返事をするのにも気をつかう
「失礼いたします」
「ああ! ようやく顔を出したな!」
でかっ!
休憩をして夕方になった。そして移動だ。この世界かこの街だけか分からないけど、魔法の灯だろうか街灯的なものもあって、比較的高い建物に囲まれた道もそんなに暗くない。
そんな街を少しだけ移動し、石造りの立派なお屋敷に入った。
いや、お屋敷もでかかったけど、出迎えてくれたこの人もでかい。それと見事すぎるカイゼル髭だ。
「コンラートにジルベールであったか! この街の主、モーリアント公爵であるっ」
「は、はい」
「お初にお目にかかります、閣下」
圧倒されたコンラートがいたので、僕は冷静にご挨拶だ。
「うむ、コンラートは子供らしくてよろしい! ダルウッドよ、お前に似たよい顔立ちだな! ジルベールはしっかりしているな、流石は赤剣の息子だ! だが顔立ちは夫人似かの!」
赤剣?
「ありがとうございます。立派な跡継ぎとして教育していきたく思います」
「私に似なくて良かったと思っております。妻に似れば間違いなく美人になりますから」
「はっはっはっ、コンラートは長男であったな! 父に倣い、立派になるがよい!」
「は、はい!」
脇に手をいられて持ち上げられたコンラートが、高い高いされている。あれ、僕もやられるのかな、怖いんですけど。
「ジルベール、中々興味深いものを作ったようだな! 後で共に遊ぼう」
「はい」
頑張って小さい『ぁ』を発音しないように返事をする僕の頭を、公爵閣下が撫でてくれた。
「さあ、掛けてくれ! 食事にしよう! かたっくるしいのは抜きだからな」
「さ、並びましょう」
「うん」
お母さんに背を押されて、席の横に立つ。台が置かれているから、その上に乗ればいいのだ。でないとテーブルに隠れてしまう。
ついでにイスもファミレスにあるようなキッズイスだ。
僕達を歓待してくれているのは、この都市の頂点に立つお方。現国王の弟であり、僕達の住む西部の統括でもある『ベルベット=フランメシア=モーリアント公爵』その人だ。
ベルベットがお名前で、フランメシアがこの国の名前。
この交易都市イーリャッハを含む、モーリアント地方の領主代行である彼は僕のお父さんの直属の上司である。
この地方は王家直轄地のため、領主はいない。あくまでも領主代行だ。
「さて、俺の娘を紹介しよう」
「ようやくですの?」
僕達が席に座る前から、閣下の席の横にいた女性が閣下のカイゼル髭を引っ張って不満を口にする。
気安い関係っぽい。奥さんかな?
「すまんな、イーリア」
「謝るのならば、サフィーネにです。待たせてるのですから」
「そうだな。フィーネを呼んでくれ」
閣下が声を掛けると、僕らが入ってきた扉とは違う扉が開かれる。
「失礼いたします」
お澄まし顔の、青い髪の毛を巻いた黄色いドレス姿の女の子が入ってきた。
そして扉から歩いて閣下の横に並んだ。
そこにも台があるのだろう。彼女はその台に立って僕達を見つめる。
「サフィーネ=フランメシア=モーリアントにございます。遠方よりようこそ足をお運びくださいました」
その言葉に周りが頭を下げた。礼儀作法を学んだ僕も遅れはしない。コンラートもその辺の教育は徹底されていたのか、きちんと頭を下げている。
「フィーネ、あちらがダルウッド伯爵だ」
「ダルウッド領では多くの木材が西部を支えていると聞きます。西部のため、ひいてはフランメシア王国のためにご尽力感謝いたします」
「サフィーネ姫、お初にお目にかかります。跡継ぎのコンラートをご紹介させていただきます」
「コンラート=ダルウッドにございます。よろしくお願いいたします」
「同じ年に生まれた者同士ですもの。仲良くしてくださいね」
「はいっ」
うん、コンラートは上手に挨拶ができたようです。
「そちらがオルト子爵。お前のお気に入りを進呈してくれた西部最南端を守る強い領主だ」
「オルト子爵、はじめまして。ジルベールカード、とても気に入っておりますわ」
「お初にお目にかかります、サフィーネ姫様。そのジルベールカードを考案した息子を紹介いたします」
お父さんが頭をあげてそう言ったので、僕も頭を上げる。お父さんが頷いたので、僕の挨拶の番だ。
「お初にお目にかかります。アーカム=オルトの第二子、ジルベール=オルトにございます。僕の考案したゲームで遊んでいただき、嬉しく思います」
社会人として多くの相手と名刺交換を行っていた僕に、初めましての挨拶で緊張することなどない。
というかジルベールカードって正式名称なの? そっちの方が気になるんですけど?
「あとで一緒に遊びましょうね」
そう言いながら撫でてくる。この子も僕より大きい。年上っぽいな。
「はい」
接待プレイが必要かな?
「挨拶はここまでにして、食事にしよう。おしゃべりに口を動かすのは後でよかろう」
「ええ、秘蔵のワインも準備しましたわ。皆さん、お席についてください」
閣下の奥さんの言葉に、席に座る。
もちろんキッズイスに自分では座れないので、ここの使用人に持ち上げられて座らせられるのだが。
「次代を担う貴族の子の誕生に」
「「「 乾杯 」」」
大人たちはワインで、僕達はぶどうジュースで乾杯だ。
うまぁ、何このジュースっ!




