではないか」
「わ、わかりました」
肩の上で固定されている僕に拒否権なんかないのだ。
教えるのはいいから、さっさと降ろしてもらえませんかねぇ?




