宿には休憩にいっただけらしい
「さあ、そろそろお休みの時間よ」
「サフィーネ、楽しめたか?」
「ええ、面白かったわ」
トランプもどきばっかりやってたけど、なんだかんだで面白かった。大人達と違い、表情豊かな子供と遊ぶのも楽しいものだ。
「部屋は用意してある。今日はゆるりと休まれよ」
「ありがとうございます」
伯爵が僕達を代表してお礼を言ってくれたので、僕達は頭を下げるだけだ。
ん? 部屋? 宿に戻るんじゃないの?
「では良い夜を」
「コンラート、ジルベール。おやすみなさい」
「「 おやすみなさい、サフィーネ姫様 」」
公爵家が下がったので、僕達も案内されて移動である。
宿は荷物を預けて使用人や騎士達を休ませるだけで、僕達はここに泊まりのようだ。
お父さんとお母さん、僕とシンシアが一つの部屋に通される。客間なんだろうけど、なんとも豪華な部屋である。
今日は用意された寝間着に着替えて、歯ブラシで歯を磨いて寝るだけだ。
「では私は行ってくる」
「はい、頑張ってください」
「ああ、しかし公爵は酒に強いからな」
「お父さんはおでかけ?」
「まだ公爵と話す事があるのでな」
先ほどはお母さん達と子供がいたから区切りにしただけらしい。
お母さんと僕におやすみのキスをしたお父さんがでかけると、部屋に備え付けの個室にあるバスタブに。
本日二度目のお風呂に入った僕は、寝間着にささっと着替えてベッドに収まった。
「ねえねえお母さん」
「なあに?」
鏡面台の前に座って、シンシアに髪を梳かしてもらっているお母さんに声をかけた。
「サフィーネ姫様とコンラートと僕しか子供いないの?」
「もちろん、もっとたくさんいるわ」
「そうだよね?」
軽く地図をみただけだしゲームでしか知らないけど、西部はかなり広い。その広大な土地にお披露目予定の貴族の子が3人だけとは考えにくい。
「基本的に王都までご挨拶するのは、王家への貢献度の高い家や、王家と距離の近い家がほとんどなのよ? ミドラちゃんの時にはウチもご挨拶には行かなかったわね」
「そうなんだ?」
ってことは王家への貢献度が上がった? それともウチって王家と距離が近くなった?
「ミドラちゃんが王太子殿下と同い年で、王家への覚えがめでたくなったのよ?」
「嬉しそう、じゃないね?」
「だって移動もご挨拶も面倒じゃない?」
「奥様、お言葉が崩れております」
お母さんぶっちゃけますね。
「ミドラお兄ちゃんかぁ」
僕と10歳近く年の離れたお兄ちゃんだ。11歳で貴族院に入り2年目。あと2年で卒業の13歳。いまは王都でお勉強中である。
年に数度しか帰ってこないお兄ちゃんだが、去年はとうとう帰ってこなかったうちの跡取り息子である。
「ミドラちゃんがお嫁さんをもらうから、そのご家族にご挨拶にもいくのよ?」
「お兄ちゃん結婚するの!?」
「ええ、そうよ」
「初耳だよ!?」
「言ってなかったかしら? 騎士の試験に受かって騎士のJOBを得て、それで向こうのご家庭にご挨拶に行きたいって」
「お兄ちゃん騎士になったんだ」
お父さんと同じ職だ。
「他のも何か持ってるの?」
「魔術師を取りたいって言ってたのだけど、まだよ。魔術師の書はジルちゃんが用意してくれたから、領に戻ったら渡してあげるつもり。使えるようになるのはいつになるか分からないけど」
「おー」
そうなると魔法剣士の書が必要になるな。屋敷のチュートリアルダンジョンの二層にいけばあると思うけど、そこは戦闘があるからまだ顔を出していないんだよね。
「あと、赤剣って? お父さんのことだよね?」
「覚えてたのね? お父さんの二つ名よ」
「二つ名っ! 冒険者っぽいっ!」
「騎士として、赤剣を名乗ることを許された二つ名なのよ」
お母さんが鏡越しに苦笑いしているのが見える。
「騎士として?」
「ええ。お父さんが戦う時、魔法剣士として剣に火ではなくて熱を通して戦うの。その高温になり赤く耀く剣を持って、魔物を倒す姿から赤剣のアーカムって呼ばれているのよ? 他にも赤の守護騎士とか、とにかく赤い剣を持ってって特徴があだ名になっているわね」
「剣が赤く」
それってどんだけ高温にしたらなるんだろうか? お父さん熱くないのかな?
「熱そう」
「そうなのよね。ジルちゃんもやってみたい?」
「格好いいけど、剣は怖いかなぁ」
ナイフを持ってスリムスポアを倒した僕だけど、刃物はやっぱり怖いものだと思う。
「ジルベール様にはあまり向かなそうですものね」
シンシアの言う通りだ。僕もそう思う。
「そうねぇ。この歳であれだけ魔法を操れるんだもの。魔力も高そうだし」
「魔力? 分かるの?」
「なんとなく、かしら?」
「ほえー」
でも僕は魔術師のJOBを持って既に育て始めている。魔力最大値アップもパッシブスキルで入っているはずなので普通の子供よりは多いだろう。
「いろんな魔法職の人と接していると、そのうち分かるようになるわよ?」
「そっかぁ」
髪を梳かし終えたお母さんは、衝立の裏で着替える。
そしてセクシーなネグリジェ姿になって、僕の寝ているベッドに入った。
「それじゃあ寝ましょう?」
「はぁい」
「おやすみなさいませ。横の使用人室にいますので、何かございましたら呼び鈴を」
「シンシアもしっかり休みなさい? なるべく起こさないようにするから」
「畏まりました」
照明の魔道具に蓋をして、シンシアが蝋燭を持って部屋から出ていく。
「お母さん」
「はぁい?」
「お母さんと寝るの、久しぶり」
「そうね」
ネグリジェ姿のお母さんと寝るのは初めてだし。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
ここのベッド、うちの屋敷のベッドよりも柔らかくって暖かくって、布団も軽い。
お母さんの匂いにも安心し、あっさりと僕の意識はなくなるのであった。




