カード勝負
「して、これはなんなのだ?」
「『ジルベールカード』ですよ? コンラート君」
「じるべーるかーど?」
トランプもどきの事をジルベールカードと呼ぶのはウチのお母さんだ。
近い年の僕達は、伯爵の馬車にお邪魔していた。ウチの馬車より少し広い。
6人掛けの馬車だが、そこには僕達とお母さん達4人しか乗っていない。
子供同士でおしゃべりでもさせつつ、暇な時間を交流に充てようという魂胆なのだろう。
そこで披露されたのは、僕が作ったトランプもどきだ。
なんだかんだ言って最初の頃から数えて10セット以上作らされたこのカード、確かに馬車のなかで遊ぶのであれば軍盤よりも適しているね。
「カードとは、つまり武器ですの?」
「いえ、そういう物騒な品じゃないです」
普段カードはシンシアにシャッフルしてもらっているけど、今日はいないのでお母さんがディーラーだ。
馬車の中ではカードを広げられないので、一枚ずつ配布をしていく。
「ではこちらの遊びについて説明をいたします。ジルちゃん、最初は何がいいかしら?」
「ん、黒星でいいんじゃない?」
神経衰弱……数合わせの事だ。や、七並べなんかはテーブルに広げないとできないからこの場でできる遊びは限られている。
その中でも、特に難しくないのがババ抜きこと黒星だ。
ジョーカー代わりの黒い星を手元に最後まで残していた人の負けのゲームである。
「ではルールを説明しますね」
お母さんが自分のカードを公開して丁寧に説明を始めた。
遊びと聞いたコンラートも興味津々でその説明を聞いて、実際にカードを触ったりして確認をしている。
「分かりましたか?」
「はい、ありがとうございます」
とても素直なコンラートにほっこりしつつ、早速ババ抜きが開始された。
せっかくだから勝敗を紙に書こう。
「最初に何回かやってみて、ある程度慣れたら誰が一番勝ったか分かるようにしよう」
「む、いいな。ジルベール、負けないぞ。軍盤でのリベンジをさせてもらおう」
子供が相手だ。最下位の回数はチェックしないようにしよう。
準備を終えて、実際にやってみてカード自体とゲームに慣れさせる作業を何度も過ごす。
そしてそれを5回ほどやって、いざ本番である。
「む、いっきうちだな」
「ふ、負けないぞ」
気が付けばお母さんズが上がってしまい、僕とコンラートとの一騎打ちになった。
お母さんズは微笑ましいものを見るかのように、こちらを眺めている。
「こっちに黒い星はない。つまり持っているのはお前だな」
「隠す事でもないからね、ほら。これだよ」
僕はカードを見せると、手元の3枚のカードの並びを変えた。
そして真ん中のカードを取れやすそうに上にニョキっと出してコンラートに3枚のカードを提示した。
「……そんな見え見えの手に引っかかる訳なかろうっ!」
勢いよく僕から見て左側のカードをコンラートが素早くとる。
そこにいたのは、黒星。
「なっ、謀ったなっ!」
「ふふふ、相手の手が分からないのは軍盤の最初と同じだね」
僕はニコニコとしながらも素早くコンラートのカードを取った。
もちろんそれは数字のカード。カードが揃ったので僕の手持ちは1枚だ。
「くっ、鋭い」
「僕の勝ちだね」
何の事はない。いままでコンラートは基本的に左側のカードを取る事が多かったからそこに黒星をセットしておいただけだ。
コンラートのお母さんは結構まんべんなくカードを取っていたけど、彼は左側から取ることが多かった。
そしてカードを完全に混ぜる前に彼の手元の黒星のカードの場所を把握しておき、ささっとカードを抜き取るだけである。
確定していた勝利だった。
「勝者はマリアンヌ様ですね。お見事でした」
「なかなか奥が深いゲームですね。ウチにも欲しいわ」
コンラートのお母さん、マリアンヌさんはコゲ茶色の髪のマダムである。
この人もあまり年齢を感じない、ドレス姿ではあるけどどこか素朴な印象があるが伯爵夫人だ。様付けを忘れてはいけない。
「もう一度だっ!」
「ええ、時間はありますもの」
「お母さん、きってー」
「はいはい」
僕やコンラートの手には少し大きいカードだ。大人にシャッフルしてもらうのが一番である。
その手つきにコンラートが憧れるような視線を送る。
まあ、カードをシャッフルする姿って結構絵になるからね。僕の手が大きくなったらショットガンシャッフルを披露しようと思う。
あ、その前にシンシアに教えようかな。彼女ならできそうだ。




