序盤で引っかかるゲームじゃなかったもの
僕は夜に授職の祭壇、チュートリアルダンジョンに訪れていた。
いつものように属性結晶を回収。もう属性結晶はすべて吸収ができない状態だ。
属性矢も回収して収納の中にしまった。
各属性の属性矢が収納に100本以上入っているので、100日以上ここに通った計算にはなる。まあ複数矢を放つ攻撃スキルもあるから、100本なんてゲームだとボス戦が1,2回あれば使い切っちゃうけど。
「解除っと。おお、今日はあるんだ」
スリムスポアのメダルだ。
一日に何体倒せているか不明だけど、や、ちゃんと計算すれば出るだろうけど面倒だからやっていない。
確率的に月に1枚でるかなって感じだ。ゲームで考えてもドロップ率が低い気がする。
「何もドロップしないと思ってたからなぁ」
攻略サイトになら載っていたかもしれないけど、僕はどうしても行き詰らない限り攻略サイトは見なかった。
こんな序盤の序盤で引っかかる事とかもなかったので、チュートリアルダンジョンの攻略記事になんか目を通していなかったのだ。
職業の選択に関しても、気に入らなかったり攻略に行き詰まったら変えればいいだけだったし。ここにくれば初級の職業には自由に切り替えられたのでやはりチュートリアルダンジョンの攻略記事に用なんてなかった。
「メダリオン化かぁ」
それをするには錬金術師にならないといけない。魔術師のレベルが上がったらまたここでなれるんだけど。
「できれば弓士かシーフを取ってから錬金術師になりたいなぁ」
弓士のコンセントレーションや、シーフの看破の瞳といったスキルは錬金術の成功率上昇の効果がある。
ここで月に1枚くらいのペースでコインが拾えるが、無駄に失敗はしたくないのだ。
つまらない魔物のコインが超高性能だったりするし。
そんな事を考えつつ、また炎の絨毯を発動させてスリムスポアを自動迎撃状態にする。
「JOBもかなり上がった。魔力最大値アップもレベル最大まできてそう」
JOB経験値によってJOBレベルが上がると、それだけそのJOBにあったパッシブスキルやアクティブスキルが手に入る。
魔術師の場合は保持属性の威力上昇や消費魔力の減算、魔力最大値の上昇、魔法防御力の上昇、魔法攻撃力の上昇などがパッシブスキルだ。
それに対してアクティブスキルは一度に同じ魔法を二度放つ『二重魔法』、魔法の威力を上昇させる魔法陣を地面に敷く『魔術の極意』、二種類の魔法を同時に放つ『ダブルマジック』、敵から魔法攻撃を受けた時に魔力を回復させる『魔術師の右手』などがある。
どれも一度発動させると5ターンから10ターン効果があるのだが、戦闘がコマンドバトルではないのであまり出番がなさそう。
「実戦をしてないからどれが有用だか分かんないんだよね」
魔術の極意とか、魔物との戦闘中に地面の魔法陣にこだわってたら攻撃を受けましたなんて話になりかねない。
「そもそもダブルマジックとか普通にできるし」
ゲームではないのだからと、試してみたら実際にできた。もちろん威力のある魔法で試したわけではないので有用性は不明だけどできるのである。
右手でフレアアローを、左手でアイスアローを生み出して二匹のスリムスポアにぶつけることに成功しているのだ。
「二重魔法もなぁ」
生み出した魔法を自分のタイミングで放てるのだ。いくつもの炎の球を空中に浮かせて、任意のタイミングで飛ばせば二重魔法以上の効果が生み出せるのである。
「なんか、ありがたみがないのよね」
せっかくの異世界だからと魔法職である魔術師に最初になったけど、パッシブスキルはともかくアクティブスキルが微妙過ぎた。ゲームではめっちゃ有用だったのに。
「ゲーム特有の攻撃魔法なんかほとんど使わなそうだし」
自分のイメージで魔法が使えるので、ゲーム時代の魔法よりも自分で考えた魔法の方が自由度が利いて便利に見える。
「実際使ってるのって生活魔法レベルだけど」
お庭で転んで手が汚くなった時は水の魔法で手や顔を洗ったり。
お部屋でお布団を持ち上げる時に念動魔法で持ち上げたり。
夏場の暑い日には涼しい空気を欲して周りの空気を冷やしたり。
お風呂上がりの牛乳をこっそり冷やしたり。
寝る前のお布団が冷たいので温めたり。
シンシアにバレないレベルで、こっそりと地味な魔法を使うのが楽しくてならない時期があったのだ。何度かバレるたびにお父さんにお説教をくらったり、油断してお母さんにバレてお母さんに叱られたりもした。
幸い人に撃つような機会はなかったので、シンシアに殺されていない。
「とりあえず、しばらくはお預けだ」
今年、僕は5歳になる。
クレンディル先生が早めにお披露目に連れていくべきだと主張したため、お披露目に王都へ行くのだ。
貴族の子供は人前に出せるよう教育を家で受け、問題がなければお披露目を行う。お披露目の相手は自分の上司にあたる相手。
そして領主であるお父さんの場合、お披露目相手は国王になる。地方領主なので本来であれば地方統括の公爵や侯爵へお披露目でいいのだが、お兄ちゃんのせいで国王に挨拶をしないといけないらしい。
「子供の頃からストーリーが展開するタイプのゲームだと、ここがスタートラインかもしれない」
お父さんに連れられて外に出て、お父さんが殺されるなんてところからストーリーが本格的に始まる様な鬱なスタートを切るゲームが国民的なゲームだったりする日本だ。
王都で何かしらイベントが始まるかもしれない。というか、始まるだろう。
「実力的には不安しかないから油断はできないぞ」
危険な目になんかあいたくないし、痛いのもごめんだ。
ゲームの主人公や、キャラクターに転生したであろう僕は油断できないのである。
貴族の謎風習のせいで屋敷から外にでれなかったので、魔物を倒しての経験値上げができなかったのが悔やまれる。
僕は決意を胸に、王都へと思いを馳せる。
……可愛いヒロインとの出会いがあるイベントがあるだけならいいのに。




