大きな街に来た。油断はできない
ゲームのイベント的なものがあると出発前に身構えていた僕だったけど、特に何事もなく旅は進んだ。
盗賊や謎の敵対組織の襲撃、そんなものはなかったのだ。
コンラートも魔物や盗賊が気になっていて近い話をしていたが、そもそも職業を持ち基本的に普通の人間よりも強い貴族と、貴族を護衛している騎士達に囲まれている僕達だ。
それに対して盗賊とは農民や冒険者崩れ。騎士に喧嘩を売るような人間はほとんどいない。
馬車の車列が長くなっていたので、魔物が現れる事はあった……らしい。
でも実際には報告を受けたお父さんの横にいて聞いただけなのである。
魔物が近づいていたとしても、僕達が気づく前に騎士達がやっつけてしまっていたからだ。
緊張感が薄れつつある僕だが、油断はできない。
騎士達がどれだけ強くても、勝てない相手には勝てないからだ。場合によっては空間魔法のゲートで逃げ出す算段も付けておかねばならないのだ。
「さて、今日の目的地に到着だ」
「おおきいっ、すげー」
到着したのは今まで通過した村どころか、僕の住んでいる領都よりも強固で迫力のある壁に囲まれた街だ。
「ようこそおいでくださいました。歓迎いたします」
今日はコンラートと一緒ではなく、お父さんとお母さんとシンシアが馬車にいた。
何かと思ったら、大きな街に到着するからだったようだ。
「ダルウッド伯爵家と共にご案内いたします。彼らの後を付いてきていただきますようお願いいたします」
「ああ、頼む」
お父さんが挨拶を簡単に返している相手は、レドリックと同じ騎士服を着た人だ。
同じ所属の人なのかな?
大きな門を抜けて街の中に入る。多くの人間が行き来をし、露店なんかも数が出ている。
「すごいだろう? 西と南の主要部から王都へ抜ける街の中で一番栄えている場所なんだ」
「人がいっぱい! お店も大きいし道も広いね!」
「ああ。多くの馬車が行き来する分、道が大きく作られているんだ」
「えっと、交易都市イーリャッハ、だっけ」
「そうだ」
イーリャッハ。西部と南部の都市からの中継基地としてこの辺りで一番大きいとされる街だ。モーリアント公爵が統治をしているこの都市は、近くにダンジョンも存在しているため冒険者も数多く在籍している。『ユージンの奇跡』でも良く利用していた街で、ここで購入できる武具は中盤あたりまで活躍するので、金策が必ず必要になる場所だ。
この世界に伝えられている『英雄ユージン物語』でも登場した街で、ガトムズが仲間になる街でもある。
「お父さん、大きな像っ!」
「あれは賢者ガトムズだ。ここは彼の出身地でもあるからな」
「おおー」
いかにも魔法使いといったローブに杖を構えた男の像。そんな彼を輩出したこの街では、ユージンよりもガトムズの方が人気らしく、街中に見える冒険者達の中には多くの魔術師だか魔法使いが見える。
僕の屋敷もゲームで登場した場所だけど、ユージンを推してはいない。
英雄ユージン物語で、ユージンの出身地が開拓村としか出ていないから出身地が明確にされていないからだと思う。
「どこに向かってるの?」
「とりあえず、宿だ」
「久しぶりにお風呂に入れるわね」
「そうですね」
お母さんとシンシアが嬉しそうにしている。
でもこんな大きな街に到着したからこそ、イベントが発生するかもしれない。いいイベントか悪いイベントか分からないけど、気を引き締めていかないといけないな。




