目が笑ってないっ!
「以上のように、相手によって挨拶の方法は変わります」
「自分と相手の立場を明確に把握していないと難しそうですね……」
礼儀作法は、貴族に求められる必須技能と言えるだろう。
特に僕は、ゲームのストーリーの関係上、貴族の助けを必要としたり貴族を助けるクエストが発生する可能性が高い。
どんなゲームなのかは未だに分からないけど。
ゲームのストーリーの展開によっては、より権力を持った人間を説得しなければならない時が来るかもしれない。
そもそもお父さんとお母さんを馬鹿にされるような真似はできないのだ。全力で勉強しなければならない。
「ちなみにジルベール坊ちゃま。ご自身のお立場はどのようになっているか分かりますかな?」
「えっと。子爵の第二子、です」
「それは貴族ですかな?」
「えっと、貴族ですよ、ね?」
違うの?
「国の法の視点から見ると、子爵家の子供は貴族と扱いません。侯爵家と公爵家の子供のみ、正式に貴族として扱われます」
「そうなんだ? じゃあ平民ってこと?」
「それも正確ではございませんな」
クランディル先生が首を横に振った。
「どういうことなの?」
「周り次第です」
「周り次第?」
「例えばこの場に国王陛下がいたとしましょう」
「うん」
「国王陛下がジルベール坊ちゃまを貴族として扱えば貴族です。そして平民として扱えば平民です」
「ええぇ?」
「ジルベール坊ちゃまの場合アーカム様が子爵でございますから、他の子爵家から見るとジルベール坊ちゃまも貴族として扱われます」
「明確に定まってるわけじゃなくて、その場で力を持つものに決定権があるような感じですか?」
「まさにそうです。ですが侯爵家より伯爵家の方が派閥などの関係で力が上だったりすると、複雑になっていきます」
面倒そうだ。
「僕はどう考えれば正解?」
「基本的に自分は子爵家の息子であり貴族の一員であると考えていただいて結構でございます。ですが、ジルベール坊ちゃまを貴族と扱わない者がおります。そこをお忘れないようにしてください」
「そういうのの相手はしたくないなぁ」
「お気持ちは分かりますが、その場合は軍盤で勝負でもすれば良いでしょう。これで勝てば大抵の相手は黙らせられます」
「クレンディル先生ならではの解決方法ですね……」
軍盤を覚えたての僕ではとても使えない方法だ。
「貴族としての立ち居振る舞いや知識で、何か一つでも上回れば良いのですよ。そうすれば相手は何も言えなくなるものです。平民と戦って負けたと周りに罵られるわけですから」
「貴族って面倒くさいね。でも立ち居振る舞いや知識、軍盤なんかでも勝てないのが相手だったら?」
どうしようもなくない?
「すべてにおいて優位に立てられるような方は、立派に貴族としての教育を受けておりその御心も豊かにございます。そのような方が周りの貴族の子や下位の貴族を見下すような真似はしますまい」
「そういうものですか」
なんか言い含められているだけな気がしなくもない。
「ジルベールお坊ちゃまはとりあえず王族への御挨拶を完璧にしなければなりません。お披露目の時にお言葉を賜るのですから。王族の周りには領主であり子爵であるアーカム様よりも上位の役職を持つ方も多くいらっしゃるでしょう。そういった方への御挨拶も覚えませんといけませんな」
「がんばる」
大人だった僕は社会人として、立場が上の相手と話したり交渉したこともあった。クレンディル先生の言うことの大事さは身をもって知っている。
文化の違いは当然あるけれども、立ち居振る舞いが物を言うのはどの世界でも同じと言える。
本当に気合を入れて覚えないといけないぞ。
「では今日はご挨拶の練習をいたしましょう。この爺が様々な役職に変わりますので、それに合わせてご挨拶ができないと合格点はだせませんからな?」
「はぁい」
「その間延びした返事も矯正しなければなりませんな」
ニコニコ笑顔のお爺さんだけど、最後の一言は迫力を感じた。
いえ、分かっているんですよ? でも舌ったらずなんで、気を付けますとしか言えないんです。




