初めての魔法。武器っていうのはとても重い
カウンターの中には他にも色々と置いてある。
魔術師が装備できる魔導書や杖、ナイフだ。
特に目立つのが、目の前に輝いている属性結晶。
この中から一つ選んで、魔法の系統を決めるのだ。
僕は迷わず水の属性結晶を手に取る。これも使い方が分からない。
とりあえず、属性を得たいと願う。
そうすると属性結晶が手の中で小さくなって消えた。
使えたのかな?
使えたとしても、まだ初級魔法のウォーターボールしか覚えていないはずだ。
でもゲームとは違う。
僕は手のひらに視線を向け、魔術師になった事で分かるようになった体内の魔力を少しだけ動かす。
「水、水、みず」
僕の小さな手のひらに。とても小さな水の玉が浮かび上がった。
「これが、魔法……」
すごい!
感動した!
やっぱりファンタジー世界! こうじゃないと!
属性は各種属性結晶を入手すれば増える。そしてその属性結晶はゲームではボスモンスターのドロップだったり、ダンジョンの宝箱から出るくらいでほとんど手に入らない物だ。
賢者……最初は賢者じゃなかったが、ガトムズは初めから火と時空の才能があったが。
とにかく貴重品である。
そうなると気になるのが他の属性結晶。
カウンターの後ろには他の属性結晶がいくつも飾られている。
ゲームでは一つしか選べない。
二個目を取ろうとすると、受付の人に『コラコラ、欲張っちゃいかんよ』と注意されて取れない。
しかしここは無人だ。
邪魔をするものは誰もいない。
「……二つ目ももらえたりする?」
もしかしてと思い、風の属性結晶を手に取る。
取れた!
「マジか! 中盤のダンジョンまで行かないと新しい属性結晶を取れないのに!」
攻撃力の高い火か、汎用性の高い水を取るのがセオリーだ。
しかし水も取れて、風も取れて、それぞれを使うことができた。
……じゃあ残りの火も貰おう。
「おお、すげえ!」
しかもここには基本属性以外の属性結晶もある。
中位、上位属性結晶だ。
この辺りのものは、最初は選べない。こんなものもあるよって教えられるためだけに飾られているんだけど……。
「取れちゃった」
無属性は念動や浮遊などの魔法。空間属性は転移や砕空といった魔法の習得が可能で、ストーリーの終盤にならないと手に入らない。
氷や雷、地などなどは中級。これも物語の中盤以降や、後半に差し掛かるくらいにならないと手に入らない。まあいらないものもあるけど。
無属性がないと属性魔法に強い魔物が出てきた時に苦戦する。空間魔法はダンジョンから一瞬で帰還したり、即座に別の街に飛んだりできる魔法を使えるのだ。まあ主人公勢の中に初めからその辺の魔法を覚えられる登場人物がいたけど。
「ま、今の僕じゃ使えないだろうけどね」
空間魔法は『く、MPが足りない』と言われるだけな気がする。
「まあストーリーの終盤にいくようなダンジョンに行かないと取れないから……ラッキーってことで」
すべての属性結晶を確保し吸収。これで苦労せずに全属性を入手できた。ゲーム内ではほとんど使われない属性もあるが、念のため入手。
ほころぶ顔が収まらない。
そして次は武器の入手。
初期で手に入る魔導書はMP回復を促進する効果が付いている。
ナイフは単純に攻撃をするためだ。
「お、重い」
杖も貰おうとしたけど小さな体の僕じゃ、両手を使わないと扱えない。魔導書とナイフで手いっぱいだ。
それじゃあJOBを上げるとしよう。
「ステータス!」
……うん。分かっていた。こんなことを言っても何も出ないって。
ゲームの世界だからと、ステータスとかメニューとかすでに試したんだ。ネットゲームじゃないのにログアウトとかも叫んでみたりね。もちろん何も起きない。
JOBを得たからでてくるかなとか思ったけど、やっぱり出なかった。
「おーけーおーけー、分かっていた。次だ」
次は領主様や兵士からお使いを頼まれて、他の事をする。
街の外にも出て初めての戦闘のパートだ。
でもいないのでスキップ。壁のレバーに目を向ける。
「ふぬー!」
届かないので近くに置いてあった木箱を運んで台にして、重いレバーを力いっぱい下す。
そうすると、壁の格子が上がり二匹の魔物が顔をだした。
「スリムスポアだ……」
チュートリアルの最後の説明で出てくる魔物だ。細身でにょろにょろと動く、赤い傘を頭に乗せたキノコの魔物。
10匹倒すとJOBレベルがぴったり1上昇するのである。また、同種討伐ボーナスの説明を受ける魔物でもある。
「まだ満足に魔法も使えないからね」
お母さんの説明だと、魔法を使いすぎると頭が痛くなるらしい。
こんなところで一人で頭痛に悩まされるのはしんどいので、ここはナイフで勝負だ。
「てやー!」
動き回らない僕の腰くらいの大きさのスリムスポア。チュートリアルダンジョンの魔物らしく、反撃をしてこない素敵な魔物だ。
十回ほどナイフで刺すことで、1匹倒すことができた。
続いて二匹目も倒す。
「よし、あと八匹こいやーっ」
二匹倒してしばらくすると、再び二匹現れたスリムスポアを倒す。
途中疲れたので休憩をはさみつつ、なんとか十匹倒してJOBポイント10入手。これでJOBレベルが1上がっているはずだ。
……ナイフもそこそこ重い、何度も刺し続けて疲れた。
今日はもう部屋に戻ろう。レバーを戻して格子を下し、入ってきた階段とは別の入り口に向かう。
そこには転送魔法陣が用意されてあり、それにドキドキしながら乗る。
出た場所は屋敷の外だが壁の内側。昔は何もない場所で今は薪小屋の裏に転移できた。