ジルベール無双
「さて、子供たちは子供たちで遊ばせておこうか」
「そうだな。我々は我々で話をしましょう」
食事が終わると、部屋を移動だ。広くて豪華な食堂から、別の部屋に移る。
そこにはいくつものテーブルとイスが並んでおり、ティーセットが用意されていた。
暖炉もある。食堂と比べると少し質素な部屋だ。
男チームと女チームに分かれるようで、別々のテーブルに座った。
そして僕達が移動する先は地面に敷かれた大きな絨毯。それといくつも置かれたクッションである。
「まさかのキッズスペース」
「どうかしましたか?」
「シンシア、なんでもない」
そこにいたのはシンシアと旅の最中によく見たダルウッド家のメイドさん。あと何人ものメイドさんと執事さんだ。
僕達の世話、というよりはサフィーネ姫の付き人だろう。
「さっそく遊びましょう! ジルベールカードも用意したわ」
「はい、お相手お願いいたします」
「よ、よろしくおねがいします」
姫様が絨毯に乗る前に靴を脱いだので、僕も靴を脱いで絨毯にあがる。
姫様に席を勧められて着席をする僕とコンラート。
「ジルベールにコンラートね? あ、コンラートとジルベールね。よろしく!」
「はい、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
家格が上でしかも跡取りという立ち位置のコンラートの方が上だ。コンラートを先に呼ばなければならない。
サフィーネ姫様が僕達を呼んだ時、執事の一人が動こうとしたので注意をしようとしたのかもしれない。
「コンラートはジルベールカードは知っているかしら? まだほとんどの方は触ったことがないらしいのだけど」
「こちらの旅の最中に、ジルベールに教わりました」
「はい、ですが馬車の中でしたので黒星くらいしかできませんでした。せっかくカードが広げられるので、数合わせや七並べがいいのではないかと思います」
「む? 黒星と25以外にも遊び方があったのか!」
「七並べは知らないわね、興味あるけど、まずは……数合わせにしましょうか」
サフィーネ姫さまが宝石箱のような箱からトランプもどき、ジルベールカードを取り出した。
「数合わせとはどのようなゲームなのだ?」
「コンラート、ホストはサフィーネ姫様だよ」
「あっ」
ジルベールカードを教えたのは僕だから僕に聞こうとするが、今日はサフィーネ様の招待だ。
まず彼女にお伺いを立てないといけない。
コンラートの失敗した! という顔を見て姫様がクスクスと笑う。
「いいのよ。教えてあげるからちゃんと聞いてね?」
「ありがとうございます」
コンラートが姫様にお礼を言う。姫様はカードを執事の一人に渡すと、執事がカードを裏返しにして丁寧に一枚づつカードを並べていった。
それをコンラートが目を輝かせながら見つめていた。
「ファラッド、説明を」
「はい、姫様」
ファラッドと呼ばれた執事が、神経衰弱……数合わせのルールを説明していった。
それを真剣に聞くコンラート。
カードをめくったりして実際に見せたりと、とても丁寧に教わっている。
「だいたい、分かりました」
「では実際にやってみましょう」
執事さんが再びカードをシャッフルして並べる……並べるだけ並べて見てるだけって、大変そうだなぁ。
「30枚です」
「……16枚よ」
「……8枚です」
うん、子供になんか負けないのだ。
「流石、考案者様。お強いですね」
「いえいえ、そんなことは」
実は順番が家格順でスタートしてしまったのだ。
公爵家の姫様が最初、次に伯爵家のコンラード。最後が僕なのである。
二人がめくった段階で分かっているものを僕が取り、間違える時はわざとすでに開いたカードを出してヒントをなくす。
僕があらかたとってカードが減った状態で姫様の番になるから、姫様もある程度とれる。
結果としてコンラートが取れるカードはほとんどなくなってしまうのだ。
姫様はある程度できているが、コンラートは初めてのゲーム。コンラートが苦戦するのもしょうがないし。それに3周目なんか、ジルベール無双なのである。
ジルベール無双なのである。
「く、もう一回ですわ」
「うむ、次は負けないっ」
規則正しく並ばれているので、覚えやすいのも楽だ。
「では再び並べます」
執事のファラッドさんがシャッフルをして綺麗に並べてくれる。
そして当然のように姫様から開始し、失敗。コンラートも別の場所をめくって失敗をした。
僕も一枚適当にめくって、当たりがあったのでそれを貰う。次をめくったけどダメだったので、コンラートの失敗したカードをあけて次に回した。
「あ……そういうことね」
気づかれたらしい。
「お気づきになられました?」
「ええ、あなた、いい性格しているわ」
「いえいえ」
「なんだというのだ……く、また外れだ」
姫様が失敗してコンラートも失敗すると、僕はかなり有利になる。
2周目の段階で、既に2ペア、4枚も獲得できている。
姫様も僕のめくり方を真似するが、姫様の次はコンラートだ。算数も満足にできない彼が僕と姫様の駆け引きに混ざることで、ゲームを僕の有利に傾ける。
「何でそこをめくりますのっ!」
「ちょっと、揃えられたじゃないっ!」
「ああ、また新しいところをっ」
コンラートがめくるたびに、姫様の口から悲鳴があがる。
結構負けず嫌いの性格してるなぁ。
「くうっ! もう一度よ!」
「また負けた……このゲームは難しい」
数合わせを何度も繰り返し、声を出していた姫様のためにお茶休憩が入る。
僕達は絨毯に座ったまま、料亭のお盆みたいな足のついたお盆で紅茶を飲み始めた。
「ジルベール様、少しは加減してあげてください。相手はお姫様なんですよ」
接待プレイ忘れてた!
「あ、そっか……でももう遅くない?」
「はあ、もっと運の要素の強いゲームのご提案を」
シンシアからの小声の指摘に、子供相手に本気で戦っている自分に気付く。
仕方ない、比較的簡単なゲームに切り替えるか。
「一枚残し?」
「ええ、黒星を変化させた遊びです。ご提案させていただいてもよろしいですか?」
「……そうね。そろそろ別のゲームにしましょう」
攻略法は大体つかめたわ。そう呟く姫様が僕の提案を受け入れてくれた。
「黒星と違い、白い星も入れてシャッフルします。お願いしてもいいですか?」
「かしこまりました」
ディーラーのファラッドさんがカードをシャッフルしてくれる。
「ではファラッドさん。一番上のカードを誰にも見えないように、外しておいてください」
「こうですね」
僕の言葉にファラッドさんがカードを見えないように僕達の中心に置く。
「残ったカードを全員に配っていただきます。基本ルールは黒星と同じです。姫様は黒星を御存じなんですよね?」
「ええ。最後まで黒い星のカードを持っていた人間の負けよね」
姫様の言葉に僕は頷く。
「今回は黒い星は白い星と同じ数字扱いにします。つまり黒い星と白い星が揃えば黒い星も捨てられるのです。その代わりがこのカードです」
裏返しされたカードを僕が指差す。
「このカードが、外れのカード、というわけね」
「む? どういう事だ?」
「コンラート、このカードゲームは1から13までの数字が4種類、それと白い星と黒い星の2枚が入っている。その中でこのカードだけが、ペアになれないんだ」
「ペアに、捨てられないってことか」
「そうね。この一枚と同じ数字を持っている人が最後まで残ってしまう。しかし、そのカードは誰にも分からない状態になっているのね」
「そういう事です。まあ黒星と同じくカードを捨てていって、最後に残った人の負けなのは変わらないから」
「わ、わかった」
僕と姫様の解説によりコンラートも理解する。
ババ抜きではなくジジ抜きだ。
「ではカードを配ります。姫様、こちらを」
「ええ、頂くわ」
ああ、執事さんに配らせると渡されるんだ。
「これなら僕も答えがわからないから、開発者が有利という事にはならないでしょう?」
「ええ、いい条件だわ」
「うむ。次は負けない」
そう言いながら執事さんに渡されたカードからペアのカードをどんどん抜いていく。
と、残りカードが二枚になってしまっていた。たまにあるよねこういう時。
「ちょっと」
「おい」
「いや、これは、運が良かったということで」
姫様がコンラートからカードを取り始めたので、コンラートが僕のカードを取った。
家格順で回ってるみたいだから、そうなるのはしょうがないんだけど。
そして僕が姫様からカードを取ると、あがってしまった。
「ぐぬぬぬぬ」
「貴様」
「いやいや、唸らないでくださいよ!」
本当に運なんだから!




